chapter10 撤収開始、4分間で支度終了
洞窟の中は下層の安全地帯と同様に、清水が湧きだす壺とトイレ用の壺があるだけで代わり映えはしないけれど、多少は生活に配慮したのか、彼女たちによって床の上に干し草が敷かれて、手製の棚みたいなのが作られ、そこに干し肉とか乾燥中の果実がぶら下げてあった。
「この状況で洞窟内に虫の一匹も入って来ないっていうのも不自然だな」
熱帯雨林っていったら鬱陶しいほど虫がたかるってのが相場だけど、異様なほど清潔に保たれて、ただ干し草の匂いと果実の香り、ついでに女子高の更衣室のような女の子特有の汗と体臭の匂いが籠っているだけである。
スンハスンハ……と洞窟の中央で女子汁の匂いを堪能する俺と、出口のところへ移動して表の様子を子細に観察する瀬尾さんに向かって、狩人であるリーフェが釈然としない表情で、
「そ、《穢穴》の中って生態系が無茶苦茶よ。階層が替われば砂漠だったり沼だったり。森の中でも本来生息する草食や雑食の獣が皆無で肉食獣や魔物ばっかだし、虫もないのに花が咲いて果実が実るし、試しに種を別な階層に持って行って植えても、いつまでたっても芽を出さない、完全に他と遮断された世界みたいだし」
「ビオトープみたいなものね」
うんざりしたリーフェの説明に、瀬尾さんが案外この《穢穴》の本質を突いたかも知れない、何気ない感想を口に出した。
「それはともかく、ここにいる魔物の種類と強さは?」
「猪頭鬼と犬頭鬼、それと骸骨兵ってところね。レベルがオークはLv15前後、コボルトは12前後、スケルトンが11か10ってところじゃないかと思うわ」
リーフェの説明に、俺はふむ……と考え込んだ。
「ちょっとギリギリだな。できればLv10以下の相手を、ある程度数を倒して全員のレベルを上げておきたいんだが?」
同レベル帯では、不測の事態に対処しきれない可能性が高い。
「えっ、ナオキ。ボクたちとチームを組んでくれるの!?」
意表を突かれた表情でフローリスが瞬きをする。
リーフェとシーラも意外な表情で顔を見合わせている。
「いや、普通に考えて全員が協力しないとこの先は攻略できないだろう?」
「そうよ。それに折角生き延びて出会えたんだから、全員で生き延びて脱出して、この国のいけ好かない巨乳どもに一泡吹かせてやらないと腹の虫がおさまらないわ!」
なおフローリスたちの話では、もともとあったこの《穢穴》の出入り口は完全に塞がれていて、その上に神殿が建っているとのこと。
彼女たちは一層のところに強制転移させられたらしい。
だからここから脱出するには、最下層のボスを倒した時に現れる、外部への転送陣を使って出る以外にない……とのことだが、いまだかつて脱出できた者はいない、実質的な処刑場に使われているのだとか(なお、人は資源なので、この世界には死刑制度はない。代わりに『《穢穴》送り』があるのだそうだ)。
「それに戦闘職二人に、魔術師、狩人、神官となればパーティとしてのバランスもいいしね」
俺の続けての言葉に、
「――やっぱり、ナオキは鑑定系のスキルをもってたんだね? なんとなくそうじゃないかと思ってたけど、けど、それならボクたちのレベルやスキルもわかるだろう? とてもふたりについていけるモノじゃないよ」
納得と同時に諦観を滲ませてそう肩を落とすフローリス。
「ん~~~っ」
俺のスキルの事をバラシてもいいものかと瀬尾さんに目線で確認すれば、「いいんじゃない」と、軽く肩をすくめられた。
「あー、それなんだけど、俺のスキルでどうにかなるかも知れない」
「え?」
キョトンとするフローリスたちに、俺のスキル『変質者』を説明したが、明かに半信半疑……いや、眉唾ものの表情を浮かべる三人。
だったら論より証拠というわけで、三人に了解を貰ってそれぞれのスキルを『変動(1ランク上)』をかけてみせた。
○フローリス
・名前:フローリス=クライフ
・年齢:16歳
・Lv10
・HP:33(32)
・MP:61(61)
・筋力:28(28)
・知力:46(46)
・敏捷:22(22)
・スキル:『傾国傾城』『水属性魔術(中級)』『火属性魔術(中級)』『魔力回復(中)』『使役』
○リーフェ
・名前:〈青の森〉ヨークス族の娘・リーフェ
・年齢:15歳
・Lv9
・HP:23(23)
・MP:27(27)
・筋力:26(26)
・知力:19(19)
・敏捷:32(32)
・スキル:『狩猟(上級)』『連射』『投擲武器(上級)』『鷹の目』『植物知識Ⅲ』『音楽の達人』
○シーラ
・名前:シーラ・クロタル
・年齢:17歳
・Lv11
・HP:46(46)
・MP:34(34)
・筋力:52(52)
・知力:22(22)
・敏捷:18(18)
・スキル::『神聖魔術(中級)』『戦意高揚の歌(中)』『鍛冶(上級)』「細工(中級)』『料理(中級)』
「「「なんじゃこりゃ~~~っ!?!」」」
ステータスを確認した三人の驚天動地の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。
混乱する三人を「こーいうもんだ」という、雑でふわふわした説明で(何しろ俺がわからないんだから)なんとか小一時間ほどかかって鎮め、落ち着いたところで今後の方針について再度話し合う。
「た、確かにこれなら行けるかもっていうか、ほとんど反則じゃないの、こんなの!?」
「でも、凄いよ! こんなの宮廷魔術師でもベテラン並みだよ」
「アタシも正神官で通りますよ! 『戦意高揚の歌(中)』で筋力と知力がプラス15ですよ! 戦いになったら歌いまくりますよぉ!」
「「――え……っ?!」」
張り切るシーラとは対照に、なぜか顔を引き攣らせて脂汗を流すリーフェとフローリス。
それからこっそりと忍び足で俺の傍に寄ってきたリーフェが小声で聞いてきた。
「……ねえ、レベルが上がると歌も上手になるとかの恩恵もあるの?」
【解・『戦意高揚の歌』は『歌唱技能』スキルではなく、補助スキル扱いなので変わりません。】
「「デスヨネー」」
意気消沈するふたりの態度に、ピンと来た俺と瀬尾さんも顔を見合わせて、小声でささやく。
「……ジャ○子?」
「……ジャ○アンリサイタル?」
本人が張り切っているのに文句をつけるわけにもいかない、ジレンマに悩まされるリーフェとフローリスを前に、俺たちは揃って首を傾げた。
「こうなれば、苦戦しないうちに速攻で敵を倒すしかないわ!」
「それしかないね」
手製の弓矢を胸元に抱きしめて、自分に言い聞かせるように、周囲に宣言するリーフェの言葉に、フローリスも同意した。
「まあ、なんでもいいけど、当初の予定通り比較的レベルの低い相手がいる階層まで移動したほうがいいだろうな」
「わかったわ。ここから一番レベルが低い相手がいるのが、三層上がった二十一層の草原エリアね。ここの魔物の平均レベルは7~10ってところよ」
「その上は例の階層ボスだった高等猪頭鬼がいたボス部屋なので、どっちにしても上に行くスロープが消えているのでどん詰まりなんですけど~」
シーラの説明になるほど、どっちにしても下に順に降りるしかないかと納得する。
そんなわけで、この拠点からはいずれにせよ撤収をするので、五人で手分けして、収納バッグに入れられるだけのものは入れて、棚も分解するのを含めて4~5分で終わった。
『傾国傾城』のような上位スキルは、本来、ひとつでスキルスロットを10とか潰しますので、簡単にコピーしたりできません。
それと、もともと種族スキルに近いので、他の人だと装備自体出来ない可能性が高いです。




