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chapter9 登って15分、上層は熱帯雨林エリア

 事後――。

「ううう……う、ヒドイ、酷いよ……」

 まさかの仲間の裏切りを前に、乱れた衣服を正しながらさめざめと泣くフローリス。

 その向こう側では、瀬尾さんと意気投合をしたエルフのリーフェと、ドワーフのシーラが満足げな表情で朝食を共にしていた。


「いや~、ワタシも前々からフローリスの性別には疑問をもってた口なのよね」

「あたしもです! 白黒ついて胸のつかえが落ちた気分です!」


 しみじみと語りながらふやかしたパンを飲み込む――説明を聞いて即座に掌を返して剥くのを手伝った――エルフならぬエ()フと、元気一杯同意する天然幼女ドワーフ。


「ホントね~。本当にちゃんとツイてるモノ、ツイてたわね」

 そして率先して欲望を満たした結果、憑き物が落ちた表情で快活に笑う瀬尾さん。

「可愛らしかったですね~」

 思い出して小動物を愛でる瞳で語るシーラ。


「いや、あれはまだ第一段階で、その後段階を経て、最終的に『完全体』になると見た目も迫力も一変するんだ。――見るか?」

「「「朝からそんなもん見せるなーーーっ!!」」」

 親切心から提案しつつ、ズボンのチャックを下ろしかけた俺目掛けて斧と矢と丸太が飛んできた。


 どうにか躱した俺の傍では、

「ううう、ボク、汚れちゃった……」

 女三匹の毒牙にかかったフローリスが悄然と肩を落として立ち直れないでいる。

 チャックを戻した俺は、その細い両肩に手をやって、スキル『下僕(したっぱ)』に上書きしたフローリスの『翻訳』を使って、可能な限り優しい口調で慰めの言葉をかけた。


 ちなみに『強姦魔』もスキル『変質(逆転)』で軌道修正させてある。あと、ついでに強化の護符を使って、鉄剣を強化させた。

 そのため、現在のステータスは――。


・名前:上北直輝

・年齢:16歳

・Lv13

・HP:63(63)

・MP:55(22)

・筋力:70(70)

・知力:24(24)

・敏捷:48(48) 

・スキル:『変質者』『賢者(ナビゲーター)』『剣術(上級)』『罠探知中級』『遠見』『対人型魔獣特化(中)』『翻訳』『正義漢』→『主人公補正』


・銘:無

・属性:無

・物理攻撃力:26(26)

・物理防御力:18(18)+4

・魔法攻撃力:0

・魔法防御力:0

・スキル:『硬化(小)』『自動修復(小)』『刺突(中)』『防錆』『重量変動(上下30%)』


 という、なかなか充実したものになった。

 まあ、上書きするのにあたって、『翻訳』の上位互換である瀬尾さんの『使役(ティム)』でもよかったんだけど、さっきまで喋れなかったのが、いきなり『翻訳』の上位スキルを使えるようになったとか、どうかんがえても不自然なので、あくまで「なんと、気が付いたら『翻訳』ができるようになっていた。さすがは異世界人」という多少は誤魔化しのきく『翻訳』にしておいたのだ。

 いや~、なかなかフローリスから『翻訳』を複写するのに引き当てられなくて、かなりMPを使っちまったぜ。


 あと、『強姦魔』を逆転させた『正義漢』の効果は、

【解・善良な目的でLvが高い者と戦う際に、すべてのステータスが15%増幅されるものです。】

 というカッコいいもので、さらにスキル『変動(1ランク上)』をかけた『主人公補正』は、

【解・このスキルを持った者が、自分よりLvが高い者と戦う際に、すべてのステータスが30%増幅されます。※小数点以下は切り捨て。】

 という、まさに難局に相応しいものであった。一応これは瀬尾さんの『強姦魔』も変質させてある。


 でもって、俺は傷心のフローリスの小さくて細い、すべすべした両手を握って、

「大丈夫。野良犬に咬まれたようなものだよ、フローリス。君は汚れていない。初めて会った時からずっと綺麗だよ」

「くすん……本当に?」

「ああ、嘘なんてつかないさ。困ったことがあれば、今後は俺を頼ってくれ。男同士、なにがあっても俺は君の味方さ」

「ナオキ君……」

「『君』付けなんて水臭いぜ。友達……かけがえのない背中を預け合う親友じゃないか。『ナオキ』って呼んでくれ」

「ナ……ナオキ。なんだか照れ臭いよ」

「ふっ、すぐに慣れるさ」

「ナオキ……」

 潤んだ瞳で俺を見据えるフローリス。

 キラキラとした粒子がお互いの間を結ぶ。

 男と男の友情が成立した瞬間であった。


「はいはい、いちゃつかないで、ご飯を食べたら上層へ移動するわよ」

 そんな俺とフローリスの間を無理やり横切って、さっき投擲した斧とかを回収していく瀬尾さん。

「ああん、ナオキ……!」

 無理やり握っていた手を振り解かれたフローリスが切なそうな声を上げた。


 ◇


 ということで飯を食べたというか、無理やり流し込んだ俺たちは身支度を整えて(制服を着てスニーカーを履いただけだけど)、荷物を持って(といっても瀬尾さんの持つ収納バッグに入っているのがすべてだが)スロープの下まで移動する。

 ついた先のスロープを見て、リーフェが苦い顔をして何もないスロープの上下を確認して肩をすくめた。

「あちゃあ。(つた)で編んだロープを下ろしておいたんだけど、この短時間で《穢穴(アビス)》に吸収されちゃったみたいね」

「半日くらいは持つかと思ったんですけどね」

 こちらも予定が狂った表情で顔をしかめるシーラ。


「た、多分。フロアボスの『斬首牛』をリポップさせるのに、猛烈な勢いでこの階層が有機物を吸収しているんだと思う」

 この手の事には詳しい元宮廷魔術師見習いのフローリスが説明を加える。

 なお、リーフェとシーラのステータスは、


○リーフェ

・名前:〈青の森〉ヨークス族の娘・リーフェ

・年齢:15歳

・Lv9

・HP:23(23)

・MP:27(27)

・筋力:26(26)

・知力:19(19)

・敏捷:32(32) 

・スキル:『狩猟(中級)』『速射』『投擲武器(中級)』『遠望』『植物知識Ⅱ』『楽器演奏』


○シーラ

・名前:シーラ・クロタル

・年齢:17歳

・Lv11

・HP:46(46)

・MP:34(34)

・筋力:52(52)

・知力:22(22)

・敏捷:18(18) 

・スキル:『神聖魔術(初級)』『戦意高揚の歌(小)』『鍛冶(中級)』「細工(初級)』『料理(初級)』


 どうやらスキル構成からして、リーフェは狩人、シーラは神官兼鍛冶のようだ(あとで聞いたら『鍛冶神の神官補佐』だったとか)。あと、なにげに一番子供っぽいシーラが年上だった。


「そーいや、エルフって不老長寿じゃないんかい?」

 ふと気になった俺の疑問に、リーフェが辟易した表情(かお)で、

「あー、なんか異世界では変な迷信があるみたいだけど、老化が遅いだけで寿命は変わんないわよ。つーか、異世界人が持ち込んだ迷信のお陰で、エルフに若返りの秘薬があるとか、エルフの肉を食べたら寿命が延びるとか言われて、エライ迷惑なのよね~」

 マジでどうにかして欲しいわ、と吐き捨てられた。


 ともあれ、ロープがなくては上には登れないということで、当初の予定通り俺が下で両手を組んで、それを足場に瀬尾さんがジャンプすることになった。

「いけるか?」

「余裕ヨユー」

 自信ありげに5メートルほど助走の距離を置いて、軽く屈伸をした瀬尾さんが一気にトップスピードに乗ったかと思うと、アッという間に俺の手を足場にして――危うく反応が遅れるところだったけど、どうにかタイミングを合わせて一気に、大根を抜くような勢いで両手を持ち上げる――軽々とジャンプした。


 ふむ、ブルーと白のストライプか……。


 制服のスカートを翻し、スロープの出口に両手をかけるどころか、軽々と体ごと出っ張りになっている部分に飛び込む瀬尾さん。

 感心する俺たちに向かって涼しい顔で手を振って、拾ったロープをリーフェから説明を受けていた、ロープが引っかけられそうな岩に結んだらしい。ロープの端が落ちてきた。


「素人が結んだ奴だからな。念のために先に俺が昇って確かめてくる」

 この程度の高さなら、万一結び目がほどけても着地できるだろう。

 そう判断して、まずは俺がロープを軽く引っ張って、一応大丈夫そうなのを確認して、両手の力だけで這い上がる。


「いらっしゃ~い♪」

「どうせなら『いらっしゃいませご主人様』とか言って欲しいな」

「どこのメイド喫茶よ」

 軽口を叩きながら、ロープの端を確認すると案の定、素人の結び方だった。

 ため息をついてロープを解いて、改めて荷物を縛る『もやい結び』に結び直して、下で待っている三人に登ってくるように声をかけた。

 リーフェは軽々と、シーラはバランス感覚の問題で、フローリスは単純な腕力の問題で手こずっていたので、上の三人で引っ張り上げた。


 で、ロープを解いてまた瀬尾さんに収納してもらってから、リーフェ、瀬尾さん、シーラ、フローリス、俺の順番でスロープを四つん這いで登り始める。

 慣れているリーフェを先頭に、危機察知能力が高い瀬尾さんが前になり、こういうのが苦手そうなシーラとフローリスをフォローするために、俺が最後尾になった形だ。


「だからってパンツを覗いたりしないようにね!」

 瀬尾さんに念を押されたが、

「大丈夫だ。俺が興味があるのはパンツの中身の方で、布切れにはさほど興味はない」

「……それって安心するべきなのかしら?」

 不可解な表情で首をひねる瀬尾さん。


「あの、ナオキのすぐ上ってボクなんだし、男同士なんだから別に見られても問題ないよ(それに全部見られたわけだし……)」

「ふっ、俺もフローリスの尻には並々ならぬ関心あるので、遠慮なくじっくりと鑑賞させてもらおう」

 フローリスが俺の擁護をしてくれたので、俺も誠意をもってそれに応えたところ、

「アッーーーーーーー!」

 なぜかフローリスがお尻を押さえて俺から距離を取った。


 ということで、妙にシャカリキになって登るフローリスにせかされる形で、俺たちは結構な急勾配を15分ほどかけて登り切った。


 で、出たところは――。

「ジャングル!?」

 あ然とした面持ちで周囲を見回す瀬尾さん。

 見渡す限りの熱帯雨林が広がるジャングルの中、崖にぽっかりと開いた洞窟の奥にあったスロープの入り口だった。

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