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ブラッド  作者: 直井 倖之進
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第二章 『選ばれた血』①


             第二章 『選ばれた血』


 三人の仲間を失ってからひと月後の六月。俺は、まだ生きていた。

 これまでいた場所を離れ、駅の裏通りへと住処を移してはみたものの、心の傷が癒えることは決してなかったし、無論、“ドグマウイルス”の恐怖は、絶えず俺の頭のど真ん中にあった。

 しかし、塞ぎこんでばかりはいられない。動き出さなければ、俺たち路上生活者は、感染を待つことなく飢えで死んでしまうのだ。

 俺は、無理やりに自分を奮い立たせ、鉄線や銅線、空き缶集めの毎日に精を出していた。

 そして、忘れもしない六月十九日。ある小さな出来事が、俺の身に起きた。

 それは、これよりのちの俺の人生を一変させるきっかけとなる出来事だった。

 

 六月十九日、朝。突然何かを投げつけられ、俺は飛び起きた。慌てて確認したそれは地方新聞紙だった。恐らく、通勤途中のサラリーマンが捨てて行ったのだろう。

 「わざわざテントの中に投げこまなくてもいいじゃないか。俺の住処はごみ箱か?」沸き上がる憤りを犯人にぶつけようと、俺はテントを飛び出した。

「誰だ! 人の寝どこに、新聞なんぞ投げこみやがったのは!」

 空き腹に響くのを堪えながら、それでも俺は懸命に怒鳴った。

 だが、通りを見回してもそれらしき人物は見つからない。OLらしき二人の女が、ちらちらとこちらを見て、迷惑そうな顔で何かを話しているだけだ。

 「くそっ! 今日は厄日だ!」そう思いながら俺は、女たちから視線を外すと、手に持つ新聞へとそれを落とした。

 新聞の日付は今日、六月十九日となっていた。

 ということは、今日中に読むのであれば、古新聞ではなく新聞。ごみではない。

 俺は、紙面の隅ずみまで目をとおすことで憤りの元を取ることにした。

 一面トップの見出しは、“ドグマウイルスでの死者、一万人を超す”だった。いきなりの読みたくもない内容に、俺は、隅ずみまで目をとおすという目標を早くも諦めた。

 ペラペラと紙面を捲っていく中で、求人広告欄に目が止まった。

 何か金になる仕事はあるだろうか? 

 俺たちのようなホームレスは、住所不定であることが大きなネックとなり、定職に就くことが非常に困難だ。それゆえ、「どこか、住み込みで働けるような場所でもないだろうか?」と考え、俺は求人の一つひとつを丁寧に指でなぞっていった。

 すると、小さな求人欄の中でもひと際小さな欄に、『新薬被験者募集』という文字を見つけた。

 この手のバイトは、学生時代に聞いたことがある。新薬の安全性や効能を確かめるため、病院で実際に薬剤投与を受ける仕事だ。数度の通院ですむものから、十日程度の入院が必要な場合まである。結構実入りのよい仕事で、当時の報酬は、四泊五日で七、八万円ほどだったと思う。あのころはあまりおおっぴらに募集をかけるようなものではなかった気がするが、時代が変わったのだろうか?

 「いったい今は幾らぐらい貰えるのだろう?」書かれている金額を確認すると、そこには、『四泊五日、百万円(交通費及び諸経費別途支給)』そう記されていた。

「ひゃ、百万?」

 俺は、裏通りに頓狂な声を響かせた。この時世に、五日間で百万円の仕事など聞いたことがない。

 「怪しい。絶対に怪しい」そう考えながらも俺の両眼は、まるで悪魔に魅入られたかのように、百万円の文字に釘づけになっていた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、6月25日(月)を予定しています。

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