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ブラッド  作者: 直井 倖之進
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第一章 『ウイルスの恐怖』③

 ずっと暗いところにいたせいか、外に出る俺の両目に、沈みかけの西日がやたらと眩しく飛びこんできた。

 赤く輝く太陽を睨みながら俺は、「訳の分からないウイルスなんかに、殺されてたまるか!」と、強くこぶしを握り締めた。

 その時、俺は背後から名を呼ばれた。

 振り返ってみると、視線の先には佐々木がいた。

「僕たちの夢、どうやら実現できそうにありませんね」

 佐々木は、寂しげにそう言った。

 「まぁ、どうにかなるさ」喉元まで出かかった楽観的なその言葉を、俺は飲み込んだ。根拠のない発言などできる状況ではなかったのである。

「……」

 俺は黙って佐々木から目を逸らすと、それを西日に向けた。

 真っ赤な太陽は、俺に、ゲンさんの全身から流れていた血の色を思い出させた。

 

 暫くの時が経ち、佐々木が口を開いた。

「牧さんの話じゃないですけど、……神様、いるといいですね」

 そんな言葉に合わせて、俺は答えた。

「そうか? 俺は、神様より、“ヤジカマン”がいてくれたほうがいいけどな」

「“ヤジカマン”? それって、何ですか?」

「ん? お前、まさか、『地球防衛隊! ヤジカマン!』を知らないのか?」

「はい」

 当然のように頷く佐々木に、俺はがっかりした。

「『地球防衛隊! ヤジカマン!』は、俺が幼稚園に通っていたころに放送されていたアニメだよ。確かに古いが……、でも、本当に知らないのか?」

「え、えぇ、すみません。それで、どんな内容だったんですか?」

「普通のサラリーマンだった男が、ある日突然正義に目覚め、地球征服を狙う怪獣たちと戦うんだ。だけど、主人公は別に鍛えていたわけでも特殊能力があるわけでもないから、いつもボコボコにやられてしまう。まぁ、それでも、土下座をしたり名刺交換をしたりしながら、最終的には、怪獣を説得して宇宙に帰すんだ。……それにしても、今考えると矛盾だらけのアニメだったな。怪獣が名刺を持っているはずがないし、“防衛隊”なのに戦うのは“ヤジカマン”だけだったし」

「子供が見るアニメなんて、そんなものですよ。でも、その矛盾が面白い場合もあるんですから。ところで、最終回はどんな終わり方だったんですか?」

「最後か? 最後はな、“ヤジカマン”が死ぬんだ」

「え? ハッピーエンドじゃないんですか?」

「そうだ。最終回は、都会の大きな通りで戦うんだが、やっぱり負けてしまうんだ。だが、いつもと違ったのは、倒れた場所に大きな石があったことだった。石で頭を強打した“ヤジカマン”は、搬送された病院で、“こんな何の取り柄もない俺でも、ヒーローになれると思っていた。俺は、地球を守るヒーローになりたかったんだ!”そう叫びながら息を引き取るんだ。その様子は何故か全世界に生中継されていて、心動かされた世界中の子供たちが日本に集まってくる。そして、皆で力を合わせて怪獣を宇宙に帰すんだ。そんな内容の話だったな。アニメの最後に流れた言葉は、今でもはっきり覚えているよ。『皆のヒーロー、“ヤジカマン”はもういない。だけど、皆も“ヤジカマン”のように、地球を愛する気持ちを胸に生きていこう』だったよ」

「へぇ、ふざけているのかと思えば、結構、メッセージ性の強いアニメだったんですね」

「あぁ。“ヤジカマン”は、今でも俺の憧れのヒーローだよ」

「現れるといいですね、“ヤジカマン”」

「そうだな」

 佐々木の言葉に、俺は力強く頷いた。


 しかし、次の日。五月十五日の早朝に牧さんが、そして、その日の夜には佐々木が、相次いでこの世を去った。二人とも、ゲンさんと同じように体中から血を流して死んでいた。

 もちろん、俺は悲しかった。

 だが、それ以上に怖かった。

 「次は俺の番だ」そんな思いだけが、まるで回転灯篭のように頭の中で何度も繰り返されていた。

 小さなテントで煎餅布団を頭から被り、俺はただ震え続けていた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 今話で第一章が終了。次話より第二章に移ります。

 次回更新は、6月22日(金)を予定しています。

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