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ブラッド  作者: 直井 倖之進
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最終章 『ヒーローになりたくて』①

           

          最終章 『ヒーローになりたくて』


 あの日、新薬研究施設で医師から、「世界を救ってくれ」と頼まれ三か月が経った。

 今も俺は東京にいる。

 国内でも有数の超高級ホテル。その最上階、ロイヤルスイートルームが現在の住処だ。

 午後三時四十五分。寝室のキングサイズのベッドに横になった俺は、これまでの出来事を思い返していた。


 この三か月で、色いろなことが分かった。

 ゲンさんや牧さん、佐々木の命を奪った“ドグマウイルス”。それは、俺が牧さんからその話を聞いた時には既に、全世界に深刻な事態をもたらしていたらしい。

 六月十九日。厚生労働省は、最終手段とも言える“ドグマウイルス”の対応策を取った。新薬被験者募集だ。

 しかし、それは“虚偽広告”だった。あのアルバイトは、“治験という名の実験”だったのである。

 からくりはこうだ。

 先ず、百万円という大金を掲げ、大々的な被験者募集を行う。当然、たくさんの志願者が集まった。それは、俺を含めて十万人という数だった。厚生労働省から委託を受けた製薬会社は十万人の採血を行い、“選ばれた血”を持つ可能性のある人物、百人を絞りこんだ。

 次に、その百人を新薬研究施設に集め、治験だと称して薬剤投与を行った。だが、投与されたのは、新薬ではなく、“ドグマウイルス”だった。いったい、どうしてそのようなことをしたのか? それは、“ドグマウイルス”に感染しない者を探すため、だったのである。感染しなかったのは、図らずも俺だった。しかも、俺の体は、“ドグマウイルス”を打ち消すだけでなく、その血中にウイルス抗体をも作り出していた。つまり、俺の血液から“ドグマウイルスワクチン”を採取できることが判明したのである。

 医師は、“ドグマウイルス”に感染した俺以外の被験者九十九人にワクチンを投与すると、百万円を渡して何事もなかったように帰らせた。そして、ウイルス抗体を持つ俺に、「世界を救うために働いて欲しい」と頼んだのである。

 医師から俺が、「十万人に一人の“選ばれた血”を持っている」と言われた所以、それは、俺の体が「“ワクチン製造器”としての役割を果たすから」だったのである。

 この話を聞いた時、無論、俺は烈火の如く怒り狂った。もし、俺が募集に応募していなければ、被験者全員が“ドグマウイルス”で死ぬことになっていたかも知れなかったからだ。

 胸倉を掴む俺に、咳きこみながら医師は言った。

「このまま放置すれば、どの道、人類は“ドグマウイルス”によって三年以内に死滅してしまうんです。国としても、我々としても、今回の件は苦渋の決断だったのです。それに、被験者として集められた皆さんは、感染後のワクチン投与により、今後、二度と“ドグマウイルス”に冒されることはありません。言うなれば、研究施設に集められた皆さんは、被験者となることで命を救われたわけです。何故なら、“ドグマウイルス”は、感染していなければ、ワクチンの効果がないのですから」

 三年以内に世界のどこかで“ドグマウイルス”に感染して死ぬか、それとも、一度感染する代わりにワクチンを使い“ドグマウイルス”が侵入しない体を手に入れるか。結果論とはいえ、それが現実である以上、後者のほうがよいに決まっている。

 胸の中に煮え切らない何かを残しながらも、俺は医師から手を放した。

「お願いします! 貴方の血液で、ワクチンを作らせてください!」

 医師は、俺に再び頭を下げた。

 眼下にある医師の頭を見ながら俺は、「この男も、俺と同じく世界を救う使命に憧れた男なのではないか」と考えた。

「分かりました。俺の血、使ってください」

 その日から俺は、ホテルのスイートルームに移り住むことになった。

 欲しいと思うものは、内線一本で何でも用意された。外出以外のことならば、あらかたは自由だ。「総力を挙げて国がサポートする」という言葉は、間違いなく本当だった。

 代替として俺が提供するのは、日に十ミリリットルの血液だ。少ないのだが、一日分の採血量としては、それが限界らしい。因みに、十ミリリットルの血液で、約一万人分のワクチンが作れるのだという。

 ひとつだけ面倒なのは、“ドグマウイルス”を投与し抗体を作り出しても、翌日にはその抗体自体が消えてしまうことだ。要するに、朝に“ドグマウイルス”を投与し、夕方に血液を採取するということを、毎日繰り返さなければならないのである。

 一日に一万人分ということは、三か月経った現在、約九十万人分のワクチンのストックがあることになる。

 だが、まだ一般供給はできないらしい。国内だけでも日に千人近くの感染者が出ていることがその理由だ。需要に供給が追いつかない状態でワクチンの公表がなされれば、世界中がそれを巡って争うことになってしまうのである。

 そうなれば、本末転倒。俺のやっていることが意味をなさなくなってしまう。

 既に“ドグマウイルス”に感染してしまった者たちには申し訳ないが、今の俺にできるのは、ワクチンのストックを増やしていくことだけだ。いつか“ドグマウイルス”を根絶できる日がくることを信じ、生き続けるしかないのである。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 本作『ブラッド』も次話で最終話を迎えます。

 次回最終話の更新は、7月13日(金)を予定しています。

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