番外編:友人
本編21話の空白の3年の間のお話です。
「おお! 来たか、ヒューバート」
「ああ、ジェブ。久しぶりだな」
学生時代からの友人に呼び出されたヒューバートは、周囲を窺いながら室内へと入っていった。
この紳士クラブには久しく顔を出していなかったが、大きく内装などが変わっているわけではない。
それなのに、なぜか違和感を覚えてヒューバートは訝った。
「何か話があったんだろう?」
「最近、ずいぶん儲けているらしいな?」
仲間たちがいる席に着きながら問いかければ、不躾な質問を返される。
他の友人たちもニヤニヤしながらヒューバートの答えを待っていた。
「まあ……ホロウェイ伯爵からいろいろと学んでいるからな。それよりも、もうすぐ収穫の時期だろう? お前たちのところはどうだ?」
最近ようやくわかってきた投資についての話は簡単に答えて、ヒューバートは話題を変えた。
しかし、皆は興がそがれたとでも言いたげに不満そうな顔になる。
「今年もまずまずじゃないか? 問題があれば管理人が何か言ってくるだろ」
「そうか……」
「おいおい、そんな泥臭いことは下々にやらせとけばいいんだよ。それよりも、いい儲け話があるなら教えてくれよ」
「そうだぞ。お前だけ独り占めするなんてずるいぞ。俺たち、友達じゃないか」
ヒューバートは何と答えるべきか悩んだ。
昔は自分より大人びて見えた友人たちが今は幼く見える。
一年前のあの時、オパールはヒューバートの友人について『優秀な管理人を雇っているのだろう』的なこと言っていたが、事実のようだ。
ヒューバートはこの一年、報告書は隅から隅までしっかり目を通していた。
そして、わからないことがあればオパールに手紙で尋ねたり、伯爵に訊いて勉強もしている。
だからこそ、久しぶりに会う友人たちと領地について話ができると期待していたのにと、がっかりした。
投資についてはまだ説明できるほどではないのだ。
「最近は……すでに出そろった感があるからな。これからは物よりも技術に投資する――」
「あー、そういうのはいいんだよ。ヒューバート」
「お前は相変わらず空気を読めないな。説明とかいらないから、何を買えばいいかだけ答えてくれ」
「そうそう。考えるのはホロウェイ伯爵に任せようぜ。俺たちは伯爵が買ったものを買うからさ。誰よりも早くそれを教えてくれよ?」
「……できればな」
困惑したヒューバートが曖昧に答えれば、友人たちはしらけたようだった。
だが友人のうちの一人が声を出して笑い出す。
「なんだ、やっぱり噂は本当だったのか?」
「噂……?」
「お前が身持ちの悪い女と結婚したのは金が目当てとはわかっていたが、ホロウェイ伯爵親子に気を遣っているって話だよ!」
「お前は公爵様だぞ? 金なんて出させておけばいいんだよ!」
「ここはもちろん、お前の奢りだよな?」
そう言って騒ぎ出す友人たちを、ヒューバートは驚きの目で見ていた。
昔は彼らの明るさに救われ、豊富な話題を楽しんだ。
彼らに『公爵様』と呼ばれれば、誇らしい気持ちにもなった。
それが今は酷く居心地が悪い。
店内の者たちも一緒に騒ぎ始め、いつの間にかヒューバートが全額払うことになっている。
幸いにして今は金銭的余裕もあるので苦ではないが、ヒューバートは早くここから抜け出したかった。
そこでようやく、ホロウェイ伯爵とともに出席する会合やクラブのほうが落ち着けると気付いた。
ヒューバートには難しい話ばかりで初めの頃は身の置き場がなかったのに、いつの間にか楽しみにするようになっていたのだ。
この場所が悪いというわけではない。
ただ、こんな遊びは学生時代で終わらせるべきである。
それなのにいつまでも抜け出さずにいたのは現実から目を背けていたかったからだろう。
「――悪いが俺は帰るよ」
「なんだよ、付き合い悪いな。次行こうぜ!」
「いや、遠慮しておくよ。明日は朝から貴族院の議会があるだろ?」
「はあ? 議会なんてくだらない。どうして俺たちがくだらない法案について考えなきゃならないんだ?」
「そうだそうだ!」
すっかり酔った友人たちの言葉に落胆しながらも、ヒューバートはどうにか笑顔で別れを告げた。
店を出た瞬間、どっと疲れが押し寄せてくる。
今になってやっと、自分がどれほど子供だったのかがわかった。
オパールがどんな思いで自分から領地を奪ったのかも。
それでもオパールはこまめに領地の報告をしてくれているのだ。
ヒューバートは改めて今までの自分を悔い、心を入れ替えて努力する決意をしたのだった。
皆様、お久しぶりです。
本日10月7日(金)『屋根裏部屋の公爵夫人』3巻発売です!
大改稿しておりますのでWEB版とはかなり違っております(ストーリーは同じですが)。
トレヴァーがしれっと出てきて活躍してますw
また書き下ろし番外編は【ジュリアン&クロードの7年間】と【本編終了から1年後】の物語です。
珠梨やすゆき先生が描いてくださったオパールたち親子3人は感動ものでした。
詳しくは活動報告をご覧ください。
それでは、ぜひぜひ書籍もよろしくお願いいたします!




