57.審問
扉が開かれると同時に腰を下ろしていた者たち――オパールたちは立ち上がった。
そしてアレッサンドロが壇上の玉座に腰を下ろし、合図があるまで頭を下げ続ける。
「皆、楽にしてくれてかまわぬ」
その一言にほっと息を吐く声が聞こえる。
それほどにこの場は緊張感に包まれていた。
(さっきまでのざわつきが嘘のようだわ)
いつもは親しみさを感じるアレッサンドロだが、今は近づきがたく威圧的でさえあった。
これぞ王の風格であり畏怖の念を抱かずにはいられない。
「それでは、こたびの国王陛下への反逆行為に関します審問を始めます。証人の方々はどうぞご着席ください」
貴族院の議長であるバルバ卿の声を合図に腰を下ろすと、オパールはテューリたちに目を向けた。
テューリもバポット侯爵も変わらず不遜な態度のままで、自分たちが引き起こした混乱が人々を怯えさせたことなど何とも思っていないらしい。
そのことにオパールは苛立った。
オパールたちが王都に戻ってきたとき、人々は変わらぬ生活をしながらもその表情は暗く不安に満ちていたのだ。
それがクロードの――ルーセル侯爵家の家紋が入った馬車を見てぱっと顔を輝かせ、窓から手を振ればわっと歓声が上がった。
クロードは先の内乱で英雄とされていてもただのお飾りだと言っていたが、街の人たちの反応を見ればそうでないことはわかる。
(街の人たちにどこまで噂が広まっていたのかわからないけれど、今日ここできっちり終わらせて、もう大丈夫だと安心してもらわないといけないわね)
反乱軍の蜂起は失敗に終わったとはいえ、王都の人々は実際に多くの兵たちの姿を目にしているのだ。
きっとクロードが野盗に殺されたという噂も流されたはずで、不安に思わないわけがなかった。
だからこそ皆があんなに喜び、涙を流す者までいたのだろう。
「――お待ちください。先ほどからバルバ卿が述べられている反乱軍の所業は私も耳にしております。亡きボッツェリ公爵を――失礼。前公爵を偲び、その想いから再び陛下に剣を向けた者たちについては、私も非常に怒りを感じております。それがなぜ私までこのように拘束され皆の前で辱めを受けているのでしょう? まずはそのことからご説明いただきたい」
バルバ卿が今回の経緯を簡単に説明していると、バポット侯爵が突然声を上げて遮った。
侯爵らしからぬ非礼な態度に皆が驚いたのか、ざわめきが広がる。
「バポット侯爵、陛下の御前で無礼ですぞ」
「陛下の御前だからこそでしょう。これは私の――我が侯爵家の名誉に関わる問題です。今朝、いきなり近衛たちが屋敷に押しかけ、覚えのないことで私と息子のテューリを拘束したことまでは許しましょう。どうせすぐにあなた方の誤解だったと謝罪を受けることになるのですからね。だが、こうして皆の前で謂われのない罪を上げられていくのには我慢ならない。先になぜ私とテューリが大逆の罪に問われているのかをお聞きしたいのです」
「お待ちいただければ、きちんとご説明いたしましたがね……。陛下、それでは侯爵の質問に答えてもよろしいでしょうか?」
「――許す」
「ありがとうございます」
バルバ卿は呆れたようにぼやきながらも、アレッサンドロの許可を得た。
途端に広間は静寂に包まれる。
皆が侯爵と同様の疑問を抱き、その答えを知りたがっているのだ。
「こたびの反乱軍の資金源となったのはボッツェリ公爵領にあるリード鉱山から産出される金でした。その鉱山を管理していたのがそこに立つコールです。またボッツェリ前公爵に仕え、今も公爵領の管理を統括していたのが隣に立つコナリーです。前公爵が亡くなってからのこの四年間、彼らに指示を与えていたのはバポット侯爵、あなたですね?」
「私は知らぬ。その者たちを見たこともない」
「そんな! あなた様が金の密輸の仕方を指示してくださったのではないですか! 卑怯ですぞ!」
「貴様、誰に向かってそのような口をきいておるのだ?」
「ひっ、い、いえ……」
たまらず声を上げたコールに、バポット侯爵は冷ややかで厳しい視線を投げつけた。
コールは怯えて身を縮ませる。
コナリーは初めから戦う気がないのか、押し黙ったままだった。
「おかしいですね……。侯爵はボッツェリ前公爵と生前親しくされておりましたよね? そして何度も公爵領へ足を運んでいらしたようですが、コナリーでさえ見たことがないと?」
「使用人の顔までいちいち覚えてなどおりません。まさかあなたたちは私が前公爵と親しかったからと、このような大罪に関わっていると思っておられるのですか? 息子のテューリは先の内乱からずっと陛下に忠誠を誓い、そこにいるルーセルと共に戦ってきたのですぞ?」
とぼけた調子のバルバ卿に、バポット侯爵は怒りを滲ませた。
話題に出たテューリはクロードを見ることもなく、どちらも何も発言しない。
オパールもまた静かに成り行きを見守っていた。
「証言ならいくらでも取れているのですよ、侯爵。彼らもそうですが、そちらでご一緒されている方々からも侯爵がこの騒動の首謀者だと証言をいただいております。先日王都周辺で挙兵した反乱軍のほとんどが私兵だったわけですが、兵たちにかかる維持費は侯爵が出費しておられたようですな」
「馬鹿馬鹿しい。そのような証言だけで私を首謀者と決めつけられたのか。そんなもの、罪をなすりつけようといくらでも口裏を合わせられるだろう!」
侯爵は演技がかった仕草で両手を大きく広げ、一緒に拘束されている貴族たちを睨んで牽制した。
貴族たちは変わらず蒼白な顔で侯爵から目を逸らす。
「確かに、証言だけでは心許ない。ですから我々は物的証拠を得ようとしてかなり苦心しました。あなたはとても慎重な方だ。先の内乱では水面下で陛下に対抗しながらも決して尻尾を見せず、それどころかご子息のアマディ子爵を陛下の許へと遣わされた。どちらに転んでも上手くいくようにね」
「失礼な! 私は私の意思で陛下のお力になりたいと思ったのだ!」
「それはご立派ですね。では、なぜ陛下にお味方されようと思ったのです?」
「な、なぜだと? そのようなことに理由がいるのか?」
バルバ卿の言葉に、それまで沈黙を保っていたテューリが噛みついた。
しかしバルバ卿は淡々と応じている。
バルバ卿については詳しく知らなかったが、さすが陛下が議長に任命しただけはあるなと、オパールは感心していた。
「アマディ子爵の意思はどこにあるのです? 私には血気盛んな若者がちょっとばかり親に逆らい冒険をしたかったようにしか思えませんがね。それもまた親の手のひらで上手く転がされているだけのようでしたが――」
「こ、これ以上、兄上を愚弄することは許さないぞ!」
エリクが怒り心頭な様子でバルバ卿の言葉に割って入った。
それどころか実際に詰め寄ろうとして近衛騎士たちに取り押さえられている。
それでもバルバ卿は動じた様子もなく、テューリへの質問を続けた。
「ではアマディ子爵。あなたが陛下を支持されているのならなぜ今回、ボッツェリ公爵を――この場ではルーセル侯爵とお呼びしましょう。で、なぜルーセル侯爵を野盗に襲わせ命を奪おうとなさったのですか?」




