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屋根裏部屋の公爵夫人  作者: もり
タイセイ王国編

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50.約束

 

「ようこそお戻りくださいました、奥様」

「嫌みはいいわ、コナリー。疲れたからお風呂の用意をお願い」

「おやおや、奥様はご自分の立場をわかっていらっしゃらないようですね」

「わからないでいられる? この姿で?」


 縄で縛られたまま馬車を降りたオパールはコナリーに出迎えられた。

 それはまるで女主人を屋敷に迎えるようでいて、オパールの無様な姿を見に来たのだとわかる。

 オパールが縛られたままジュリアンに連れられたのは以前の部屋で、地下牢に閉じ込められるわけではないらしい。――地下牢があるのかは知らないが。


「縄をほどいたからといって逃げられるとは思うなよ」

「みんなは同情してくれているようだけど?」

「だがお前を逃がせば自分たちがどうなるかは想像できるからな」

「……クロードはどうなったの?」

「お前がいなくても元気だよ。飼い主と違って素直だからな」


 そう言い残してジュリアンは部屋から出ていった。

 ひとまず犬のクロードは安全そうだ。

 オパールはほっとして自由になった両腕をぶらぶらと揺らしながら窓辺へと近づき、外を眺めた。

 特に見張りがいるようには見えないが、逃げることは無理だろう。

 オパールが大きく息を吐いたとき、扉が開いてお湯を持ったメイドたちが入ってきた。


「お風呂に入れるの?」

「はい、奥様。ジュリアンさんが用意してさしあげるようにと」

「あらまあ」


 たまには優しいところがあるのかと思ったオパールだったが、それもすぐに怒りに変わった。

 オパールが入浴中に、ノックもせずに入ってきたのだ。


「ちょっと! どういうつもり!?」

「まだ入ってんのか、長風呂だな」

「そういう問題じゃないでしょう!?」

「別にお前の裸を見たからってどうってことないだろ? 駆け落ちした仲なんだから」

「馬鹿なことを言わないでよ!」


 突然のジュリアンの乱入に驚いた侍女たちだったが、その言葉にはっと息を呑んだ。

 ここでも駆け落ちの噂は伝わっているらしい。

 彼女たちはそれが嘘かどうかもわからないのだろう。


「手紙を持ってきてやったんだよ。じゃあ、ゆっくりしろよ」

「最低! 変態! ジュリアンの馬鹿!」


 ひらひらと手を振りながら出ていくジュリアンの後ろ姿に、オパールなりの罵詈雑言を投げつけたがまったく効果がない。

 あまりに子供っぽすぎたのか、侍女たちはくすくす笑いだしていた。

 緊迫した状況であるのにオパールもおかしくなって一緒に笑う。

 するとお風呂に入っている以上にリラックスすることができた。


 その後、お風呂から上がったオパールは、わざわざジュリアンが置いていった手紙を手に取った。

 手紙は全部で三通あり、すでに封を切られていた。


「まあ、当然よね」


 二通は父親であるホロウェイ伯爵とヒューバートから。

 内容はオパールがリード鉱山で書いた手紙の返事だった。

 父親からはタイセイ王国内の政争に口を出すつもりも金を出すつもりもないとはっきり書かれている。

 あまりに父親らしくてオパールは思わず笑ったほどだ。

 ヒューバートからはオパールの体を気遣い、何かあればいつでも助けると書かれており、ソシーユ王国でのことは全て任せてほしいとあった。


 続いてオパールは三通目に手を延ばした。

 それはオマーからのもので、いつものように農地に関する内容だとコナリーは判断したらしかった。

 実際、最初の二枚はマクラウド公爵領の今年の農作物について、次の一枚はボッツェリ公爵領へのアドバイスが書かれている。


 そして四枚目はオマーたちの近況が書かれていた。

 執事のリンドや家政婦のデビー、他のみんなのことを知ることができてオパールの顔はほころんだ。

 それが最後の文面では噴き出してしまった。

 ノボリの街で大きな勝負事があり、ルボーが大勝ちをしたとあったのだ。

 そのルボーからの伝言として『この八年でマクラウド公爵は驚くほど成長したようです』とある。

 しかも『きっと前妻の尻に敷かれていた反動だろう』とまで書かれていた。

 この手紙をコナリーが読んだのは間違いないだろうが、ジュリアンまで読んでいたのなら声を出して笑っただろう。


「もう、ルボーってば酷いわね」


 こんなことは思っていても口に出せるのはルボーくらいだが、それを実際に書いてしまうオマーも酷い。

 オパールは一人で文句を言いながらも手紙を大切にしまった。


 これらの手紙はボッツェリ公爵領館宛てになっているので、みんな第三者に読まれることがわかったうえで書いたものだ。

 本当に知りたいことは王都のルーセル侯爵邸宛てに届いており、先日クロードが目を通してから渡してくれている。

 だからクロードもアレッサンドロも、ソシーユ王国が動かないことは知っていた。――正確には、オパールが手を回してソシーユ王国の誰もが動けないようにしたのだ。


 これで四年前のマンテスト開発についての恩は返した。

 ヒューバートもそのためにマクラウド公爵としての働きをしてくれた。

 あとはこちらで決着をつけるだけ。

 オパールは運ばれてきた夕食を残すことなくしっかり食べると、ゆっくりお茶を飲んでから寝支度をした。


「それでは、奥様……あの、どうかお気を落とさずにいらっしゃってください」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう。おやすみなさい」

「――はい。おやすみなさいませ」


 励ましてくれる侍女に微笑んでお礼を言うと、就寝の挨拶をして下がらせる。

 優しい侍女を裏切るようで申し訳ない気持ちになりながらも、オパールはしばらくするとクローゼットを開けた。

 そこから一人で着替えができるドレスと、お風呂の前にこっそり脱いで隠していたズボンを取り出す。

 着替え終わったオパールはしばらく本を読んでいたが、何度か時計に目を向けていた。

 そして五度目に時計を確認したとき、窓辺へと歩み寄りそっと窓を開ける。


「やあ、お姫様。今度こそ助けにきたよ」

「待ちくたびれたけれど、いつもの時間ぴったりよ」


 そう囁いて、オパールは部屋へと入ってきたクロードに抱きついた。

 クロードもまたオパールを強く抱きしめたのだった。




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