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屋根裏部屋の公爵夫人  作者: もり
タイセイ王国編

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31.旅立

 

「また今夜も一人なのか?」

「ええ、そうよ」


 ここ数日、一人で夜会に出席しているオパールに、近づいてきたエリクが馬鹿にしたように声をかけた。

 それでもオパールは礼儀正しく答えたのだが、エリクの失礼な態度は止まらない。


「虚しくならないか? 毎晩一人であちこちの夜会に出席していて。クロードも付き合い切れないんだろう」

「……この夜会は慈善目的で開かれていますが、プラドー男爵は何のためにこちらへ? 私たちの寄付で疫病と内乱で親を亡くした子供たちへ支援ができるのでしょう? 他にも毎晩のように慈善目的の夜会は開かれておりますが、ご存じですか?」


 にっこり笑って問い返せば、エリクは顔を赤くした。

 だがすぐにせせら笑う。


「なぜクロードは一緒じゃないんだ? 二人で出席すれば、それだけ支援できるだろう?」


 最近は慈善目的の夜会などで、出席者から参加費を徴収するものもある。

 そして参加費もそのまま寄付に充てられるのだ。

 エリクはそのことを言っているのだろう。


「お兄様のアマディ子爵はご一緒ではないのですか? お二人でご出席なされば、さぞ支援できるでしょうにね」

「兄上は所用で王都を留守に……」


 答えかけたエリクはオパールが嫌味で問い返してきた言葉の本当の意味に気付いたようだった。

 要するに、クロードもまた〝所用〟で王都を留守にしていると。


 エリクはまったく変わっていない。

 この短い間で成長するのが難しくても、せめてもう少し考えてから行動すればいいのにとオパールは思った。

 前回のことでますます嫌われたようだが、怒りは目を眩ませる。


「それでは、私はこれで失礼いたします」


 また礼儀正しく挨拶をしたオパールは、言葉を詰まらせるエリクの前から立ち去った。

 今夜は少し早いが、このまま主催者にも挨拶をして帰るつもりである。

 オパールは会場内を見回して主催者を見つけると、ほっと息を吐いた。

 正直に言えば、夜会やお茶会はあまり好きではない。

 だがあの新聞記事のお陰で慈善目的の夜会なども増え、オパールは主賓として招待されるようになり、たくさんのアドバイスを求められるようになっていた。


 もちろんそれは素晴らしいことではあるし、オパールもできる限り協力はするつもりである。

 ただ領民への義務が疎かになっては本末転倒なのだ。

 植物の成長はのんびり待ってくれない。

 だからできるだけ早く領地の現状を直接見て確認し、必要な対策を講じるつもりだった。


(事前調査の通りなら、改善策はたくさんあるもの)


 オパールは馬車に乗って帰路につくと、再びため息を吐いた。

 本当ならもうクロードと一緒に公爵領へ向かっているはずだったのだ。

 あれからしばらく待ってみたが、クロードからは何の連絡もない。

 忙しいのかその状況下にないのかはわからないので、腹は立たないが心配ではある。

 しかし、オパールが屋敷に戻ると執事から一通の手紙を渡された。

 それはクロードからで、オパールは急ぎ開封する。


「あら……」


 残念ながら手紙にはもう少し用事が長引きそうで、しばらく屋敷には戻れないと書いてあった。

 これにはオパールもかなりがっかりしたが、クロードを責めることも一人で嘆くことも性分ではない。


「どうしようかしら……」


 しばらくというのがどれくらいなのかがわからない。

 ここで素直にクロードが戻ってくるのを待っていては、やはり公爵領での改革が遅れてしまう。


「まあ、いいわ。それなら私一人で先に向かえばいいんだもの」


 そうと決めれば後は行動あるのみだった。

 明後日には出発することにして、ナージャや執事にその旨を伝える。

 元々準備は進めていたので大騒ぎになることはないだろう。

 オパールは書物机に向かうと、クロードに返事を書いた。

『こんなに長い間放っておかれるなんて信じられないわ。一人ではもう王都にいられないので公爵領に向かいます』と。

 ちょっとした悪戯心であり、クロードにはこの冗談が伝わるだろう。


 手紙の宛先は王都近くにある離宮にした。

 クロードは今現在そこに滞在していると書かれていたのだ。

 その手紙を執事に託し、オパールは寝支度を整えてベッドに入った。


 そして翌々日早朝。

 ナージャをはじめとした侍女やメイド、護衛騎士や従僕たちを連れて、オパールは公爵領に向けて出発したのだった。




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