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屋根裏部屋の公爵夫人  作者: もり
タイセイ王国編

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22.説明

 

 屋敷に戻ったオパールは書斎に入ると、クロードからお酒を受け取りソファに座った。

 今夜は色々ありすぎて、お茶よりもお酒の気分なのだ。

 クロードは自分のお酒も注ぐとオパールの向かいに腰を下ろす。


「何から話せばいいかな……」

「悩む必要はないわよ。私が知りたいことを訊くから答えてほしいの。無理な場合はそう伝えて?」

「わかった」


 本当なら順序立てて説明を聞くほうがいいのだろうが、オパールも知りたいことが多すぎて混乱していた。

 とにかく過程よりも結果を知りたい。


「キーモント卿のことは最初から知っていたの?」

「いや、今日知ったばかりだよ。それでオパールもあの舞踏会に出席することは知っていたから、慌てて駆けつけたんだ」

「そうだったのね……。じゃあ、賊のことは? その賊が貴族の子息だということは?」

「身分ある若者ではないかということは、当初から疑われていたんだ。目撃情報から覆面はしていても服装や持っている銃などが高価なものだとわかったからね。ただそのせいで捜査は慎重に進められていた。逮捕した後に間違いでしたとなると大事になるだろう?」

「情報を漏らせなかったのはわかるわ。それでも、今回のことになぜクロードが関わっているの?」

「成り行きかな?」


 クロードのあっさりした答えに、オパールの表情が疑わしげなものに変わる。

 からかっているのか、話せないのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 そんなオパールを見て、クロードは笑いながら弁明した。


「本当だよ。俺は別の件で賊に関する情報を集めていたんだ。それで最近、街道を騒がせている賊について捜査している法務官と知り合ってね。お互い情報を提供することで協力しようということになったわけ」

「その別の件って?」

「それはまだ言えない」

「わかったわ」


 オパールにとって、クロードに秘密があることより危険かもしれないことのほうが心配だった。

 だがそのことにはもう触れずにわざとらしく不満を言う。


「それであっさりソシーユ王国に行こうなんて言ったのね。最初から用事があったんだもの。もしベスのことがなかったら、私は慣れない国で一人お留守番だったのかしら」

「そんなことはさせないよ。この国へ来るのは俺じゃなくて別の誰かでもよかったからね。あの時の――マクラウドから例の女性のことを聞いたオパールを見ていて、この国へ来ることを決めたんだ」

「私、クロードの手のひらの上でくるくる踊らされているわね。今夜だって、下準備して根回しして頑張ったのに、全部キーモント逮捕に持っていかれたわ……って、彼の財産はどうなるの? 子供たちの養育費は?」


 キーモント逮捕の衝撃でうっかりしていたが、罪を犯した者の財産は没収されることが多いのだ。

 こんなことならもっと強引に手続きを進めてしまえばよかったと後悔するオパールに、クロードは安心させるように微笑んだ。


「それは大丈夫だよ。キーモントの財産は没収になるだろうけれど、きちんと手続きすれば認められるはずだから」

「それならいいのだけれど……キーモントたちはどんな罰を受けるのかしら」

「先ほども言ったけど、幸いにして怪我人は少ない。それも軽傷の者ばかりだから、実質の被害は金品のみとされるだろう。それらも賠償金とともに返却されるから近いうちに釈放されることになると思う」

「ええ? それじゃあ、あの……ろくでなしがすぐに出てくるの? しかも同じようなろくでなしが何人も? 社会の迷惑でしかないのに? それは法務省の怠慢だわ。叔父様に抗議しなくちゃ」


 オパールは怒りながらも今度は〝クズ〟という言葉は避けたようだ。

 それでも容赦ない言葉にクロードは思わず笑った。


「笑い事じゃないわ、クロード」

「うん、そうだね。ただ彼らの財産は没収されるから、今後は親兄弟に生活を頼るしかなくなるし、明日までには皆に知れ渡るだろうから、社交界に戻るのは難しいんじゃないかな」

「どうして自分で働いて生活費を稼ぐっていう発想にならないのか疑問だし、本当に社交界には戻れないのかしら? 被害者は一般の方たちなんでしょう?」


 キーモントがベスたちを蔑んでいたように、貴族以外の人たちを不当に差別する者たちは多い。

 結局はキーモントたちを許してしまうのではないかと考えたオパールだったが、ふと今夜の舞踏会のことを思い出した。


「そういえば、今夜はいつもと雰囲気が違ったみたい。堅苦しさがなかったし、私の不躾な糾弾にも皆ちゃんと話を聞いてくれていたわ。何よりクロイゼル子爵夫妻がとても素敵な方たちだったわね。まあ、一組を除いてだけど」


 八年前ならもっと堂々とキーモントの味方をする男性は多かっただろう。

 もちろん変わらず俗っぽい人も多くいたが、あの場にいた有爵者たちの何人かはオパールを偏見なく受け入れてくれ、男女の垣根なく対等に会話することができたのだ。

 そんなオパールの考えを肯定するように、クロードは頷いた。


「クロイゼル子爵は先進的な方のようだから、同じ考えの人たちが集まっているんじゃないかな。それに主催する夜会は堅苦しくなくて若い人も多い。だけどうるさ型が眉をひそめるほどではないから、未婚の女性たちも安心して参加できる」

「しばらく社交界から遠ざかっていたけれど、ずいぶん変わってきたのね。というより、私自身が社交界に偏見を持っていて知ろうとしなかったみたい。みんなが皆、キーモントや伯爵夫人のような人じゃないのに」


 オパールは八年前までの嫌な思い出に囚われたままで、新たに出会う人たちも同じだと決めつけていた。

 自分こそ嫌な人間になっていたと気付いて反省した。


(こんなに頑固で勝気で嫌みったらしい人間と友達になろうなんて思わないものね……)


 はあっと深くため息を吐いたオパールは視線を感じて顔を上げた。

 するとクロードがにこにこしながら見ている。


「どうかした?」

「オパールは可愛いよ。すごく可愛い」

「そ、そんなのクロードの思い込みよ! それにもう二十八になるのに、可愛いわけがないわ!」

「そうかな?」

「そうよ!」


 クロードの言葉は嬉しいのに恥ずかしくて、オパールはつんっとそっぽを向いてしまった。

 こういうところが可愛くないと自覚はしている。

 どうしてもっと素直になれないのかと落ち込みそうになったオパールは、そこではっとした。


「今夜のあれ……ロアナさんは引いているわよね?」

「あれ?」

「キーモント卿に対する私の糾弾よ」

「ああ……。後悔しているのか?」

「後悔はしていないわ。むしろ逮捕劇で私のしたことは霞んだんじゃないかって思う。でも、それとこれとは別じゃない? いっつも騒動を起こす人間と友達になりたいとは思わないでしょう? むしろ距離を置きたくなるわ」


 自分の両親の舞踏会で騒ぎを起こされたら腹も立つだろう。

 たとえクロイゼル子爵に理解があっても、明日にはきちんと謝罪に行こう。

 顔は合わせづらいがケジメだけはつけなければと、オパールは覚悟を決めた。


「大丈夫。オパールとロアナ嬢ならきっと友達になれるよ」


 あれこれ考えていたオパールにクロードが断言する。

 その言葉はなぜかオパールの胸をちくりと刺した。


「……ロアナさんと知り合いなの?」

「いや、知らないよ」

「それならどうしてわかるの?」

「オパールが友達になりたいと思った相手が、そんなつまらないことにこだわるとは思えないから」


 二人が知り合いではなかったとわかって、オパールは密かに安堵した。

 嫉妬する必要はないのだが、心は言うことを聞いてくれないのだ。

 きっとこれからも魅力的な女性に出会うたびに繰り返してしまうだろう。

 それでも、大切なクロードから離れることは絶対にできない。


「ありがとう、クロード」

「……うん」


 オパールは優しい言葉をくれるクロードに満面の笑みを向けた。

 その笑顔がどれほどクロードを魅了しているかには気付かない。

 それどころかあっさり話題を変えた。


「ところで……クロイゼル子爵とは知り合いだったの?」

「名前は知っていたけど、お会いするのは今日が初めてだよ。どうして?」

「いえ、あの場で紹介したものの、すでに知り合いだったのならちょっと間抜けだなと思って」

「確かにそれはちょっとおかしいかも」


 オパールとクロードは風刺画のようなそんな場面を想像して笑った。

 それから二人はグラスを置くと立ち上がり、手を繋いでゆっくり寝室へと向かった。




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