一気に状況がオカルト風味になってまいりました。
ようやく本題にはいり始めます。長いよ………。
『結衣へ。
お前にこの手紙が渡ってるって事は、僕はこの世にいないか、それに準じる事態に陥っている事だと思う。
そうならない為に頑張るつもりだけど、人生はなかなか思う通りにはならないものだね。
さて、突然だけど、結衣が小さな頃、よく「お化けがいる」って泣いていたのを覚えているかい?
夜の闇や少しの隙間に怯えて泣きじゃくる結衣にお化けが来なくなるお呪いをしたね。
思えば、アレが僕の将来を決める原点だった。
ほとんど暗示のような、本で調べた子供騙しのお呪いに本当にかかってしまった結衣の素直さが、少々心配になったものだよ。
まぁ、それも年を経るごとに重ねがけしていった結果、結衣の能力はほぼ完璧に封じられた。
兄の努力の賜物と褒め称えてくれたまえ。
と、言いたいところだが、今回僕のために、せっかく封じた力だが解放して欲しいんだ。
そうする事で、多分、僕は結衣と話せる事が出来るようになる。
その為の道具と手順は、蓮人に預けてある。
では、よろしく。
PS.お前の今後に関わる大切な話がある。
面倒臭がらずにちゃんとやる事。
難しかったら大知や蓮人に助けてもらえ。
2人なら嫌がらずに喜んで手伝ってくれるはずだ。
兄より』
「わけわかんない!封じたって何?重ねがけって、いつの間にそんな事してたの?!というか、なんで突然オカルト風味?!」
手紙を投げ出して喚く私の横で、放り出された手紙を拾って読んでいた浅宮さんと堤さんが、顔を見合わせている。
「………まぁ、落ち着け」
「とりあえず、もう1つの封筒を開けてみよう」
堤さんが宥めるように私の頭を撫で、浅宮さんが、もう1つの分厚い封筒に手を伸ばした。
そして開けようとした瞬間、パチリッと火花が散った。
「浅宮さん?!」
静電気というにはあまりにも激しい光に、ビックリして兄への文句が頭から飛んでいった。
封筒を取り落とし、右手を左手で抑えるようにして庇っている浅宮さんへと駆け寄る。
「いや、大丈夫。見た目は派手だけど、ちょっと強めの静電気くらいだったから」
手をすくい上げ、まじまじと観察する。言われた通り、赤くなったり傷がある様子もない。
私よりずいぶん大きな指の長い男の人の手、だった。
「結衣ちゃん?本当に大丈夫だから」
「………あっ、すみません!」
やんわりと宥めるような声に我に返り、慌てて握りしめた手を解放する。
今、私必要以上に撫で回してなかった?!
勢いで万歳するように両手を挙げたけど、顔がどんどん熱くなってくるのがわかる。
だって、兄のどこか生っ白い手とも父親の節が目立つゴツゴツした手とも違って、スッとして綺麗なのに、なんか男の人の手だったんだよ。
思わず見とれちゃったんだヨゥ。
あぁ、痴漢した人の言い訳のようだ。
お巡りさん、ここに痴女がいます。ごめんなさい!!
「………どうも、志月の罠だったみたいだな。結衣ちゃん以外に開けられないようにしたかったんだろ」
赤くなってアワアワしている私をよそに、冷静に封筒を拾い上げていたらしい堤さんの、どこか呆れたような声が響く。
「どれ?」
そして、私の肩越しに覗き込んだらしい浅宮さんが噴き出した。
そのまま笑い出す様子に、なんだか嫌な予感しかしない。
イヤだ。見たくない。でも、見ないと話が進まない………。
イヤイヤ振り向いて、差し出されていた封筒を受け取る。
真っ黒なそれのこれまたわざわざ施された蜜蝋の下、赤い文字で何やら浮かび上がっていた。
(さっきはこんなの無かったよね?)
疑問に思いつつも読み上げる。
「………『清らかな乙女の口づけにのみこの封印は開かれる』」
冷静だった筈の堤さんが、静かに口元を手で覆い顔を横に向けた。
でも、肩が細かく揺れてるからね?
「………大ニイ、笑いたいなら笑っていいから」
思わず、小さな子供の頃の愛称で呼びかけた途端、
笑い声が増殖した。
「あの厨二病患者め〜〜!!!」
ふつふつと湧き上がる怒りのままに、封筒を破るように開封する。
口づけ?するわけないでしょ!!
バチンッと何かがはじけたような気もしたけど、怒りに目が眩んでた為、気にしない。
別に痛くもなんとも無かったしね!
そうして、勢いのままぶち撒けた封筒の中身は怪しげな文字が書かれた呪符や陣。そしていくつかの宝石のような綺麗な石、だった。
「うわぁ、怪しさ大爆発」
いかにもな空気を醸し出す数々の品に、怒りがプシューッと抜けていく。
その瞬間を狙っていたかのようにピラリと逆さにしたままの封筒から紙が1枚落ちてきた。
何気なく拾い上げ、読んだ瞬間、反射的に私はその紙をくしゃくしゃに丸めると壁に向かって投げつけた。
後悔はしてない。
そこには、
『猿でもわかる霊体視認化の儀式(図解入り)』
と、あった。
読んでくださり、ありがとうございました。