兄の友人はデキスギ君です。
「あ、浅宮さん、堤さん」
処置があるからと兄の側を追い出され、所在なくて喫茶コーナーの椅子でボゥっとしていた私は、振り返った先に兄の友人達の姿を認めて肩を落とした。
「結衣ちゃん、大変だったね」
こちらを気遣うように滲むような笑みを浮かべている穏やかそうなイケメンが、兄の友人その1。
浅宮蓮人さん。
柔らかなウェーブを描く天然茶髪に茶色の瞳。
柔らかな物腰の某大企業の御曹司だ。
兄とは小学校以来の付き合いで、美物館でたまたま知り合い、意気投合したらしい。
(どうでも良いけど、美術館で意気投合する小学生男子って………。いや、良いんだけども)
「……………」
無言で手を伸ばして私の髪を撫でてくるのは、黒髪黒目でやや強面の兄の友人その2、堤大知さん。
うちの近所の剣道道場の跡取り息子で、いわゆる幼馴染。私も子供の頃から可愛がってもらったし、ずいぶんお世話になってる。第2の兄のような人だ。
スッと伸びた背筋が綺麗で、剣を構える姿はまさに現代に蘇ったサムライって感じ。そして、この人も当然のようにイケメンだ。
………兄の友人達がイケメンすぎて辛い。
年が離れてて良かったと心から思う。コレで2歳差くらいだと、確実に「身の程知らず」と怖いお姉様方の殺意にさらされていた事だろう。
「まだ予断は許さない状態なんですけど、とりあえず、今はこれ以上出来ることはないそうです」
一応、兄の手術が終わった時点でメールは入れていたから、分かっているだろうけど、なんとなくもう一度伝えておく。
その時に、まだ家族以外は面会謝絶の旨も書いておいたんだけど。
会えないと分かっていてもワザワザ来てくれたことが少し嬉しい。
それと同時に、手術中ではなく、ひと段落ついたこのタイミングで顔を出す2人に、気遣いのできる人達だなぁ、と改めて思う。
あの緊迫した時間に、家族以外の人が入り込んでしまえばどうしても気疲れは倍増していただろう。
胸を引き絞られるような不安の中、人を気遣う余裕なんてどこにも無かったから。
だから、本当は2人だって直ぐに駆けつけたかったであろう気持ちを押し殺して時期を待っていたんだろう。
兄達の付き合いを見る限り、それくらい仲は良かったから。
(ほんと、兄貴には勿体無いくらい出来た友達だよね……)
少しゴツゴツした大きな手が、気遣うように優しく頭を撫でてくれる。
小さな子供に戻ったようで、少し泣きたい気持ちになった。
けど、もう子供じゃないし。
16だし!
気遣う手からそっと逃げて、私はうつむきそうになる顔を上げると、にっこりと笑ってみせた。
「大丈夫。兄貴、悪運強いし。以外としぶといし。きっと元気になります」
暗くなりそうな空気を吹き飛ばすように、胸を張って宣言すれば、キョトンとした顔を見合わせた後、2人が苦笑した。
「強いね、結衣ちゃん」
笑いながら、今度は浅宮さんが頭を撫でてくる。
「これくらいでめげてちゃ、兄の妹なんてやってられませんから!」
そう。
コレは、いつもの兄貴の巻き起こすトラブルの1つ。
いつだって、厄介ごとを起こしては、「ごめ〜ん」とヘラリと笑ってた兄に、文句を言いながらも走り回るのが常だった。
小さい頃は面倒見てもらってたけど、年が二桁いく頃には、きっと私の方が面倒見てた。
頼りなくて変人で、だけど、一度身内認定した人にはどこまでも寛容で優しい。
大きくなってからは面と向かって言ったことなかったけど、そんな兄がいつだって大好きだった。
「しょうがないなぁ!」って言いながら、頼られてるのが嬉しいと感じるくらい。
アァ、兄の友人達を笑えやしない。
私だって同類だ。
ダメンズが好きなんじゃない!兄だからだ!って、せめて言える大人になろう。うん、気をつけよう。
コッソリと心に誓っていると、何を感じたのか、2人がクスクスと笑いだした。
「そうだな。あいつがトラブル持ってくるのはいつもの事だ」
「確かに。この位で焦ってたら、俺のそばにいる価値なし!って言われちゃうね」
笑いながら、2人は柔らかく私の背を押して歩きだした。
「とりあえず、何か食べに行こう。体力つけなきゃ」
「そうだな。奢ってやるからたくさん食べろ。ついでに今後の作戦会議と行こうか」
2人に促されて、忘れてた空腹を思い出す。
そういえば、コンビニのおにぎり齧ったくらいで、アレからロクなもの食べてないや。
チラリと兄のいる病室の方を振り返るけど、私は押されるままに歩きだした。
まぁ、確かに。
長丁場は確実だし、腹は減っては戦はできぬって昔から言うし、ね。
チョット、栄養補給に行って来ます!
読んでくださり、ありがとうございました。