理解したくないけど受け入れないと先に進まないよねって話。
お久しぶりですm(._.)m
『て、訳で死んじゃったんだけどさ〜〜。やっぱり慢心を持っちゃダメだね』
呑気に目の前の椅子に座ってノホホンと笑う兄。
半透明に透き通っているのさえ気にしなければ、鬱陶しい前髪も、トレードマークのような黒いシャツとジーンズ姿も、いつも通り、だ。
兄に一発キメた後気を失った私は、目を覚ました時、目の前の現実にもう一度気を失いかけた。
フヨフヨと宙を舞う半透明の姿。
いくら兄だとしても、オカルト耐性のない私にはキツかった。
固まる私に声をかけ、あったかいお茶を出して、落ち着かせてくれたのは浅宮さんと堤さんだった。
律儀な2人は私が気絶している間、兄と話をしながら待っていてくれたらしい。
で、どうにか立ち直り、兄の話を聞いていたのだ。
時刻はもう深夜だ。
申し訳ないと帰宅を提案したけど、乗りかかった船だからと、律儀な2人も引き続き同席してくれている。
本当にいい人達だ。
そんな中、兄が語ったアレコレは今まで培ってきた常識が覆ってしまうかのような、信じられない話だった。
けど、目の前に半透明な兄がいる以上、全部否定することも出来やしない。
「どうしよう。兄が厨二病から卒業できないと心配してたら、まさかの全てが現実だったなんて………」
『酷いなぁ〜〜。兄は結衣のために子供の頃から必死で頑張っていたというのに〜〜』
呑気に抗議する兄がなんだかカンに触るが、とりあえず、落ち着こう、私。
ココで兄をどついたとしても、何も解決しない。
「トラックに轢かれるまでは分かった。だけど、兄貴死んでないじゃん?なんで目が覚めない上にそんな姿でここにいる訳?」
最大の疑問を投げつけてみれば、兄の目がつぅ〜〜と右上を見た。
コレは、兄が何か誤魔化したい時や嘘をつく時のクセだ。
「兄貴?此の期に及んでまだ隠し事する気なら、…………わかってるわよね?」
『………そ、そんな、隠し事だなんて。何言われてるか、お兄ちゃん分からないなぁ?』
明らかに挙動不審なくせに、他どうにか誤魔化そうとする兄に、フゥッと自分の口角が上に上がるのがわかった。
正面にいた、兄の顔が引きつる。
が、気にせずに呪文を唱えた。
「晒すよ?コレクション」
コウカハ バツグンダ
『ゴメンなさい!兄が悪かったです!!勘弁してください!!!』
ガバリと椅子から飛び降り土下座された。
関係ないけど、幽霊なのに床とか椅子とか突き抜けないんだねぇ。
情けない姿の兄の前に仁王立ちになった私を視界の隅で怯えたように兄の友人達が見てたけど、気にしない。
そんな事より、目の前の問題の方が先だ。
「じゃあ、キリキリ全部吐きなさい!」
額を床に擦り付けていた兄が、ぴょこんと体を起こした。
『呪いを放っておくと、結衣は大丈夫としても今度は結衣の子供達に呪いが行く可能性が大きかったから、どうせ死ぬなら道連れに呪いもろともあの世に行こうとしたんだけど、準備してた術じゃ弱かったみたいで、僕の体に取り込むことは出来たんだけど引っ張るまではできなくて」
早口で一気にまくしたてられて、一瞬理解が追いつかない。
いったん、手をあげて兄の言葉を遮って、言われた内容を吟味する。
「…………ん、何となくわかった。で?」
先を促すと、青い顔で黙り込んでいた兄が、そろりと口を開いた。
『しょうがないから何とか僕の体に封印したんだけど、1つの体に魂は2つ入らなくて、僕がはじき出されちゃった』
テヘッと笑いながら小首を傾げて見せるけど、二十歳過ぎの男がやったって可愛くないから!
「じゃあ、このままじゃ志月の意識は戻らないのか?」
それまで、黙って成り行きを見守ってくれていた堤さんが、しぶい顔で口を挟んできた。
『うん。体の中に戻るには呪いを解放しなくちゃならない。でも、解放しちゃうと結局繰り返しになるんだよね』
少し困ったように笑う兄に何と言えばいいのかわからなくて唇を噛んだ。
だって、兄の話を聞く限り、最初から狙われていたのは私で、どう聞いても兄はその身代わりになっただけなんだもん。
とんだトバッチリじゃん。
改めて半透明の兄をまじまじと見つめれば、何だか泣きたくなってきた。
こうして話は出来るようになったけど、このままじゃ、兄は何かに触れることもものを食べることも出来ない。
今は見えているけど、そして、どうやら私には見え続けるみたいだけど、堤さんや浅宮さんは一定の条件を満たさないと見えることも話すことも出来なくなる。
そんなのって………。
ベソをかいた私に気づいた兄が困ったように笑って手を差し伸べかけ、触れる直前に何かに気づいたみたいに手を下ろした。
たぶん、いつもみたいに頭を撫でてくれようとして、そして、さわれない事に気付いたんだ。
そして、その事に思い至ってゾッとした。
このままだと、兄はずっと幽霊のままだ。
そもそも、幽霊っていつまでこの世に居られるの?
そこら辺をフヨフヨしてて大丈夫なものなの?
「呪いをどうにか出来たら、兄貴は体に戻れるの?」
落ち込んでる場合でも泣いてる場合でも、ない。
ずっとこのままでいられないし、そもそも、このままで居られる保証なんてどこにも無いんだ。
『多分ね。だから、怖いの苦手な結衣には悪いけど、手伝ってもらえるかな?』
少し申し訳なさそうな兄に、私はすぐに頷く。
そんなの、当然だ。
この一月で思い知った。
お化けも怖いのも大嫌いだけど、私は、兄がいなくなることの方がよっぽど怖いんだから。
「何だって、するよ!」
何度もなんども首を縦に降る私を兄が嬉しそうに笑って見ていた。
読んでくださり、ありがとうございました。