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戦翼機竜騎手の航路  作者: セルユニゾン
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序章 第3頁 天災襲来

ようやく、怪獣らしい奴が登場です。

 3年前、天災(魔法生物)が襲来した。


 いや-。


 天災(魔法生物)の襲来ならば、遥かな昔から幾度とあった。


 天災(魔法生物)は空と海が交わる場所よりも遠くから出で、この国への襲来を繰り返した。


 対抗する術を持たぬ者はただ、蹂躙された。


 持たぬ者達は自分達の持つ力に気付かなかった。


 襲来を繰り返される度に財産を、家族を失った持たぬ者達は絶望の中から立ち上がると歩き出した。


  その歩みは遅くとも確実に己の武器を作りあげ、天災(魔法生物)へと挑んだ。


  それが遥か昔の出来事。


 そして、3年前。先祖が勝ち得た生存圏を守る為に15歳にも満たぬ者も天災(魔法生物)の大群を相手に戦いへと赴いた。


 猛々しく戦った者達により、戦いは直ぐに終わった。


  国には安泰が訪れた。15歳にも満たぬ彼等、彼女等の多大な犠牲のおかげで。


  その安泰は永久に続くと誰もが願った。


  安泰を守る事に最も遠いこの島で安泰を守る為に飛ぶ彼等と彼女等。






 《魔法生物襲来!》


  基地の通信が響いた時、彼等と彼女等に混じってイキシア・カモミールンは空中に居た。


 戦翼機竜の騎乗で学んだ事を試されていた為だ。


 基地の通信に教官長の男が吠えている。


 《無茶を言うな。ヒヨッコどもの面倒を見てんだぜ。こっちはよ》


  野太さに真剣さの混ざった声が頭の中に直接的に響く。


 《パル基地から全教官機竜へ。魔法生物のコース。ライター空島諸島中心地を基点に205の230。パル島所属の教導隊である貴隊しか間に合わない》


  レーデンの対応は速く、1秒ほどの間を置いて、レーデンの指示が飛んだ。


 《教官と教官機竜でのみ出迎える。イキシア》


  レーデンの指示に教官達の雰囲気は実戦のそれへと変わり、編隊を整える。


 教官は経路こそ違えど実戦を幾度と無く経験し此処まで生き残った猛者である。一瞬で意識を切り替えるのは簡単で、出来るからこそ生き残り、出来なかった同僚達は例外無く死んでいる。


 《お前を基点に265の180で低空飛行。候補生長として指揮を執り、基地へ帰投しろ》


  レーデンを先頭に正方形を斜めに傾けた様な編隊を作ると編隊を維持したままイキシアからの返事を聞くこと無く候補生から離れ、魔法生物のいると思われる方向へと頭を向ける。


  《スゲー……》


  候補生の誰かの声が響く。


  候補生は編隊飛行と編隊を維持したままの旋回や方向転換の訓練を受けさせて貰っていない為に教官達の編隊移動に憧れの目線を送る。


 イキシアも同様だったが、手綱を握り直すと候補生全員に通信を入れる。


  《265の180に回頭。高度50mで帰投!》


  イキシアが一足先に動くと他の候補生も遅れながらではあるがイキシアの取ったルートと同じルートに乗る。


 候補生長と言う候補生のまとめ役であり、候補生だけで動く場合の指揮官兼責任者でもある。

 今のイキシアの両肩には候補生全員の命を預かる事となる。


  そんなイキシアの前方に不運が現れる。


「なんで……どうして、魔法生物が……」


  指示を受けて逃げた先が魔法生物の正面だった。


  血の様な赤黒い光沢のある身体に飲み込まれそうな程に黒い鋏を頭部に持った虫に似た形の魔法生物が鋏を何回か動かした後に急加速して、戦翼機竜の身体や首を狙って突撃を敢行する。


 満足な武装はおろか武装らしい武装をしていない訓練用戦翼機竜では魔法生物との戦闘は難しい。だが、逃げるにしても不可能な距離まで詰められてしまっている。


 《退避!》


  イキシアの指示を受けて、固まっていた候補生も動き出すが、成績の悪い女子候補生が魔法生物に捕まってしまう。


 《ひ! 嫌ぁ! 死にたくない! まだ死にたくない!》


 そんな通信が響き続けるが、武装がない以上はどうしようも無い。


  魔法生物は鋏を徐々に動かして行くと戦翼機竜の甲殻を叩き斬るかの如くひっしゃげ、遂には戦翼機竜の身体が2つに分かれ、溜めていた魔力が膨張、爆音と爆風に乗って戦翼機竜の破片を周囲に撒き散らし、その破片に当たった音が操縦席に響く。


  彼女の死に際は、彼女の体内魔力が混じった美しい桃色の魔力の爆発だった。


  仲間の死を目の当たりにして混乱が場を支配する。イキシアは方向が違う事を教官に通報しているが、離れている為に着くまで数分の時間が掛かる。


  なんとか混乱を宥めようと通信魔機に叫ぶが、混乱と恐怖に駆られた彼等にその声が届かない。


 ーーーーー前!


  目の前から迫る魔法生物に気付いた戦翼機竜がサマーソルトキックを放つ様に回転し下側から頭を蹴り上げる。


「ギリオンゼイ!」


  イキシアは蹴り上げられた魔法生物を見て魔法生物の種類を特定すると舌打ちを無意識の内にしてしまう。


  ギリオンゼイは血の様な赤色の甲殻に真っ黒な鋏の役割を果たす顎が特徴的な昆虫型の魔法生物だ。

  全長は確認されている物で1m〜2.5m程で最大の攻撃用武器は挟める程度の鋼鉄ならば容易く切断するだけの切れ味と力を有する鋏だ。


 《相手はギリオンゼイです! ブレスかブレスガンを使って下さい!》


  イキシアは相手の正体を看破すると追撃を取り止めて離脱する。


  ギリオンゼイは魔法生物の中では比較的弱い種類だが、近接技しか使えない訓練戦翼機竜には分が悪い相手だ。

  と言うのも、ギリオンゼイには溶解性の高い毒液を体液にしており、危害を加えると関節から毒液を分泌する。また、傷口や鋏にも毒液を出す為に攻撃を受ける、行う際にも注意が必要である。


 イキシアは攻撃を仕掛けて来たギリオンゼイの頭部を掴ませると別のギリオンゼイを目掛けて遠心力を追加しながら放り投げて、2体を撃破すると決して倒せない相手では無いとわかると多少の混乱が収まり、教官との合流を果たすべく、自分達からも近付くが、既に3人と3騎を失っている。


 《ヒヨッコ共は落ち着いて退避しろ。教官共はブレス並びにブレスガンで対応しろ》

 

  漸く、合流を果たすと教官達の戦翼機竜の翼や頬から楔状に加工された魔力の結晶が発射される。

 ブレスガンと呼ばれる物で魔力精製能力のある戦翼機竜だと戦闘を行いながら弾補給をする事が出来る武装だ。


  発射された魔力結晶が甲殻を貫通して体内へと侵入される直前にギリオンゼイの自慢の毒体液を噴射するが遠距離武器が相手では相手に掛ける事は出来ない。だが、刺さった結晶を溶かすが溶けた事で傷口を塞ぐ物が無くなりかえって出血が酷くなり、体液不足で事切れ、重力に囚われたギリオンゼイが海へと落下する。


  教官達の到着により隙を突いて候補生達は撤退、1騎の教官用戦翼機竜が援護を受けながらなんとか戦闘領域から逃げられたと言える程に離れると教官がギリオンゼイ討伐の為に向きを変えて、候補生達から離れた瞬間に上空からギリオンゼイとは違う体型の生物が現れる。


「何!?」


  イキシアが周囲を目視で探させると背後で教官の戦翼機竜が真っ二つに切れると魔力の膨張による爆発で空に紫の花火が咲く。


  教官の戦翼機竜が落とされた事で再び混乱。候補生達がバラバラに逃げ惑う。

  イキシアは離れるなと叫ぶが教官の死はイキシア程度にどうにかなる混乱では無く、突出した戦翼機竜が教官の戦翼機竜を切り裂いた物に切り裂かれると空中に赤い花を咲かせる。


  これにより更に混乱した候補生達は単独で我先にと逃げ始めると次々に切り裂かれ、空に色取り取りの徒花を咲かせる。


「ッ!? あー、クッソ!」


  悪態を吐くイキシアは他の戦翼機竜よりも高い高度を取り、離れると2騎の戦翼機竜を切り裂いた物体が猛スピードでイキシアに迫る。


  イキシアの戦翼機竜は恐怖心からかカタカタと甲殻を震わせるがイキシアが手綱を強く握り締めると震えは止まり、迫る物体を正面に捉える様にホバリングする。


 ーーーーーテールアタック!

 ーーーーーうん!


 イキシアの指示が飛んだ瞬間に身体を回し、遠心力を乗せた尻尾での一撃を放つが迫る物体が腕の腕に弾かれてしまう。


「これで! どうだ!」


  弾いて油断しただろうタイミングでイキシアが鐙を後ろに蹴り上げる。


  戦翼機竜は後ろ向きに縦回転を行い、踵蹴りを切り裂いた物体に当てると後ろに錐揉み回転をしながら吹き飛び、空島に当たって止まる。


「キシュアアアアアアア!!」


 不快感と恐怖を煽る奇声を上げながら、土煙が晴れ始めるとその姿をようやくまともに確認する事が出来る。


  体長は2mに迫る薄黒い身体は波打つ様に脈動しており、甲殻に覆われている様には見えない柔らかそうな印象を受ける身体に体長に対しては細く感じるがサイズの4本の足で空島にへばりつき、滑らかな刃で作られた鎌の様な腕を広げながら透明な羽と黒い羽を1対4枚を広げて威嚇する様なポーズを取りながら、逆三角形の顔の半分を占める巨大な目からは憎悪と憤怒が隠す事無く溢れ出ている。


  そんな2mを超える昆虫型魔法生物がイキシアを獲物ではなく、敵として完全に捉えていた。


  「マンティーコアの黒色種…しかも、繁殖可能な個体…厄介な相手だな」


  マンティーコア

 体長は1mから3m。緑・茶・白・黒の4色が確認されている。

  その性格は至って獰猛。目に付く獲物は容赦無く襲い捕食するが、群れで行動する相手には離れた個体だけを襲う習性を持つ。


  その中でも黒は縄張りを持たず、同種の異性や餌を求めて徘徊するタイプで性格が最も荒い性格を持つものが多い。さらに羽が黒い個体は性成熟を迎えた大人で強力な個体だ。


  相手の身体を見て、かなり強力な相手だと今更ながらに気付いたイキシアだが、相手の注意を引けたと考えると通信魔機で候補生達に固まって基地へと帰投する様に叫ぶ。

  生き残った候補生達は落ち着きのある候補生やリチャードにバラスなどの5人のメンバーでイキシアが対峙しているのを見ると落ち着いて行動し、生き残った5騎の戦翼機竜が固まって動き始める。


  ーーーーー来るよ!


  逃げた事を確認していたイキシアにマンティーコアの鎌が迫る事に気付けなかったが、戦翼機竜が急降下で回避するとマンティーコアは大きく旋回しながら位置を調整して、追撃を仕掛けてくる。


「(マンティーコア種は強力な種であるが、特殊な能力は無い。落ち着け)」


  迫る鎌を回避しながら頭に中に誰よりも早く、多く詰め込んだ魔法生物知識からマンティーコアの情報を引き出す。


  マンティーコアの攻撃手段は噛みつきと両腕の鎌による一撃のみだが強力な顎と振動と硬化の魔法を乗せた鎌の一撃は純粋な物理攻撃と言う点では生態系トップを誇る。


  近接戦闘でマンティーコアを討伐出来れば近接戦闘では一人前と言われる程に強力で新人や中堅の者にとっては登龍門的存在である。


「(重甲殻型じゃないこの子じゃ、マンティーコアの一撃は耐えらえない。兎に角、回避に専念して、時間を稼ぐ)」


 マンティーコアの一撃一撃を確実に冷静に回避するイキシアにマンティーコアは当たらない攻撃に苛立ちからか奇声を上げながら大振りで高速な一撃を放つ。


「そこ!」


  イキシアは振り下ろされるマンティーコアの鎌に合わせて、横に捻りながら倒れ込む様に回避をすると同時に鎌の峰に足爪でオーバーヘッドシュートを当てる。


  マンティーコアは増えた勢いに負けて空中で1回転半して背中をイキシアに向けてしまう。

  イキシアはその背中を足爪で大きく引っ掻くが訓練用戦翼機竜の爪では出血を伴わせるのがやっとだった。


  甲殻を持たないマンティーコア。

 これだけ聞くと攻撃全振りの防御は皆無に聞こえるだろうがそうでは無い。

 マンティーコアは甲殻を捨てた代わりに分厚い皮膚を持った事で幼体の魔法生物から放たれる物理攻撃位は無力化出来るだけの防御力は持っている。


  訓練用戦翼機竜の爪は物を掴むついで程度で攻撃能力を付与しているだけで、サイズは幼体の魔法生物から少し大きく長い程度だ。


「キャッシャアアアアアアア!!」


  傷付けられたマンティーコアが怒りに任せた鎌の横振りを放ち、片足の爪先をほんの少し切断する。だが、そのほんの少しにがイキシアから数少ない武装を奪う。


「いいさ! 元々は効かない武装だ!」

 ーーーーーよくも…よくもやってくれたな!


  強がるイキシアだが、イキシアの戦翼機竜はそうは思わないらしく、回転して遠心力を乗せた踵落としをマンティーコアの頭部に叩き付ける。


  何かが割れる音と潰しかける感触を受けたイキシアの眼の前でマンティーコアが下の浮島に叩きつけられる。

  何回かもがく様に足をバタつかせるがのそりと立ち上がり、頭の薄い甲殻が割れ、隙間から紫の血を流すマンティーコアが鎌を構えながら羽を広げると猛スピードで迫る。


 身体の大きさに反した大きさと羽ばたく速さと力、そして魔法で強化された羽によりお互いの距離を猛スピードで食い潰し、鎌の射程範囲にイキシアと戦翼機竜を捉えると袈裟斬りを放つ様に鎌を振るう。


  イキシアが下がる事で回避するが追撃の掬い上げる様な一撃は甲殻を薄く斬られる。


  「クソ!」


  悪態を吐くが即座に加速しながら後ろに下がり、マンティーコアは鎌を無造作に振りながら後を追う。

  戦翼機竜も自分の顔や首を狙った一撃を細かな動作を加えて回避したり、フェイントを入れて外させたりしながらなんとか致命傷を避けて行く。


 ーーーーーあの空島に近づいたら勝負だよ。

 ーーーーー覚悟は出来てるよ。


 風に流され、後ろを通る空島を見つけるとその空島で勝負を決めると決心するとマンティーコアの動きに神経を総動員する。


  マンティーコアが大振りの一撃を放った所で急加速して後ろに下がり、距離を大きく取り、空島の側面に両足を付ける。


  マンティーコアは素早い動きを捨てた1人と1騎が格好の獲物に見えたのか狩れると確信を匂わせる奇声を上げながら片方の鎌を突き出してくる。


  「今!」


  右の手綱を引き上げて右翼を閉じさせると左翼を全開で魔力を吹かせる。

  すると爪で地面に刺さった右足を基点に半身分右にズレる。


  マンティーコアの鎌は装甲の一部を削るだけで大したダメージを与えられずに空島に深々と刺さる。

 イキシアはマンティーコアが鎌を抜く前に空島から離れ、背後から顔と首の付け根と首と胴体の付け根を掴み、空島の進行方向とは逆に捻るように回転させる。


 マンティーコアは身体は回ろうとするが鎌がそれを阻害し、空島は風で逆の方向に進む為に肩の関節が耐えられずに腕が肩から捥げる。


「ギ…ギシャアアアアアアアア!!」


 マンティーコアが激痛からか不快な叫び声を上げて、ジタバタと暴れ始めるがイキシアはマンティーコアを持ったバク転をして、空島の地面にマンティーコアを叩き付ける。


  イキシアの戦翼機竜はマンティーコアを叩き付けた衝撃が上に逃れる前に更に踏み込み、マンティーコアの体内で上に逃げる力と下に加えられた力が衝突し、脆い内臓を大きく傷付ける。


 マンティーコアの口からは紫色の血が噴き出し、徐々に弱る寸前で最後の力を振り絞った一撃が戦翼機竜の胸を捉える。

  鎌は胸を大きく切り裂くが、操縦席内部へはギリギリで届かず、外の光が操縦席に入り込む様になる。


 ーーーーーよくも!


  戦翼機竜がマンティーコアを掴んだまま、浮き上がるとマンティーコアを頭から地面に叩き付ける。

 叩き付けられたマンティーコアの頭が元々が砕かれる寸前だった所為かグシャリと嫌な感触を残して跡形も無く潰れ、残った身体の関節からも力が抜け、糸の切れた操り人形の様に地面に落ちる。


 もう、動かない。そう確信したタイミングで教官達の戦翼機竜が集まって来る。


「(イキシア…成る程な。あの経歴は嘘ではないか……)」


  マンティーコアの死骸を確認してレーデンが入学の時に渡された経歴表を思い出すが、それを頭の片隅に追いやり、通信を入れる。


 《全魔法生物の討伐を確認! 全騎帰投!》

 

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