2将を討つ
短いかな?
【天正15年03月08日】
戦場作法のみっつ。『狂えども、狂うな』
戦場にあって狂わねば人を殺せぬが、頭から狂って冷静さを失ってしまったのでは討たれるだけだ。増して俺は匹夫で終わるつもりはない。戦場を見渡す冷静な部分を残しておかねばならない。
「おおおおおおおおおおおお!」
目につく島津兵士を片っ端から槍にかける。相手はただただ逃げまどっているだけだから、藁束を相手にしているように容易だ。
その間にも戦場を見渡して、流れを把握する。
今はまだ攻勢でいい。敵は乙津川に沿って北上しつつある。
鶴崎の女どもも鬼気迫る形相で島津兵を片付けている。
俺たちから逃げようと、一部の兵士は道の両側に迫る大野川と乙津川に逃げ込んでいた。
が、この時代の両川は水量が多い。しかも連中は重い鎧を着込んでいるのだ。
逃げ込む先から溺死していた。
おおよそだが。
鶴崎の伏兵と鉄砲隊に追い立てられた島津兵は、俺や妙林尼が率いる日向後家に討たれるのが1割、更に1割は投石に殺られて、3割は溺死している。残る半数は這う這うの体で北上していた。
「これで、5人!」
逃げる相手の背中を斬る。
次はどいつだ! 周囲を確認すると、妙林尼がなかなか立派な様子の武者と遣り合っていた。
あれは、分が悪い。
俺は槍を頭上に回転させつつ、妙林尼の助勢に駆け付けた。
「ご助成いたす!」
横合いから槍を突きいれると、武者はこれも槍で弾いてみせた。
なかなかに面白き相手とみた。
ニヤリと笑う。笑ってしまう。
「それがしは津野孫次郎親忠!」
「小童が、邪魔するでない!」
武者が槍を繰り出す。
しかし
「なんとも!」遅い!
俺はその槍を払いざま、返す穂先で武者の胸を突いた。
血を吹いて武者が倒れる。
「助かりました」
妙林尼が息を整えながら礼を言う。
「なんの。しかし、この武者。身なりから名のあるものと見ましたが?」
「伊集院美作守です」
鶴崎城に入っていた島津3将のうちの1人だ。
「にしては、ずいぶんと槍が弛んでおりましたな」
「それはそうでございましょう。この日の為に、美食と女に溺れさせたのですから」
妙林尼が悪い笑顔をする。
恐い人だ。だが、それ以上に…綺麗だと高ぶるなかで思った。
股間が痛いほどに盛っている。
俺は手を伸ばして、妙林尼の頬に触れた。返り血がベッタリと女の白い肌につく。
「あんたは、美しいな」
「孫次郎様も…」
俺はブン! と槍を振るった。女はあとだ。
次の獲物を求めて見渡す。
島津兵は虎口を脱したようだ。残っているのは傷ついた者ばかり。
「追討に移行する!」
俺は大声で指示を出した。
投石班と弓持ちの班とを率いて島津兵の後を追いかける。
攻撃が届く距離になったところで、投石と矢を射て、島津の兵士を少しづつ削る。
30人ほどを倒したところで、連中も弓兵を後背に配してきた。
ここで、俺と文六を含めた槍持ち5人の出番だ。
「行くぞ!」
言って、俺は全力で駆けた。
弓が放たれるが、こんなもの意外と当たりはしない。
と思っていたら、矢が腕に刺さった。
「おお!」
だが、痛みは感じない。アドレナリンが大量に出ているせいだろう。
そのまま俺は弓兵のなかに突入した。槍をぶん回して、当たるが幸いとばかりに周囲の島津兵を殴り倒す。
「鬼じゃ! 鬼がでた!」
整然を取り戻しかけていた島津の兵どもが、今度こそ壊乱する。
「その鬼、儂が退治してくれる!」
流れに逆らって、馬に乗った武者が太刀を振り下ろしてきた。
刃が俺の腕に刺さった矢を切り落とす。
「名を名乗られい!」
「儂が名は白浜周防守!」
「おお! 島津3将ではないか! それがしは津野孫次郎親忠。先ほど、美作守を討ちましたぞ。ついでです、周防守の首もいただきましょう!」
「嘯くなよ!」
刃が振るわれる。
が。
「情けなし!」
逆に俺は周防守の首を吹き飛ばしてやった。
俺が強いわけじゃない。妙林尼の策にはまって、周防守もまた長いこと修練を怠けていたのだろう。
文六たちの働きもあって、弓兵どもを粗方討ったところで
「孫次郎様! 匹夫の勇ですぞ!」
と文六に叱られた。
「ああ、すまん」
戦場作法のよっつ。『大将は前に出過ぎるな』か。けど、俺は大将なんて呼ばれるほど偉くない。むしろ今は前に前にでて手柄を稼ぐべきだと思うんだがな。そう言っても、文六たちは聞いてくれないんだ。過保護なんだよな。
俺は追いついてきた妙林尼たちに目をやった。
「周防守を討ったぞ」
槍の穂先で、首を示す。
「鮮やかなお手並みでした」
「いいや、妙林尼のおかげだ」
俺は彼女を抱き上げると、主を失った周防守の馬に乗せた。
「追うぞ! 島津はこの先、寺司浜だ!」




