召喚
オタクかどうかという境界線は結構、曖昧だと思う。
アニメやゲームをしている人がオタクと分類されるのであれば男性全般がオタクになるし、かと言ってフィギアやポスター、抱き枕等の所持まで考えるとそれはそれで違う。
これは僕の勝手な持論だけどオタクは自身がオタクであると自覚していればオタクなのだと思う。そして僕は生粋のオタクだと理解しているからこその対応だ。
ほとんどの人はいきなり異世界に召喚されればパニックになるだろう。少なくとも戸惑うぐらいのことはするはずだ。現に目の前の二人は意味のない言葉を繰り返している。そんな中で僕は注意深く周りを観察していく。高貴そうな男女。騎士や魔法使い。窓の無い部屋。
今後、必ず必要になるであろう情報を頭に叩き込みながら口元がにやけるのを抑えることが出来なかった。ああ、これから念願の悲願の待望の異世界召喚による英雄伝説が始まるのだ。順当に魔王討伐か。はたまた国の建て直しか。あるいはここから一人で奴隷ハーレムを作るのもいいかもしれない。
「お父様。召喚する勇者は二人ではなかったのですか?」
高貴そうな男女のすぐ横に立っていたきらびやかな女の子が不思議そうに尋ねる。そういうこと。なるほどね。今回は巻き込まれたパターンか。僕は正直、普通の大学生位のスペックと一般的な顔立ちをしているのに対し、前の二人はかなりかっこいいし綺麗だ。この二人と並べて「君が勇者だ!」とはならないだろう。
「・・・おそらく混乱なさっている方が勇者様たちだろう。」
高貴そうな男がゆっくりと言葉を吐き出すように返事をする。三人同時に召喚というのはかなり稀有なパターンなのだろう。発言を終えると同時にさっと後ろに従者のような人が膝をつきこうべを垂れる。
「私もそう思います。予想ですが、今回の召喚は前回の失敗を汲んで魔力の出力を可能な限り増やしました。その結果、一人分の魔力量が余り、無作為に全く別の人族が召喚されたのでしょう。」
彼らの言っていることが重要なことはわかっていたがそれよりも気になったのが。
「とすると多すぎて召喚し過ぎてしまいましたという結果なのだな。・・・謝るべき相手が一人増えたな」
言葉の違和感だ。日本語に翻訳してくれているけど雑いというか適当というか。言葉がわからないよりはさすがにマシだけど慣れないうちは大変そうだ。
「・・・それで、そろそろこの状況を説明してくれるんだろうな」
意味不明な状況で日本語を聞けたからか冷静になった勇者(男)が質問している。外人さんが流暢に日本語を喋り出すと途端に安心するよね。完璧ではないけれど。
高貴そうな男女と少女が勇者二名の前に近ずいていく。その間に周りの人たちは膝を折っていた。
「申し訳ない。私はこの国を納めるものだ。今から説明しても大丈夫でしょうか?その、混乱していませんか?衣食住はもちろん。そのほか娯楽も未来も保証しましょう。ですので、勇者様たちをお呼び立てした理由とそのほか諸々のお話は後ほどでも大丈夫ですが。」
ものすごく丁寧、悪く言えば心の奥底が見えてきそうな対応だな。相当なえげつないことをさせられるか、はたまた、後でいい返事をするための籠絡タイムかな?
少なくとも僕は今から説明を聴きたいけど、ちらっと勇者様たちの方を確認すると視線を絡み合わせて頷いていた。リア充かな?キレそう。
「いや、今、ここで、説明してほしい。・・・いいよなそこの人も」
事後承諾ですね。天邪鬼になりそうだけど我慢。
「いいよ。俺も説明してほしい」
ゆっくりと、目を閉じて、深呼吸する。心の中で水面も思い描く。少しづつ心臓の音がゆっくりと遠くなっていく。でも、頭の中は焼き切れるほど状況を楽しんでいる。これはゲームだ。これまではプロローグでこれからは手札の確認だ。楽しもうとする心と冷静になろうとしている瀬戸際で目を開ける。
「では、