すべては姫の気まぐれからで~お嬢様のスポーツ男子逆光源氏計画!?~ 1ハンドボール プルート
「ハンドボールってだっせーよな!」
「あーうん、なんかそんな気するわー」
「てか、なにそれ?」
会話しながら同じクラスの話したこともない連中が部活中の俺達を見て帰っていく。
「気にすんな、どうせモテない帰宅部の戯言だ」
「ッスね……そういや、今日って我月先輩の弟さん、ピアノのコンクールでしたよね」
「ああ、ノアっていうんだけど父が仕事の休みとって母も3人で見に行くんだ」
「え、コンクール海外だよな、メシとか大丈夫なんか?」
「こいつかわいい妹がいるじゃないか」
「あ先生、うちはほとんど音楽家だから妹はチェロやってるんです。誰も料理しないから出前で」
「チェロってデカいじゃん、お前の2つ違いで中1なのにすげー力もちなんだな」
「そうなんだよ、妹がレスリングとかボクシング選手になったら将来は世界大会優勝も夢じゃない」
「うちには姉がいるんだが、喧嘩ばっかで体術極められたら生命の危機を感じる」
「……一人っ子でよかった」
□
「あの、空港を知りませんか?」
ここは僕のいた日本じゃなくて、とにかく知らない国だ。
「僕はどうしてここにいるんだ?」
周りの人間は異国人がいるといったような目を向けて去る。名前はわかるのに、言葉が通じなくて助けてもらえない。
「日本人か? いくつだ?」
「12歳……! お姉さん言葉がわかるんですか?」
「母が日系でな、ワタシは天丼が好きだ」
「僕はカツ丼が……う、頭が……!」
□
「兄ちゃんおかえりー今日の当番あたしだからご飯食べてからやっとくね」
「ああ……さて、テレビでも見るかな」
適当にザッピングしていると海外で銀行強盗が起きて、人質が数名死んだというニュース。
「なあ、コンクールどこの国でやるんだった?」
「んー? インマデニオだったかな? 出前どこにする~いつもの中華で……電話?」
□
昨日は嘘みたいな場面の連続だった。これがドラマなら視聴者は涙していたことだろう。
「本当に悲しいとき、涙って出ないんだね」
「俺は泣くけど……」
妹に泣き顔を見られたくなくて、人気のない場所へ行く。寺の裏手には場違いなほど綺麗な人がいた。
声をかける前に彼女はどこかへ行ってしまった。
「うちは無理よ」
「あの子は女の子だし、うちで引き取るわ」
親を亡くすと親戚をたらい回しにされるドラマがあったが、本当にそうなるとは思わなかった。
妹は親戚が養ってくれるというが、すごく心配だ。
■
「じゃあ母さん達お葬式の話し合いするからよろしくね」
「うん」
「………………」
「このチェロ売るってさ」
「え……?」
「これから居候するための持参金、いわば生活費だよ」
「そんな……」
「へへへ……それはやだよね……ふへぇ……なんとかしてあげるよぉ……」
「なんとか? いやっ! 近づかないで!」
「なぐられるかとととぅ……あ、後ろガラス」
「っいたぁ……!」
「そんなにその楽器大事? そんなヒャッキンでも買えそうなのより、君のほうが大事だよ~」
「おい、通行の妨げだクソブタ!」
「うわぁなんだきみは!」
「お前、どこかで見たことある……来い!」
「え? あ、私の荷物!」
■
「妹が連れてかれた?」
部活に行こうとしていたが、今日は無理だな。
「先輩大変だな……」
■
「どうしたの?」
「あ、この前の……実は妹が」
「ああ、わかってる。連れていかれたのでしょう」
「えっと?」
「革里ランナ。貴方の妹さんは私の家で保護した。心配はいらないわ」
「ええと、違う親戚のかたですか?」
「いえ、詳しくは後でゆっくり説明する。なにも心配はいらないわ」
「は、はぁ……」
「私がなんとかするから、妹さんにも合わせてあげる………部活をちゃんとしてきてね我月ルフトくん」
■
「さっきの人前にも何度か校門で見かけたよね」
「あれがヤンデレストーカーってやつなんだろうか?」
「先輩!」
「妹さんは?」
まずは妹はあの人に保護されていると説明する。
「ええっ!? 金もってそうだし美人だしいいなぁ」
「金といえば銀行の預金諸々は……」
「どうしたらいいかわかんなくて、親戚に」
「あーこれ親戚に金取られるかも……」
「くそっ! 大人は汚い!」
■
「もうすぐ進学なのに大変ねぇ」
「あのなんだったかしら、運動のすごいところ?」
「学費厳しいからねぇ……」
きっと養護施設に行くことになるんだろうな。
「ルフトくん」
「あ、部活終わりましたよ」
「ちゃんと約束守ったのね。えらいわ」
この年で頭を撫でられるなんて……。
「さあ、乗って」
「……リムジン」
「宝くじを当てればほとんどの願いは叶うのよ」
「へ……?」
「宝くじはね、元手にして投資をすれば増えるのよ」
「はあ……」
「チョコレートの実験、目の前のチョコを5分我慢したら2倍になるの」
「…………」
「でも食べたらそこで終了。二度とは手に入らない」
「あの…………」
「着いたわ」
■
「兄ちゃん!」
チェロを持って待っていた。どうやら大丈夫な様子だ。
「どういうことなんですか?」
「厳密にいうと彼女は兄が連れてきたの、理由は知らないけれど」
あとはセロナに聞くしかないか。
「えっと、親戚の太ったやつがチェロを売り飛ばすとか百均とか馬鹿にしてきて……」
「…………は?」
「楽器が安く買えたら世の中音楽家だらけだわ」
「ごほ……今はそういうノリじゃないだろう」
「あの、妹がお世話になりました!」
「お兄ちゃん、彼ね……私が面倒みることにしたの」
「ふーん、そうか、兄妹で趣向が似るとはな」
「そうね」
「彼女をいい音楽家にするぞ」
「彼を自分好みに育てる」
「え?」
「じゃなくて、ハンドボールで試合してもらうの」
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「貴方を高校に通わせちゃうわ」
「ありがとうございます。なんでこんなに良くしてくれるのかわかんないけど」
「私のことはパトローネだと思いなさい」
「はは……」
「それでね、試合するでしょ、こういうスポ魂アニメのようなライバルと熱い戦いをしてね」
「とにかく頑張ります」