カルマ ① バーチャル世界で殺し合い
俺はクラスメイトの大して仲良くもないやつに頼まれてゲームのイベントにいった。
『僕の変わりにイベント行ってきてくんないかな?報酬は弾むよスパイクとかボール、高いだろ?』
俺は昔からスポーツ大好き、家でじっとして何もていないのは大嫌いなタチだ。
ゲームはガキの頃にモンスターを集めるアレとかをやったくらいでインドアなものはまったくやらない。
しかし金に目が眩んでつい甘言に判断を鈍らせて悪魔に見を委ねてしまった。
「あのゲームってどう使うんすか?」
係員のお姉さんにたずねる。
「あのさ、君この限定チケット持ってるくらいだからゲーム上級者なんだよね?」
「いや、全然。サッカーかサッカーかサッカーしてるから」
「アンタ、ホント何しに来たのよ汗臭いんだけど~」
自分と同じくインドアな場にふさわしくないギャルが俺に絡みだした。
「はあ…ゲームなんてしてると目悪くなるだろ」
俺はもプレイヤーを見てため息をつく。
「ちょっと!ここでそんなこと言ったらダメだよー!」
可愛い女子が頬を膨らませながら言った。
「俺もなんで来たんだろうな」
よく考えるとアイツの変わりに参加した意味なんてない。
「お兄タン!ゲーム初心者でもスポーツマンなら大丈夫ダヨ!レベル上げもイージーモード同然!!」
人形みたいな格好の小さな女の子がわけのわからないことを言っている。
「おいおい子供がこんなとこ来ちゃだめだろ?」
「会長、そろそろ」
「わかったんダヨ!」
その女の子は偉い人だったらしい。
珍しいものをみた気分だ。
「AYPプレイヤーの皆様、本日は我が社のイベントに参加いただきありがとうございます」
女の子は先ほどの高いテンションとはうって変わって、大人のような話し方をしている。
「ここにいるプレイヤーは皆、優れた潜在能力を持っていると、データが出ておりす」
力?まさか参加者同士で殺し合いでもさせる気か?
「それでは…この空間へどうぞ」
怪しく歪んだ空間の中に吸い込まれた。
「さっきはどうも、初心者なのに災難だったわね」
さらりとした黒髪、色白の少女が親しげに話しかけてきた。
「誰だ?」
今日会った女子にこんな清楚な子はいない。
「バッチリメイクしてたのにフィールドのせいで溶けちゃったのよ!」
まさかこいつさっきのギャルなのか?
もしそうなら別人すぎる。
「ま、アンタの汗臭さがフィールドのお陰で消えてよかったわ」
間違いなくさっきのギャルだ。
「他の奴等は?」
「知らないわよ」
「すいませーん!!」
高い声の少女が俺たちに手をふる。
「あ、さっきの」
「もし空いてたらパーティー組んでもらっていいですか?そこが二人だけなら人数制限的に丁度だと思うんで…」
パーティー、また聞きなれない単語だ。
「アタシはいいけどアンタは?」
「パーティーってなんだ?誰かの誕生日か?」
「アンタそんなこともしらないの?」
そんなに驚かなくてもいいだろうに。
「ほら早くしてよね」
「これから何をすればいいんだ?」
変な場所につれてこられてまた変な場所に入り込んで、次は何をさせられるんだ。
「ゲームの世界に入るなんてアニメではベタだけどアタシ達は初めから生身なのよねー」
「つまり?」
こいつ何言ってんだ生身なのは当たり前だろ。
「だーかーらー刺されたら死ぬって話よ」
「…うう毎回、生身で合法的に怪我させられてゾクゾクしちゃう!」
明るい子だと思っていたらヤバイ子だった。
いますぐに家に帰りたい。
―――――
なんてこった。周囲は普通に戦っている。
「なんで皆戦ってんだ!?
普通はパニックになるもんだろ」
やられたら死ぬんだぞ?
「あんた。ハメられたみたいね」
黒髪女はやれやれといったポーズで笑っている。
「は?」
「あんた以外の参加者は、こうなることを知ってたのよ」
「……つまり俺にチケットを寄越したやつは、俺を身代わりにしたってことか?」
「普通に考えたらそうなんじゃない?」
「えっと~この戦いは、表向きはゲームの試作会ってことになってるんだけど、実は異星人が地球人の実力をはかるために、秘密で開いた大会なんだって」
「なんでそんなのに……」
わけのわからない奴等が開いたゲームなんかに命なんてかけてんだよ。
「優勝チームはなんでも願いを叶えてもらえるのよ」
「願い? 死ぬかもしれないのに願いなんて言ってる場合かよ!?」
「死ななければいいだけよ」
「私はただ合法に殺試合がしたいから~」
「ふざけんな! こんなところにいられるかよ!!
俺は家に帰る!」
<ログアウトしますか?>
少女のそばにいた秘書が、ジラジラ電子音をさせながら、その場にうつった。
「ああする」
<戦いが終わるまえに、ログアウトをしたら……
―――――――――死にますよ?>
「なんだって……?」
「当たり前でしょ。私達がここを出て宇宙人が怪しいことをやってるとか言ったら、この会場がエイリアンバスターに駆逐されちゃうもの」
「ふざけんな……! 俺はこんなの関係ないだろ! 誰にも言わないから帰らせてくれ!!」
俺はただ何も聞かされずここに来ただけなんだ。
くだらねえことに命なんてかけられるわけない。
<貴方が口外しない保証はありません。監視をつける必要が出てきますが……>
「つけたっていい!ここから出せよ!!」
<貴方一人ごときにわざわざ監視など、人員をさけません……それから>
「!?」
<――――システム上、この世界は優勝チームが誕生するまでログアウト不可となっています>
―――――――――――
「くそおおおおおおおお!」
俺は怒りにまかせて木の腹を蹴った。
バーチャルの癖に案外固いが、表面に傷がついた。
「あのさ、チームになったらもう解散できないんだから。やってくんないと困るんだけど」
「私は優勝なんて興味くただ戦いたいだけだしさ……きみはそこで、いつまでもうだうだやってていいんだよ~?」
「まあとりあえず半径1メータは離れないで。あんたが死んだら私達もまとめてログアウトだから」
「ならいますぐやられにいって、ここから出る!」
「んなことしてみな、あたしがあんたを死なない程度にブッコロす」
「ログアウトっつってもリアルログアウトだよ~」
「……」
「まあ心配しないで、しかたないからあたしがあんたを守ってやるわ」
「覚悟きめて戦おうよ~戦わないと……死ぬよ?」
「ちっ……わかった。やりゃいいんだろ!」
どっちみち帰れないなら生き残るしかねえ。