第九話 白い恋人
最近、ちょっとしたきっかけで、男性不妊の精子検査を受けることになった。まったく初めてのことで、病院を予約したあと、ふと精子はどこでどんな感じで出すのか、単純な疑問が浮かぶ。そして、男なら一度は見たことがあるだろう、あのエロビデオのエロナース。なぜか出すのを手伝ってくれるあり得ないストーリーが、ふと頭をよぎった。
――まさか?
ありえへん。
あったらたいへんやん。
万が一にも、
いやいやいやいや、
イヤッ!
ないとは限らんかも!
(はい、病気です)
まぁ、男なんて、脳みそが生殖器みたいなもんやから。
(もしかして、オレだけ?)――
ということで、いざ病院へ。
どうせ検尿のときのような紙コップを渡されて、トイレで出してこいって言われると思いきや、意外にも、受付の清楚できれいなナースが、きれいな紙袋に入ったプラスチックの容器を渡してくれた。まるでチョコでも入っているような感じの。
「ご案内いたします」
――え!
ほんまやったんかぁ!
でも、あの清楚な感じは?
イヤッ、かえってエロいぞ!
こんなのに保険がきくのか?
まさか、別料金?
だとしたらなんぼや?
えええい、もう、なんぼでもええぞ!
《よ、太っ腹!》
(『ああいう大人にだけは、なっちゃダメよ』ってよく言われる)――
案内されたのは、広くてきれいな個室ビデオルーム。中から鍵がかかり、ティッシュや消毒用のアルコール、簡単な手洗い場などが完備されていた。
ここのクリニックには、誰一人、ふざけている人はいない。先生、ナース、そして患者。みな真剣に不妊と向き合っている。
だからなのか? ここに、こんな個室のあることに、凄い違和感があるのは。どんな最先端医療をもってしても、精子を出すには、やはりエロビデオなのか? ここに置いてあるビデオは、先生の趣味なのだろうか? ま、まさかあのエロナースが手伝ってくれる系のビデオなのか?
それを確認することもなく、ちょこっと目をつぶって、ちゃちゃちゃってやったら、ピュッピュッピュッって……。すぐさまそれを、きれいな紙袋に入った容器に採って、さっきのナースに渡しに行った。
なんだか、チョコのお返しみたいな気がした。
(白い濃いびちょ…… じゃない、恋人)