第七話 浮気する女 ――恐るべきその作戦――
「どうして男って浮気ばっかするの?」
「ほんと、どんな男でも絶対にするよね。一度でいいから、浮気しない男を見てみたいもんだわ――」
おっと! よく聞く女子の会話が聞こえてきました。聞こえよがしに男の浮気性を非難しています。
裏を返せば、いかにも「女は浮気しません」的に聞こえますが、騙されてはいけません。これは女子の作戦なのです。スキあらば、自分たちに非のあることでも、上手に男になすりつけてしまいますからねぇ。怖いですよぉ、女子は――。
第一ラウンド
一人の勇気ある男子が、浮気の疑いのある彼女に、果敢に詰問口撃を仕掛けました。
「遊子。お前きのう誰とどこにいてたんや?」
「はあああ! お友達とニャンコカフェに行くって言ったよね」
「友達って誰や?」
「なんでいちいちそんなことまで、あんたに言わなあかんの」
「なんもやましいことなかったら言えるんちゃうの?」
「はあああ! やましいこと? なにそれ。あんたがそれ言うか? 飲み屋のババァとのツーショット写真にもしどろもどろやったくせに。やましいことしとんは、お前のほうとちゃうんけ」
「…………」
「それにしてもなんやの? あのババァ」
「ババァババァって、そんな年いってないわ。天海祐希と同じ年じゃ」
「あ・ま・み・ゆ・う・き! ごめん、気絶してて全然聞こえんかったわ。ゾウリムシがゲジゲジの〝つけま〟付けたようなオバはんが、宝塚でトップスターやったあ・ま・み・ゆ・う・き! びっくりしてパトラッシュも生き返るちゅうねん」
あっさり返り討ちです。
「あんた、そんなにうちのこと信用でけへんの? もう終わりやな」
で、出ました! 究極の責任転嫁。自分のあやしい行動を、男が、――自分を信用してない――という問題にすり替えてしまいました。そしてとどめの脅迫です。
この「終わりやな」の一言には、
『もう、私とエッチできませんよ』
『これで気兼ねなくほかの男に抱かれますよ』
という含みがあるわけです。もしここで本当に別れてしまったら、もう文句の一つも言えなくなるわけですから、男はただただ黙るほかありません。
「ゴメン。そんなつもりやなかってん」
やはり、あっさり男が謝ってしまいました。今夜きっとこの彼は、激しく彼女の身体を求めてしまうことでしょう。動物ですから。
第二ラウンド
「女の勘は鋭いのよ。嘘ついたってすぐにわかるんだからね」
これはいけません。こちらの女子が、反則技の〝女の勘〟を使ってきました。この呪いにも似たひとことで、女どもは男たちを震え上がらせてきたのです。
これは、いわゆる〝女の勘〟伝説というもので、今や、まことしやかに《女子には、この特殊能力を持つ者がかなりいる》とささやかれています。これを言われた男子がいくらチョロチョロしたところで、途端に暴かれ、ネチネチと追込みをかけられてしまうのです。近年、男子は、女子のこの能力を反則と認定しました。
それではここで、〝女の勘〟口撃によって、男が木っ端微塵にされてしまう、恐ろしいシーンを見てみましょう。
*
飲み屋のおねえちゃんからのメールに返信しようと、ある男子が携帯電話を持ってトイレにこもりました。
「なにこそこそ女にメールしてんねん! バレバレやっちゅうねん。〝女の勘〟は鋭いねんからな」
いきなりの口撃に、しどろもどろを禁じ得ない彼……。
トイレがダメならと、タバコを買いに行くふりをして、外に出る作戦を試みます。
「あれ? タバコ切れそうや。ちょっと買ってくるね」
「外で気兼ねなく女に連絡ですか? なにが『タバコ切れそうや』や、この大根が。切れとんはお前のオツムのほうじゃ、ボケ」
浮気旅行の隠ぺい工作に買った土産を手渡すときも、
「これ、出張のお土産」
「はいはい。飲み屋の女との温泉旅行楽しかった? 普段、お土産なんかいっこも買ってけぇへんくせに。あんたホンマにわかりやすいなぁ。首の後ろにキスマークついてんで」
「え!」
「なに、動揺してんねん」
こんな調子で、次々と暴かれるわけですから、女子には、特殊な能力があるとしか思えなくなるわけです。
しかし、本当にそんなに勘が鋭いなら、競輪・競馬で女子が勝ちまくっていなきゃおかしいわけで、実際そんなことはありません。
実はこれ、巧妙に心理面をついた恐るべき女子の作戦なのです。要するに、男のすべての行動に言いがかりをつけているわけです。ただただ疑ってかかり、ちょっとでも変だと思ったら、
「女やろ? 女やな。女に決まってる」
とひたすら責め続けるわけです。そりゃなにか後ろめたいことの一つでもあれば、顔色が変わり、しどろもどろになって当然です。
財布の中のレシートを捨てただけでも、
「今、なにか都合の悪いものを捨てたでしょう?」
お笑い番組でちょっと大声で笑っただけでも、
「不自然にテンション上げて、なにか誤魔化そうとしてるでしょう?」
てなもんです。
肩を揉んで疑われ、
ケーキを買って疑われ、
皿を洗って疑われ、
体を鍛えて疑われ、
しまいには息をしただけでも、
「あら、ため息ですか?」
――いったいどうしたらいいんですか、僕たち――
実は、どうすることもできないのです。男には、なす術がありません。チョロチョロするのを止め、草花のようにおとなしくし、一生、清廉潔白に生き続け……。
彼女の行動にはいっさい干渉せず、どんなに帰りが遅くても、たまに帰ってこなかったとしても、戻ってきたら機嫌よくし、仔犬のように尻尾を振ってお出迎えをする。
男子諸君!
女子は、そこまで求めているのですよ――。




