表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

第五話 舌足らず

 俺の会社に滑舌の悪い女がいる。アラサープログラマーのH子だ。顔もスタイルもなかなかなのに、しゃべると残念なおばちゃん系。

 口癖が、

「あかん、エロいこっちゃ」

(仕事中に、なにを言うとんねん)と思ったら、どうも本人は、「えらいこっちゃ」と言いたいらしい。

 この前なんか、

「エッロー、しんどいわぁー」

 って、言うから、

「エロ過ぎてしんどいって、どういう状況やねん?」

 と、突っ込んだら、

「エロいなんて言うてへんわ。いちいち突っ込むな、このエロじじい」

 と、――〝えらい〟は、よう言わんくせに〝エロい〟は、普通に言えるんです――。

 さすがにカチンときた俺は、H子に言い返してやった。

「お前こそ、その滑舌でみんなに散々いじられて、突っ込まれて、よう妊娠せぇへんなぁ」

 そうしたらH子のやつ、

「あっ! いくらなんでも、今のは、セクハラですよね? 訴えますよ」

 だと。

(まったくなんでも、セクハラ、セクハラって言えば黙ると思いやがって)

 と、心の中でつぶやいて、あとは貝のように口を()ざしたのだが……。

     *

 そんなH子を連れて、みんなで韓国料理屋へ行ったときのこと。H子が、また偉そうに、

「『キムチ』って韓国語ですけど、日本人の発音では韓国人には通じませんよ」

 と、言いだした。俺はすぐさま、

「お前の口から発音とかしゃべりのうんちく、聞きたぁないなぁ」

 と牽制(けんせい)したらH子のやつ、いけしゃあしゃあと、

(あし)(ひた)っ足らずかしれへんけど、そんなに滑舌(かっでつ)悪いですか?」

 だと。

 そっこう誰かが、

「お前この前、給湯室で、『ナンパでカーセックスで、イった』って言ってたらしいなぁ」

 と、言ったら、H子は顔を真っ赤にして、

「『難波でカラオケボックスへ行った』ちゅうたんじゃ、ボケ」

「どんだけ舌、短いねん? 生えてないんとちゃうか? あああんしてみぃ」

 と、なんとも情けない会話になって……、

 そのあと、

「お前は韓国人に通じる『キムチ』の発音ができんのか?」

 との言葉に、待ってましたとばかりのH子――。

「韓国人が、日本のアダルトビデオを見ると、女の子のよがり声が『キムチ』、『キムチ』って聴こえるんやて」

 と、相変わらず悪い滑舌と、トンチンカンな例え話に一同がキョトンとしていると……、

「あんたらみんな、そろいもそろって頭悪いんか? 女の子がエッチしてるときに言う『気持ちええ』が、ネイティブの『キムチ』の発音なんじゃ」

 と、また偉そうに啖呵を切ったH子。自分が関西人であることをすっかり忘れた、恥ずかしい間違いとも気づかず。

 すかさず誰かに、

「アホ! それを言うなら『気持ちええ』やのうて『気持ちいい』やろ。まったくお前は、舌も足らんけど、脳も足りてへんな」

 と突っ込まれ、同期で仲のいい同僚にまで、

「君、リアルなやつやってんなぁ!」

「リアルって?」

「舌っ足らずの脳足(のうた)りん」

「誰か、ノータリンじゃぁ!」

 と、やっぱりいじられっぱなしのH子なのであった。


《チョギヨ 〝キモチイー〟 ハナ ヂュセヨ》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ