表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第三話 剃毛 ――ある初老男の日記――

《二〇一四年八月二八日(木)晴れ時々曇》

 きょう、俺は、毛を剃った。

 陰毛を……

 しかも、妻に強要されて……

     *

 ことの始まりは、風呂に入っていたときのことだった。ふと自分の股間を見たら、あろうことか、陰毛に白髪が混じっていたのだ。しかも、けっこうな割合で。

 ショックだった。いつかはくると思っていたが、ついにきたか……と。頭が薄くなるのに次ぐ衝撃なのではないか……と。

 風呂から出た俺は、なぜかいの一番に、妻に報告していた。

「あかぁん。チン毛が白なってきた」

 妻は不機嫌な顔をして、

「だからなに? ジジイなんだから当たり前でしょう」

「お前はそれでええんか? 俺がジジイになってもええんか?」

「だ、か、ら、おめぇはもうジジイなんだよ」

「イヤや。絶対にイヤ。塗ってやる。マジックで塗ったんねん」

《確か、このときだったと思います。妻が、ものすごい勢いでキレたのは》

「ああああ! もう、うっせぇな。おめぇのチン毛が何色だろうが、誰も興味ねぇんだよ。 生えてること自体が気持ち悪りぃんだから。そこらじゅうに、抜け散らかしやがって。わかってる? 洗面所とかチン毛だらけなの。そんなにいやなら全部剃っちゃえよ。そのほうがよっぽどこっちもたすかるわ」

 キレると〝べらんめえ〟口調になる下町育ちの妻。しどろもどろの俺は、

「え! チンコに毛がなかったら笑われない?」

「はあああ! おめぇは、外でチンコ出して歩いてんのか?」

「そやないけど、あるべきところに毛がなかったら、ハゲてるみたいやん」

「バカじゃねぇの。人間なんて猿からみりゃ、ほぼ〝つるっパゲ〟なんだよ。そんなところに毛があるほうがよっぽどキモイわ。だいたい抜ける以外になにか意味あんのか、おめぇのチン毛は」

「人間の毛は、身体(からだ)の大事な部分をまもるために生えてるんやろ」

「いやいやいや。ありえねぇし。そんなチョロっとした毛で、なんにもまもれてねぇし。むしろパンツのほうが、よっぽどチンコをまもってんだろ。その上からズボンだって履いてるのに、なにをいまさらチン毛に頼る必要があんだよ。意味わかんねぇし」

「確かに」

 すると突然、手をたたきながら笑いだす、情緒不安定な妻。

「ウケる。チン毛に埋れて、おめぇの小っちぇチンコが、余計に小ちゃく見えてんのに、色とか気にしてるし」

 大爆笑しながらその場を去っていった。

 婉曲した言い方だけど、励ましてくれる優しい妻の言葉どおり……

 俺は、チン毛を剃ったのだった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ