爆発しろ!恋愛脳
「は?」
私こと、成田道子は呆然とした。
「は?じゃないわよ、オバサンのクセに林君に色目使わないで!気持ち悪い。」
林君とはだれぞ?
色目とは何?
そして、かわいい貴女は何をそんな般若になってんの?
会社の女子トイレ。
偶然あった、隣の課の女の子に突然、切れられました。
齢45の私はもういろいろ達観していて、特に若い女子には優しくしてきたつもりだ。
別にライバル(仕事も恋愛も)になるわけじゃなし、比較対象にならないもん。
必要以上には食い込まず、こちらからは挨拶はするけど話しかけはしない。
話しかけられたら基本、面白い話をする。
マジメにアドバイスなんか求めてきていないのはわかっているので『そうなんだ~』『へえ~』と聞き流す。
『今の若い子ってそうなのねえ。」といえば話は終わりだ。
上手な距離をとっていたはず。
なのに、今、ひどい敵意を向けられている。
林・・・林・・?ん?
「林くんって、設計部の?」
「そうよ、アンタが昨日、相合傘を強要して自宅まで送っていった彼よ。」
「それは・・・あのさ、昨日はたまたま、会社の玄関前で一緒になって、思いがけず雨がひどくて、私は傘もってなくて、林君が持ってたから、私の車まで入れてくれたら、家まで乗せたげるって取引しただけだよ。それに林君とは親子ほども年も違うんだから、色目なんか使うわけないじゃん。」
林君は徒歩通勤で私が借りている駐車場の横をだいたい、私と同じ時間に通っていく。
朝、タイミングがあったらおしゃべりしながら通勤する。
人懐っこいあんちゃんだし、にこにこと話しかけられれば悪い気もしない。
ちなみにこれが女の子でも一緒だよ。息子との方が年が断然近いような若い社員なんか男も女も一緒だ。
だから、昨日も気楽に傘にいれてもらってついでに家に送った。
アルイミ、色目を使っていないからこその気安い状況だったよ。
「オールドミスのくせに何よ!」
「いやいや、私、結婚してますし、2児の母だよ?長男はもう18歳なんで、林君は新人だし、まだ23くらいでしょ?ないない、息子より5つ上なだけだし。」
この子、私が独身だと思ってたの?
なんで?
「え?成田さん・・・独身じゃないの?」
「失礼な!ちゃんと普通に結婚してます。」
「ごめんなさい・・知らなかったんです。じゃあ、林君とは別に?」
「当たり前よ。カレを狙ってるの?力になるわよ?」
急にうろたえだした彼女をにやりと見やる。かわいい!いいわね、若い子って。
恋愛、一大事なのね。
「同期なんです。研修のときからいいなって・・・」
「そうなんだ。今、林君は学生時代からの彼女と別れて、フリーなんだって。趣味は映画鑑賞だっていうから映画にでも誘ってみたらいいんじゃない。いきなりは誘いにくいかな・・じゃあ、来週の設計の花見に一緒に参加しようか?」
「なんで成田さんはそんなこと知ってる上に関係ない設計の花見に参加できるんですか?」
睨むな睨むな。
「え?聞いたから知ってるだけだよ。貴女のことも知ってるよ。今は彼氏いない暦3年。大学のときに高校から付き合っていた彼氏に浮気されて大学時代は軽く男性不振。趣味はお菓子作りといってたけどどうかなあ・・その爪では難しいと思うけど、まあ、今は道具もいろいろあるしね。設計の花見は設計の課長が私と同期で、奥さんも知り合いだから毎年誘われてるんだよ。毎回、家族参加。ちなみに林君と話したのはたまたま朝の通勤で一緒になることがあるからだわね。好みでいえば私はガタイのいい人より細い人なんでカレは好みじゃない。そんなこと考えたこともない。そもそも私は旦那様大好きなんで。」
一気に言葉にすると、彼女はあっけにとられた顔で私を見ていた。
「成田さんがそんなにいっぱい話すなんて・・・」
その後、林君と花見で仲良くなった彼女に『仲人さん』とあだ名をつけられ、あちこちの部署の若い子たちから恋愛相談を持ちかけられるようになった。
どいつもこいつも会社に何しにきてんの?
爆発しろ!恋愛脳!