がんばらなくちゃ幽霊
大学受験をしたならば誰しもが通る道。
ダラダラして受かりたい。
それをぶつけた作品です。
「まず100位!!」
塾の教師はペンをテーブルに叩き付けながら叫んだ。
「いい?美貴子さん。貴方伸びしろあるんだからもっと勉強しなさい。ダラダラするんじゃないわよ!!」
してないっての、と心の中で毒づく。
「全国模試で100位いったら第一希望の大学も軽く受かるわ。だから勉強!!帰ってよし!!」
「はぁ」
私はどっと疲れた身体を引きずって、自宅へと戻った。
それでも眠れる訳ではない。
大学受験生は勉強しなきゃならないのである。
「だるいなぁ」
私は本音を漏らした。
夏休みに入ったある晩からそれは見えだした。
自室で勉強していると、テーブルの横で寝っ転がっている私がいるのである。
いや、幽霊なのだろうか。
その私の幽霊はテレビを見ているらしく腹を抱えて笑い、ポテトチップスを食べてはジュースを飲んだり、非常にリラックスした夏休みを謳歌しているようだ。
はっきり言って目障り以外の何者でもない。私は勉強しているのだ。
しかし若干うらやむ気持ちもあった。
私は深呼吸すると、あっちに行っちゃ駄目だと1人ごちた。
季節は冬になった。勉強はラストスパート、というより確認の段階に入っている。
風邪をひかないよう四六時中マスクをして、ショウガ紅茶を飲みながら見直しをする。
「まぁ出来てますか」
模試の結果も良好だ。
と、無視し続けていた幽霊がガタガタ震えているのに気付いた。
ただでさえ青白い顔が真っ青だ。目の焦点もあっていない。
口が何かを呟いているようなのだが聞き取れない。動きから察するに、全然勉強してないどうしよう、だろう。
私はふんと息を吐いた。
「早く勉強しなきゃ」
突然幽霊が私のノートをひったくった。むさぼる様に読む。
そして放り投げた。イヤイやと頭を振る。
そしてぱっと消えた。
ものすごく後味の悪い気持ちになった。
勉強しなかったらこんな事になっていたのか。
大学受験には合格した。
あの塾の教師の言う通りに第一希望に入れたのだ。
100位には入れなかったけれど。
あの幽霊は塾の教師が遣わせたんじゃないかとか、私の潜在意識が出てきたのかとか色々考えたがよく分からなかった。
あれ以来みていないから。
合格の連絡を両親に伝えて帰路へとつこうとした時、耳元で声がした。
「このがんばらなくちゃ幽霊」
本当に受験戦争に勝ったのだと思った。
どっちかが幽霊じゃなくて「私」として生きていく予定だったんでしょうね。