執念のドレス
「お見事!」
へとへとの状態でドレスを持っていくとアリシア様はぱっと破顔して私とアルフォンスお兄様に賞賛を浴びせた。窓の外にはすっかり沈んだ夕日が夕闇を連れてきている。
「すごいわ!本当にあったのね!」
「ええ、さっきようやく出来ました」
「仕立てたの?」
「いいえ、所謂リメイクです。私の来季の新作を作り変えましたから」
「大丈夫なのか?」
「同じものを作れば良いだけです。デザイナーには申し訳ありませんが、これも修行のうちですから」
エマは既に闘志を燃やしまくっていた。ぶっ倒れると私が困るので昨日から今日にかけて制作を担当していた者は全員1日休みを言い渡している。私も本来は休むべきなのだがそういうわけにもいかない。
「それでは早速見せてもらおう」
「はい。失礼しますね」
ドレスを覆うカバーをお兄様と2人でひっぺがえす。その瞬間にアリシア様とリゼリア様はおおっと声を上げた。
「すごいわ!マリア、流石ね!」
「とっても美しい」
アリシア様はうっとりとドレスを見つめた。前のドレスとはまた違ったテイストだが、とにかく今回のは軽やかだ。
オールドブルーを基調に、胸元はさりげなく開き、ウエストを細く見せるようにV字の黒のリボンが縫い込んである。袖は軽やかなレースで縁取られ、揃いの手袋を用意。ウエスト下はカーテンの見開きのようになっており、左右は上からの続きでオールドブルーの布地に小花の刺繍が黒と銀色でびっしりと施してあり、その間に覗くのは黒のフリルだ。大きめのフリルで可愛さはなるべく抑えている。ちなみに追加した刺繍はこの黒の小花である。私が着るなら銀色の刺繍だけで「まさにマリア」なフェアリー感が出るのだがアリシア様には似合わない。黒できりっと締めることでアリシア様にも着れるように変化させた。フリルも元は白だったのだが、全部黒に変えた。白だとサラセリア様とかぶる。
「とっても豪華だわ…靴やアクセサリーも全て変えたの?」
「はい。前は白だったので、今回は黒で、それも真珠で揃えましょう」
絶対にサラセリア様と被らせないように細心の注意を払って選んできたのは、黒真珠のチェーンの中央に大きなエメラルドが光るネックレス。アリシア様の瞳の色に合うはずだ。ちなみにこれだけは見つからなかったのでここに来る途中の宝石商に頼んでおいた。ついでに揃いのイヤリングも買った。請求は全部アリシア様なので遠慮なく買い上げておいた。髪飾りだけはアリシア様の私物で似たようなものがあるのでそれをチョイス。
「さあ、一度着てもらいますよ。男はみんな部屋の外!」
手を叩くと渋々といった感じで護衛の2人は外へ出た。
代わりに侍女が寄って来て、ドレスを恭しく持ってアリシア様を着付けていく。
私もそれを見ながら、化粧はこうだ、髪型ああだ、と侍女達に指示をする。侍女たちはかなり真剣に聞き、着付けている時も細心の注意を払っていた。
髪型を整え、化粧を施すとアリシア様は見違えるように美しくなった。化粧はなるべく優しく見えるように意識してもらっている。外交があるからなるべく親しみやすさを見せたいと思ったからだ。アリシア様は満足そうに微笑んだ。
「もう入っていいわよ」
リゼリア様が呼ぶと即座にレイモンド様が入ってきた。きっとドアの外でイライラしてたんだろなあ。
「おー、めっちゃいいじゃん」
呑気な顔でジョシュアさまが入室。私は一気にテンションが上がった。アリシア様の全身をくまなくチェックし、特に問題がなさそうなのでジョシュアさまに擦り寄る。
「私が頑張ったんですよー?」
「そーなんだー」
清々しい程に棒読みでした。相変わらずレイモンド様はアリシア様に跪いて美しい美しいと言っている。アリシア様は微笑を崩さず、ドレスの丈やフリルを気にしていた。
「本当によくできている。マリアの執念を見た」
「お褒めに預かり光栄に存じます、アリシア様」
「これで舞踏会に出られるわ!良かった!ありがとうマリア!」
「私も明後日に向けて用意をしなければ…リゼリア様はもう衣装がお決まりでしたっけ?」
「ええ、もちろんよ。いつも兄が選んでプレゼントしてくれるの」
「素敵ですね」
仲良さそうな兄妹だなあ。ジョシュア様はアリシア様の衣装を遠慮なく見ている。記録するのだろうか。
「昨日大変だったんだろ」
「いつものことだ。マリアがいなければいつものように黴臭いドレスしか残っていなかっただろうけど」
「いつも、ああなのですか」
「サラセリアは私にどうしても負けたくないようだから」
諦め気味にアリシア様は目を伏せた。
「それにしても」
リゼリア様はきっと侍女を睨みつけた。その視線の先には陰険にアリシア様のドレスを睨みつけるマギーがいた。
「お前、よく帰ってこれたわね。図々しいにもほどがあるわ」
「おやめなさい、リゼリア。マギーはそのままで良いの」
「だけど、これでまたドレスを持って行かれたら困るわ!」
「一式全てマリアに預ける。マリアも当日はここでセットアップすると良い」
「心得ましたわ」
マギーは恨めしげにドレスを見つめている。おそらくサラセリア様に報告するために勝手に出て行くだろう。
アリシア様はドレスを汚す前に、と言ってドレスを脱いだ。それを来た時と同じ様にカバーにかけ、私は直ぐに帰ることにした。眠くて仕方ないからだ。アルフォンスお兄様もアリシア様に下がって良いと言われたので直ぐに自分の部屋へと帰って行った。私はジョシュア様に送ってくださいとお願いすると、珍しく快諾されたのでドレスを抱えて城を辞する。
「悪いけど街に用事があるからついでに送ってくれね?」
「構いませんよ。乗ってください」
むしろキタコレである。ジョシュア様は何の躊躇いもなく馬車に乗り込んだ。荷物を積むことが多いので私の馬車は広めに作ってある。そのためジョシュア様が乗ろうが全く息苦しさはない。それどころか若干距離が遠いのがさみしいくらい。
「どちらまで?」
「サンクルーゼ通りまで」
「あら、随分下町ですね」
「知ってるのか?」
「タウンのあちこちにうちが抱える工房がありますから」
御者に指示をして馬車を走らせる。ジョシュア様はじいっと私の顔を見つめた。朝に湯浴みしたけど顔の疲れは取れてないしクマもできてるかも…見られたらアラが出る可能性がある、完璧な私でないと…
「顔、真っ青だけど大丈夫か?昨日無理したんだろ」
「えっ、いえいえ、大丈夫です」
「本当に?そういえば、サラセリアが部屋に乗り込んで来たんだってな。今までで一番インパクトのある登場だったってリゼリアが怒ってた」
「リゼリア様ったらマギーに殴りかかったんですよ」
「そりゃ傑作だ。俺もいるべきだったな」
「昨日はどちらに?」
「ヤボ用だよ」
あ、視線逸らされた。
「サンクルーゼ通りにはお仕事ですか?」
「いーや、ヤボ用」
「お付き合いしてもよろしいですか?」
「良くないな」
手でしっしと追い払う仕草をされた。私は困った顔を作って首を竦めた。
「今日と明日はゆっくり休んで明後日に備えたほうが良い」
「ジョシュア様も舞踏会に参加されるのでしょう?」
「勿論、今回はジジイも参加するしな」
「といいますと、今の語り部様ですか?」
「そうそう。引きこもりのジジイが参加するくらい大切な行事ってことだよ」
今度の舞踏会は毎年社交シーズンの終わりを表す、最後にして最大のイベントだ。招待状が各貴族に送られ、殆ど全ての貴族が参列する。滅多に姿を見せない王が主催するのだから、臣下としては出ざるを得ないのだ。本当に変わり者の貴族だけは参加しないのだけど。
「でしたら失敗はできませんね」
「そういうこと。しっかり休んで体力戻せよ」
「ええ、勿論です」
「この辺りで降ろしてもらおうかな」
ジョシュア様はニヒルに笑って御者に馬車を止めさせた。私はにっこり笑って手を振る。ジョシュア様も珍しく手を振り返して颯爽と歩き去った。
「馬車を隠してください。私もここで降ります」
いやいや、逃がすわけないでしょうこのチャンス。ジョシュア様について知るいい機会ですもの。私も馬車を降りて、まさに貴族という格好を形ばかりでも隠すために粗末な布をショールの代わりに肩に掛ける。ちょっといい商家の娘っぽくなるので案外カモフラージュできるのだ。
しかも普段この辺りをうろつくから、この辺りの住民も「あ、ローズヒルズのお姉ちゃん」的な感覚でバレてるし温かく迎えてくれたりする。悪いことしてないしね。
先程ジョシュア様が消えた角まで歩く。さっとその先を見るとジョシュア様の姿はない。
「あ、おねーちゃん、久しぶり。今日はどこに行くの?」
「あら、お久しぶりですね」
仕立て屋の娘が私の姿を目ざとく見つけて駆け寄ってきた。
「人を探しているんです。背の高い茶色い髪の男の人がここに来ませんでした?」
「そんな人いっぱいいるけど…あ、ジョシュア兄ちゃんのこと?」
こてん、と仕立て屋の娘は首を傾ける。こんなピンポイントで名前が出るとは思わず私は目を大きく開いてしまった。
「ど、どうしてジョシュア様のことを…」
「どうしてって、お姉ちゃんの婚約者だもん」
「へ?」
彼女のお姉ちゃんは私と同い年の16歳。確かに婚約できる年ではある。が、しかし彼女は昔馬車に引かれて足が動かなくなってしまっている。寝たきりの生活でどうしてジョシュア様が彼女と知り合ったのだろう。いやむしろ、そのことよりも…
「お姉さん、病気は大丈夫なのですか?」
「うーうん、お医者様ももう長くはないだろうって」
幼い娘は顔を曇らせ、諦めたように目を伏せた。彼女の姉はごく最近、不治の病に侵された。治療法が確立されておらず、ただの下町の娘では良い医者を雇うこともできない。調子の良い時は起き上がることもできるが、悪い時は死んだように眠っている。
「ジョシュア様と婚約しているのに…」
「へ?」
「いいえなんでもありません」
それに、私が知る限り、彼女は出入りの業者といい関係になっているはずだ。前に話した時はそんな感じだったのだけど…
「ジョシュア様はしょっちゅうここへ?」
「うん、お姉ちゃんが病気になってから2日に1回は来てるよ」
「そうですか」
ジョシュア様、彼女のことが好きなんだ。私はすっと、すんなりと、
その心を理解した。病気で苦しむ彼女のお見舞いを欠かさないこと。それは忙しいジョシュア様には難しいこと。それでもそのスケジュールを押して、ジョシュア様はここへ来る。こんな下町に。
娘はそれから、ジョシュア様のことと、彼女の姉のこと、家のこと、最近の流行りの布について私に相談を持ちかけた。私は呆然としながらそれに相槌をうち、まともな回答ができないような状態に陥っていた。こんな状態を他の人には見せられないと思い、娘が家に来るか聞いたのを断った。
「お姉ちゃん、来ないの?」
「はい。今日は帰りますね。また視察に来ます」
「うん、じゃあね」
ひらひらと手を振り、少女は店へ帰って行く。私はふらりと急に押し寄せた疲労と戦いながら馬車を探した。さすがに明かりなどない下町は暗くなっており、寝不足のせいか足元がおぼつかない。
ふらりふらりと数歩よろけ、家壁に手をついて休憩。また数歩よろけては休憩を繰り返す。馬車はどこなのか。御者はいずこ。周りを見渡しても日が落ちてしまっては、暗くて見辛い。
こんな時にジョシュア様が助けてくれれば良いのに。
眠い、とてつもなく眠い。壁に寄りかかってズルズルと座り込みながらぼんやりとする頭でジョシュア様を思い浮かべた。失恋じゃない。婚約者がいることは分かっていたし、私を好きではないことも分かっていた。認めていた。だけど現実を見せ付けられると、どうしても苦しい。嫉妬に狂いそうになる。知っている相手が婚約者なら尚更だ。
遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。だけどジョシュア様じゃない、御者だ。
「お嬢様!」
「眠いです、もう、帰りましょう」
「捕まってください」
泣き言を漏らすと御者は即座に肩を貸して、私はすんなりそれを借りて馬車に乗り込む。すぐに馬が走り出し、窓から外を見るとなんとなく、闇の中でジョシュア様が私を見ているように思った。夢だったかもしれない。そうであってほしいと思ったのだろうし、ジョシュア様がいたならば城まで送って差し上げれば良かったとも思った。
次の瞬間には私は眠りに落ち、意識は欠片も残っていなかった。
「お嬢様、お目覚めですか」
目がさめるといつもの私の自室だった。御者が部屋まで運んでくれたのだろうか。私自身はかなり軽い方だと自負しているが、それでも重かっただろうに。
気の利く侍女が、私が目の覚めたタイミングで冷えた果実水を持ってきてくれた。飲み下してほっと一息。
「今は何時ですか?」
「11時です、お嬢様」
「あら、そんなに寝ていたのですね。今日はゆっくりして、明日の舞踏会に備えましょう」
「お嬢様、大変申し上げにくいのですが…今日がその舞踏会です」
「え?」
「マリア様ったら丸一日眠り姫だったんだからぁ」
フィリスの言葉に私は固まった。慌てて時間を逆算し、ほんの数秒で出た答えを絶叫。
「湯浴み!すぐに!ぬるま湯で!昼食は移動中に食べます!すぐに!城に行かなきゃ!準備して!」
侍女達は蜘蛛の子を蹴散らすように散り散りに命令を果たそうと走り出した。私もベッドから飛び降りて浴場に走る。セットアップは城でするが、下着だけは着ていくつもりなので、その準備に化粧品など出せる限りの指示を出してぬるま湯を超高速で浴びた。侍女の助けを借りずに全身を洗い、上がった所で香油やクリームを塗りこみ、髪を乾かす。時間が無いので今の段階では完全に乾かすことができない。これも城でやる。着替えを済ませ、昼食のサンドイッチを持って馬車に乗り込む。
揺れる馬車の中でサンドイッチに噛り付き、超特急で飛ばしてようやく城へ着いた頃には既に昼の2時にさしかかっていた。時間を計算しつつ、荷物をアリシア様の部屋へ運ぶ。
アリシア様はいつものように部屋で書類を捌いていて、リゼリア様は慌ただしく隣でアリシア様に隣国の王子の情報を与えていた。
「あらマリア。遅かったじゃない。ゆっくり寝れた?」
「お陰様で…丸一日寝ていました」
リゼリア様とアリシア様は少しだけ笑って、そして立ち上がって私の侍女の荷物をチェックした。
「今日は隣国のデズモンド王子が来られるわ。アリシア様もだけれど、マリアも愛想良くしてね」
「そんなに気を張らなくても、敗戦国の王子が戦勝国のうちに身売りされただけなんだけど」
アリシア様は面倒臭そうに零した。私は首を傾げて問いかける。
「ガーディン国と戦争をしたのはもう5年も前の話では?」
「5年も前の話なのだけど、この5年で状況がね」
「人質を差し出す必要がある程度に、向こうの財政状況は芳しくない。王子を差し出して借金の返済を先延ばしにしたつもりなんだろう」
「もしくは免除狙いね」
「免除って、どうしたらそんなことになるのですか?」
「結婚だな」
アリシア様はため息を吐き出した。私はけっこん、と口の中で呟いて、アリシア様とリゼリア様を見直した。
「結婚、それも王女との政略結婚で敗戦国と戦勝国の関係から同盟国にクラスチェンジってわけ。うちの国も男の王位継承者がいないものだから…老人共が五月蝿いでしょう?」
女王なんぞ、信用に足らんという不敬な輩は一定数存在する。そういう連中は外の国の王族を王女に当てがい、王を立てることに躍起になっているのだ。
「それはまた厄介な…でも、それでよろしいのですか?」
「私は全く良くないが、どうも陛下は…そのほうが都合が良いようだ」
「どうしてでしょう」
「目くらましだろうな」
アリシア様は言葉を濁し、わざと意図を探らせないようにした。
「さあ!とにかく!着替えましょう。時間がありません」
「そうね、みんなここで着替えれば良いわ。ちょうどマギーも向こうへ行ったようだし」
向こうといえばどうやらサラセリア様を指すらしい。マギーは仕えているアリシア様ではなく解雇したサラセリア様の元へ、最近は隠すことなく頻繁に馳せ参じているようだった。こちらとしては都合が良いので追求することなく、マギー抜きでアリシア様とリゼリア様と私のセットアップが始まった。コルセットを締め、侍女にドレスを着せられると一斉に鏡に向かった。
「相変わらずリゼリア様は紫のドレスが似合いますね」
「そう?お兄様がこういうのが好きなんだと思うわ」
リゼリア様のドレスはいつも紫か、紺か、そういう深い色が多い。そしてそれがとっても似合う。
今日も黒の肩を出したデザインで、金の刺繍が美しく施してある。スカート部分はふわりと気品のある紫のドレスだ。リゼリア様は細身だけど出るとこはしっかり出ているので難しい形を着こなせていた。
「あら、マリアはやっぱり青なのね」
「青薔薇ですから」
私はいつものように青い衣装に身を包み、造花の薔薇を縫い付けたデザインのスカートに気をつけながら鏡の前でチェックする。遠目から見るとただの青いドレスだが、近くで見ると青系三色の造花でいっぱいの豪華なデザインだ。造花にはクリスタルが縫い付けてあり、動くたびにきらきらと光を反射する。
「アリシア様、お似合いだわ。マリアが居てくれて本当に良かった」
化粧をしながらリゼリア様がアリシア様を褒め称えた。アリシア様も満足気に微笑む。アリシア様にはいつもより優しく見えるように化粧を薄めに施し、髪はアップスタイルで美しい首筋がよく見えるようにバレッタを留める。首にチョーカーを巻き、黒いレースの手袋をつけさせるとアリシア様は完璧な王女に変化した。
私はいつもと同じようにセットを完了し、リゼリア様の化粧を手伝う。といっても、元が良すぎて特に手を加える必要がなかったりする。
「準備できましたか?」
外から無遠慮にノックされ、返事を待たず躊躇なく扉が開かれた。アルフォンスお兄様が騎士用の礼服に着替えてレイモンド様と、そしてエディお兄様を連れて入ってくる。
「ええ、もうできたわ。行きましょうか」
リゼリア様は鏡で後ろ姿を念入りにチェックしながら返事をした。アリシア様も化粧台から立ち上がり、ドレスを摘んでレイモンド様にエスコートを頼もうとお辞儀をした。レイモンド様は溶けそうなほど熱烈な視線をアリシア様に浴びせ、跪いてエスコートを志願した。
「今宵の貴女様は女神も嫉妬するほどの美しさ…貴女様の忠実な僕であるレイモンドに、エスコートをさせていただけますか」
この姿には流石のアルフォンスお兄様も苦笑いしてさっさとリゼリア様の手を取って会場に行ってしまった。エディお兄様もドン引きで、私の肩を抱いて歩き出す。
「いつもあんななのか?」
「ええ、そうです」
「お兄様は心配だよ…」
声の大きなエディお兄様の言葉は前を歩くアルフォンスお兄様とリゼリア様に聞こえていたようで、前方の2人が無遠慮に笑い声を上げたのが見えた。
たしかにアリシア様の周りは変な人ばっかりだ。エディお兄様もお世辞にもまともとは言えないが、そんなお兄様が心配するくらい今日のレイモンドは飛び抜けていた。