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仕組まれた式典

ソフトなグロが入ります。さらっと流すようにはしています。



ラッパの音と、侍従の声を皮切りにまず王女たちとエスコートするデズモンド王子が登場した。

サラセリア様は私がデザインした通りのドレス…と思いきや、やはりサーリヤ様流のアレンジが加わり…見事な化学変化を起こしていた。どうしてこのところのサーリヤ様は蛍光色を使いたがるのだろう…蛍光の毒々しいピンク色と、朝焼け色を模した赤みのオパールとトパーズのネックレスは控えめに言っても大喧嘩をしていた。化粧もそうだ。いつも通り吸血鬼もかくやというほど白粉を塗られ、ピエロもかくやというほど濃いチークとシャドウ…もう何も言うまい。もちろんこの化粧はサーリヤ様には似合う。北国の雰囲気が出てすてきだ。だけどそれが万人に合うわけがないというのが何故わからないのか…首の地肌の浅黒さが余計に際立つだけだというのに。

サラセリア様はデズモンド王子の腕に絡みついて笑顔で堂々と道を歩く。


対するアリシア様は、私が用意したドレスを着ているように見えなかった。アリシア様はボロ布を纏っていた。頭まですっぽりと布切れで包み隠し、みすぼらしい姿で入場した。デズモンド王子から一歩引いて、エスコートさせるつもりも、されてもいなかった。


「見ろよ、みすぼらしい!」


どこからかヤジが飛び、アリシア様を嗤う貴族が出る。サーリヤ様が勝ち誇ったように私に向かって不敵に笑う。目の前が真っ白になる。どうして、アリシア様…!


デズモンド王子はいつもの青い軍服を着ていた。顔には満面の笑み。サラセリア様を恋人のように可愛がる。微笑みを見せつける。アリシア様には一瞥もくれない。


国王陛下と妃殿下が続いて入場し、2人は仲睦まじく手を取り合って進んで行く。妃殿下は美しい相貌を笑顔で彩り、国王陛下もそれを愛おしそうに見つめた。どうしてこんな幸せそうな人たちがアリシア様に、ついでに私にあんな仕打ちをするのだろう。


「皆の者、よく集まってくれた。まずは皆の者にデズモンド王子から挨拶がある」


陛下はよく響く声でデズモンド王子を指名した。デズモンド王子は颯爽と三歩進み出て、声を張り上げる。


「この美しい国の皆さんに私は謝らねばなりません…」


デズモンド王子はそう切り出して、サラセリア様に向かって手を差し出した。サラセリア様は恥ずかしそうに前に進み出る。


「私はこの国一番の美姫、サラセリア様に恋をしてしまった…!」

「デズモンドさま…」


サラセリア様はうっとりとデズモンド王子を見つめる。


「どうか、私と結婚してください、愛しいサラセリア…」

「…はい!」

「どうかみなさん、私が姫を連れ去ることをお許し願いたい!」


デズモンド王子のプロポーズにサラセリア様ははにかんで応える。会場は拍手と歓声でそれを迎えた。国王陛下はそれに眦を緩め、そして鷹揚に告げた。


「余の可愛いサラセリアを連れ去ることは許さん…その代わりに、サラセリアを女王とし、2人でこの国を賢く治めよ」


次の王が、女王が、決まった瞬間だった。アリシア様が何かを言う前に、発言すら許されないというように、なにもできなかった。

貴族たちから歓声が上がる。2人の結婚を祝って、貴族たちが祝福を叫んだ。


なにもできずに、勝敗は決した。


目の前が、足元が、崩れる。私がよろめいたのをエディお兄様が受け止めた。真っ青な顔でアリシア様を見つめる。


アリシア様は、突如ボロ布を放り投げた。脱ぎ捨てた。


脱ぎ捨てた下には先ほどのボロを纏った哀れな姫ではない、意志の強い、勝気な笑顔の、まさに国で一番の美姫が、剣を腰に携えて、ぞっとするほど美しい瞳で全員をゆっくりと眺めた。アリシア様はこの空間を作り出すためにドレスを、最高の美を所望したのだと、唐突に理解した。


時がとまる。

陛下ですら声をあげられない。

誰も発言を許されない、アリシア様の独断場が誕生した。アリシア様は余裕たっぷりに、じっと陛下を見つめ、静かに声を上げた。


「お考え直しください」

「…な、なにを…!」


ここでようやく妃殿下が、苦しげに声を上げた。


「サラセリアに女王となる資格はありません」


アリシア様はハッキリとそう言い切った。サラセリア様はキッとアリシア様を睨みつけ、不快そうに口撃した。


「次期女王に向かって何たる口の利き方。極刑は免れないわよ」

「王族に在らざるものがその地位を詐称した罪、軽くはないぞ、サラセリア」


アリシア様は、ものすごいことを、平然と返す。


「陛下、発言をお許しください」

「ならぬ。アリシア、お前は王族を、この国の平和を乱すつもりか!」

「この国を憂いる私の想い、お解りください、陛下」


アリシア様は陛下にはっきりとした忠誠のようなものを見せた。アリシア様の瞳に、陛下は魅入られたように一歩下がる。アリシア様は進み出て、固まる妃殿下を不敬にも…指差した。


「この国の王となる条件を教えていただきたい、妃殿下」

「それは、王族の血を引いた者でしょう」

「それでは貴女はそれでもサラセリアが相応しいと?」

「なにを…わけのわからぬことを!」


アリシア様はこれ以上は妃殿下に何も問わず、サラセリア様を目で捉えた。


「サラセリア、お前は女王となる資格を持っていない」

「…!」

「お前に陛下の血は一滴も流れていない」


サラセリア様はアリシア様の言葉を理解できていなかった。呆然と、アリシア様と、妃殿下を見て、わけのわからぬ顔をした。貴族たちがざわめく。さざ波のように疑念の声が、アリシア様を疑う者と、サラセリア様を…妃殿下を疑う者に別れた。


こっそりとアリシア様の後ろに控えていたアルフォンスお兄様が、アリシア様の目配せで、手を叩いた。

すると重く閉ざされた扉が開き、縄で捕縛された薄汚れた罪人服の老人が衛兵に連れられて入場した。


「こ、これは…!」

「ご存知のようですね、妃殿下。もちろんそうでしょう。彼は、サラセリア様をご懐妊中に付けられた医者ですから」


妃殿下は真っ青になって取り繕おうと頭を振った。サラセリア様はわけがわからないまま、母親がその形相を歪めるのを怖がった。


「陛下、おかしいとは思われませんでしたか?あなたの娘のサラセリアにはあなたに似たところが一つもありません…」


サラセリア様を指差し、化粧に塗れた顔を一瞥する。陛下は一言の感想も反論も述べなかった。


「サラセリアの瞳の色、髪、これは妃殿下のものを継いでいるでしょう。顔立ちも妃殿下によく似ている。ですが、肌の色は?どうしてこんなに暗いのでしょう」

「日焼けよ!」


妃殿下が叫ぶように言った。アリシアは喉から低く笑った。楽しむように、獲物を甚振るように。


「いいえ、それは異民族の肌の色です。そっくりじゃありませんか、デズモンド王子の肌の色と」


デズモンド王子も、少し暗い肌の色をしている。


アリシア様も、妃殿下も、それから陛下も抜けるように色が白い。この国の民族はみんな、肌の色が白い。隣国の、デズモンド王子の国の民族は概して色黒だ。これは民族的な遺伝であるらしく、どれほど日の光を浴びなかろうが、地肌の色は変わらない。サラセリアは日焼けで誤魔化せる程度の黒さではある、妃殿下もずっとそう言い続けていた、けれど。


「証言しなさい」

「はい、殿下」


捕縛された男が跪かされ、妃殿下が金切声で喚いた。


「どうして!誰の許可を得てこの男を牢から出したの!」


アリシア様は妃殿下の声を無視して男に促す。男はつかえながら、少しずつ話し始めた。


「私は20年前から2年前までずっと侍医として仕えていました…側妃殿下がご懐妊されたのは、後宮に入られる前です。私の診察では、後宮に入られた時には既にご懐妊されて2ヶ月経っておりました」

「それは後宮に上がる前に陛下と関係なされたからではないのか?」

「いいえ、それはありません。語り部の記録を見ていただければわかりましょう…」


ジョシュア。

アリシア様の唇が静かにジョシュア様を呼んだ。ジョシュア様は進み出て、アリシア様に記録を差し出す。陛下の、当時の行動を記したものだった。


「陛下は後宮に上がられるまで側妃殿下には指一本触れていない」


ジョシュア様の宣告にざわりと会場が波打つ。

医者だった男はさらに言葉を続けた。


「側妃殿下は私にご懐妊を偽るように申しました。私は家族を盾に取られ、そうするほかありませんでした。そしてお産みになられた時…予定よりとても早く産まれたのに健康で、奇跡の子であると陛下に申し上げるように…」

「そこまでで良い。彼を解放しなさい…彼は、私に真実を告げたことで妃殿下に罰せられ、牢に閉じ込められたのです」


妃殿下は崩れ落ちた。サラセリア様は母に駆け寄り、その体を支える。陛下は全く動揺を見せず…アリシア様を暗い目で見つめていた。


「さて、ここまできて相手が誰であるかわからないわけでもありませんね」

「ふむ…デズモンド王子の祖国の外交官であろうな」

「あなた…!私を信じてはくださらないの!この人たちは嘘を申しているのです。私があなたを裏切るわけがないでしょう…っ!」


妃殿下はガタガタ震えていた。妃殿下の失脚は誰の目にも明らかだった。これだけの人数の貴族を前に、不貞を晒され、さらには王位には到底つけない娘を…王位に捩じ込もうとしたのだ。それに、サラセリア様が生まれる前から…デズモンド王子の国とは小競り合いから戦争を繰り広げる敵国だった。つまり、妃殿下は、王だけではなく…敵国と内通し、あろうことか敵国の血を引く女を女王としようとした。これは国を裏切っていたことになる。


「余も何も知らなかったわけではない」

「国を売るおつもりでしたね」


アリシア様はごく自然に受け止めて、ため息を吐き出した。


「それも国として一つの選択。そのための王子との婚姻。なぜわからぬ?この国はもう、破綻している!」


王の言葉は、苦しげだった。アリシア様は、腰に差した剣を一息に抜いた。その剣を王に向けて、強い瞳で語気を荒く、宣告した。


「ならばこの国、私が貰い受ける!」


アリシア様は、一気に駆けた。アリシア様の剣が閃く。装飾など一切ない、戦場の剣であった。騎士の持つ剣そのものだった。その先には王の首。王は避けることもなく、その凶刃を、受け入れた。

誰もが息を飲んだ。年若い令嬢たちは悲鳴を上げた。


歴史に黒々と残るであろう、この国の王の首が飛んだ瞬間だった。

クーデターの一幕だった。


アリシア様は妙に手慣れた仕草で剣を振って血を振り払い、鞘におさめた。そして首を拾い上げて…高らかに宣告した。


「本日この時を以って……この国の統治者はこのアリシアである!」

「いいえ!」


金切声の妃殿下がアリシアに飛びかかろうとした。それを控えていたアルフォンスお兄様がやや強引に諌める。妃殿下は暴れてアルフォンスお兄様の拘束をふりきった。


「父上が黙っていなくてよ…アリシア!」

「これでも貴女は私が未だに何の庇護も力もない小娘だとお思いか?貴女が簡単に死に追いやった我が母マリエッタと同じだと?」

「なにを…!後ろ盾も何もないくせに!」

「いつまでも私を小娘だと侮るから貴女は負けたのだ」


アリシア様は毅然と言い放った。


「ラル・グラント家は反逆の罪で全員死罪だ」

「いいえ、私たちラル・グラント家こそが王族…!衛兵!この気狂いを牢へ!」

「誰がその命令を聞くとでも」


場が冴え渡る。衛兵は誰も動かない。妃殿下の命令を当たり前のように無視した。妃殿下は呆然とそれを眺め、膝から崩れ落ちた。


「では俺様の婚約者はアリシアということか?」

「この状況でなにを馬鹿なことを」


デズモンド王子がサラセリア様を捨てて、アリシア様に近寄った。アリシア様はゴミを見る目でデズモンド王子を拒絶する。デズモンド王子は何も考えていないのか、それでもふらふらとアリシア様に近寄っていく。一人称が俺様になっているあたり、もはや外面も取り繕いきれていない。今目の前で起こっていることがデズモンド王子の頭では処理しきれていないのだろう。


「私は貴方に言いました。私が王位をとった時にはあなたの国を滅ぼすと」

「なにを…あれはただのジョークだ!そうだろう!」

「アルフォンス!」

「仰せのままに」


アルフォンスお兄様はすぐにデズモンド王子を捕らえた。衛兵がサラセリア様を、妃殿下を捕らえて出て行く。残された貴族たちは何をすれば良いのか、妃殿下派は同じように処罰されるのか…誰もが気が気ではなかった。アリシア様の凶刃がどこへ向かうのか…妃殿下を擁するラル・グラントに向かった以上、今まで不遇だったアリシア様の怒りが自分を苦しめた周りに向かうのは当たり前の思考であると言える。だけどその対象はほとんど全ての貴族に当たる。日陰の王女に優しい変わり者の貴族などそうそういるものか……!


アリシア様は下々の貴族達を興味なさそうに眺め…その様子に安堵した貴族達が表情を緩めた瞬間にとっておきの爆弾を投げた。


「私に忠誠を誓えぬ者は去るが良い。この国から!」


忠誠を誓えぬならば追放だと、アリシア様は吼えた。貴族たちは、震えた。追放処分はこれ以上ないほどの屈辱…貴族達が恐れ戦くのを見届けた後、アリシア様は大股で退出した。宴は続かない。貴族たちは戦々恐々としたまま、逃げるように王城から出て行った。


会場から逃げ遅れ、馬車の足りなくなった貴族たちがまだ残っている。その中にサーリヤ様とレオナルドがいた。サーリヤ様は顔色を悪くして今にも倒れそうにしている。話しかけるつもりは毛頭ないが、ちょっと気の毒だった。確かに今後の展望としてアリシア様の死を望んでいただろうけれど、そこには悪意こそないはずだ。レオナルドは今までとは打って変わって気持ち悪いほどの下手に出た。


「我が愛しの婚約者、マリア!我々は婚約していたのだから、揃ってアリシア様を応援していたことになるな!これでラインラルド家は安泰、お前も安心して嫁げる!」

「ワタクシの教育の甲斐ですわね!」


最早バカ2人が喚いているようにしか聞こえないあたり、私もアリシア様の行動を処理しきれていない。まさかあの場でクーデターを起こすとは考えてもいなかったのだから。返事をするつもりのない私に代わり、エディお兄様も呆然としたまま答えた。


「レオナルド殿、貴殿はアリシア様が死ぬと賭けていたな」

「なにを!昔からアリシア様のみを応援していたのですぞ」

「アリシア様が王位を得れば身分を返上し、領土も全てローズヒルズに渡すと約束した」


ああ、そんな約束も、あった。

これで私は晴れて婚約者持ちの令嬢から、身軽な独身令嬢に戻れる…ぼんやりと頭の中であの味のない人参の行き先を考えていた。


「それはただの戯れ。これからは2人手を取り合って家を盛り立てていきましょう」

「いいえ」


私はようやく意思の持った声を上げた。思っていたよりずっと硬質な声だった。レオナルドは凍りつく。そして私の華奢で折れそうなほど細い肩を太い指で掴み、力の限り揺さぶった。


「なにを言う…!下手に出てやっているというのに!妻ならば従え!」

「貴方が大きな顔をできる期間は終わりました。私はアリシア様と親しいのですよ」


これは、虎の威を借る狐でしかない。だけど、これは彼らが妃殿下の威を借りていた、お返し。私が何もできなかったように、彼らも、何もできない。力が抜けたように肩から手が離れた。私は軽蔑の色を乗せてレオナルドを、ドロレス夫人を睨みつける。怯えたようにドロレス夫人はか細い声を上げた。


「人殺し…!ワタクシ達が貴女にどれほど心を砕いたと!」

「わたし、何もしていません」


頭を振って、ドロレス夫人を睨む。心底疲れていた。これ以上彼らの相手をしたくも、なかった。


「賭けの話は後ほど…アリシア様に挨拶してきますから」

「くれぐれも我が家のことを忘れずに…アリシア様を思っていることをお伝えください」

「必ず貴方たちが私にしてくださったことをお伝えします」


私からできる最大の死刑宣告だった。身に覚えがありすぎるレオナルドは、崩れ落ちた。双眸に憎悪を宿し、私を力の限り睨みつける。だけどそれは私には届かない。エディお兄様もレオナルドを牽制するように睨みつける。私とお兄様は会場を後にした。


アリシア様の私室の前は人で溢れかえっていた。日陰のアリシア様など一瞥もくれたことがないであろう貴族ばかりがアリシア様を訪ねていた。アリシア様の部屋の前に立つ衛兵たちがそれを困った顔で捌いていく。全員丁寧におかえり願っているようだ。


「アリシア様にお取次を!」

「今日はお会いできません、順次アリシア様から書状が届きますから…!」


貴族たちに押しつぶされそうになり、これは私たちも無理でしょうね、と諦めたところで私とエディお兄様の肩をアルフォンスお兄様が叩いた。


「静かに。お二人はこちらへ。アリシア様はここにはおられませんから」


私とエディお兄様はおとなしく、そっとその場から離れ、アルフォンスお兄様についていった。その先はアリシア様達が食事をとる小さな部屋。温かみのある部屋で、レイモンド様とリゼリア様は大泣きしていた。レイモンド様は無言でアリシア様の脇でしくしく泣いているだけなんだけど、リゼリア様は縋り付いて罵倒までしていた。


「なんでぇ相談もなくぅぅぅ」


リゼリア様がアリシア様を全力で責めていた。アリシア様は笑いながらそれを甘んじて受け入れていた。当たり前だ、私だってアリシア様を1発殴りたいくらい驚かされた。もちろんそんなことはできないけれど。そんな大それたことをするなるば…


「アリシア様、これから大変ですよ」

「分かっている。それよりマリア、すまない」

「え?何がですか?」

「せっかくのドレスが血で汚れてしまった」


…気にするところ間違ってない?


「いえ、アリシア様から依頼を受けて製作したもの。アリシア様には正式な代金を頂きましたからお気遣いなく」

「あんなものを見せて悪かったな。アレをするから言えなかった。私の味方であるより反逆を企てているほうがバレると厄介だろうと思ったのだ」

「それはお気遣い感謝しますけれど…やはり心構えくらいはしたかったですね」

「私としても少しは反省している」


よしよし、とアリシア様はリゼリア様を撫でた。


「それにしても…いつの間にあれほどの味方を?」

「昨日考えて今日実行したわけではないからな。少しずつ地盤を作っていた。実のところ、ラル・グラント家所属ではない貴族にはほとんど打診していたんだ。武装に不安があるローズヒルズはすっ飛ばしてマリアを引き入れたけれど」

「お見それしましたわ」

「アルフォンスの功績だけどな。それと、軍部の奴らはみんなガーディン国との戦いを覚えているからな」

「それはどういう意味です?」


アリシア様はアルフォンスお兄様に目配せをした。アルフォンスお兄様はめんどくさそうにしながら説明を始めた。


「あの戦はポーズでしかないんです。実際、あの戦争で我が国は負けていた…それも、我が国の将軍がガーディン国の手先だったからです。しかし、属国扱いより正式に国に組み込みたいと考えていたガーディン国は国王と密約を交わしました。ここでガーディン国が負けたことにして、王子を送り込み、その王子を我が国の王にする。それまでの期間、貴族達をガーディン国寄りのものに挿げ替えること…」

「それだとラル・グラント家は元々ガーディン国の…」

「ええ、そうです。内通していました。王妃だけではなく、当主もね」


内側から腐った国を立て直すには、アリシア様が王を殺して支配を打ち破るより他がなかった、とアルフォンスお兄様は続けた。


「我々はガーディン国と戦います。…尤も、同じやり方ではまた負けてしまい元も子もないですから…」

「どうなさるつもりですか?」

「僕が将軍になります」

「お兄様が?」

「はい」

「将軍に?」


そうか、アリシア様の治世になった今アルフォンスお兄様が出世するのは当たり前なのだ。予てよりアルフォンスお兄様が望んでいた地位は将軍だったらしい…


「あの無能の指揮ではたとえ内通していなくても負けていたでしょう。ですが、僕は手強いですよ。そう簡単には負けませんからね」

「いつから戦争になると?」

「早ければ再来月には」


アリシア様が頷く。それまでに、このごく短い期間でアリシア様は国の混乱を収める勝機すらあるようだった。


「そのうちラインラルドが爵位の返上をします」

「やっぱり?」


くくっとアルフォンスお兄様が笑った。


「その領地は我がローズヒルズの領地となりますが、承認していただけますか」

「領地の再編を戦争が終わり次第行うつもりなので、また多少の変更は生じるが良いか?」

「はい」


領地の再編って…国内の貴族達はこれからどうなるのだろうか…


疲れ切っているアリシア様に私は遠慮して、今日は屋敷に帰ることにした。

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