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ジョシュア

王城には何度か行った事がある。舞踏会だったり、第二王女様に営業したりと、何かと足を運んではいたが今までついに一度も第一王女様を間近に見ることはなかった。舞踏会でも遠くから姿を見るだけで、挨拶を済ませると舞踏会にも関わらずそそくさと退出してしまう人であったから、殆どの人は彼女を見ないのだろう。


しかし次の王は第一王女様に違いないという確信がある。皆口には出さなくても、そう思っている根拠がある。第二王女様は底知らぬ大馬鹿ものだからだ。私がこういうくらいなのだから、みんなそう思っているはずだ。

金を使うことに関しては才能がある。現に第二王女様に愛用してもらっているからこそ我が家は安泰なのだろう。だが、そのために国庫を削り取っているとなると話は別だ。…もっとも、国庫の件は噂にすぎないのだが、それほどまでに彼女の金遣いは荒い。


それに引き換え第一王女様は聡明で勉強熱心、堅実なお方であると有名だ。国の政治にも積極的に意見し、議会を唸らせるほどの知識とずば抜けた政治的な才能がある。ちゃらんぽらんな妹姫とは違うが、逆に冗談の通じない堅物で機嫌を損ねると手打ちになる…なんて噂がある。発端は彼女の護衛騎士が塔の最上階から真っ逆さまに地面に落ちた、という事件だ。この時塔の最上階の部屋には第一王女様と件の護衛騎士が二人きりだったという。どうやらこの二人は恋人だったようで、逢瀬の途中に塔から突き落とされるなど余程不興を買うような…つまり王女を振ったのではないか、という下世話な話で当時の街は騒然とした。件の護衛騎士の身分は元々平民出身だったせいもあり、その死の真相は語られることも調べられることもなかったらしい。しかしこれで王女のよくない噂は広まってしまった。



「本当は謁見の間で…とは思っていたのだけど、どうしてもあなたにはアリシア様のお友達になってもらいたいから、アリシア様の私室に通すわね」



とリゼリア様に言われ、案内役に兄のアルフォンス兄様もつき丁重に王女の部屋へ足を運んだ。もちろん王女の部屋である以上は一定以上の広さがあるため私が持ち寄った衣装は別の部屋を使わずに部屋に静々と運ばれていった。荷物が運び込まれている間、私とリゼリア様、アルフォンスお兄様は廊下で立って待っていた。



「緊張してる?」


「それは勿論です。なんといっても、王女様なのですから」


「最初はとっつきにくいお方だけど、可愛いお方よ。すぐに慣れるわ。ねえ、アルフォンス」


「そうですね」



兄は素っ気なく言って、最後の荷物が運ばれたのを見届けた。

リゼリア様が開きっぱなしの扉の中に声をかけた。



「もう入ってもいいかしら」


「お好きに」



中から鷹揚な声が聞こえ、リゼリア様は私に目配せをした。アルフォンスお兄様は溜息を吐き出して制服の襟を正した。



「リゼリア、アリシア様はご機嫌が麗しくなさそうですよ」


「いつものことよ。大丈夫。ほら、マリアさんもしっかりなさって」



背中をどんと叩かれて私は我に返った。


部屋に入るとカーテンを開け日が差し込んだ明るい部屋であるにも拘らず空気が淀んでいるのかどうしてもどんよりとした空気の、それはそれは陰気な部屋が目に入った。調度品は悪くない。勿論一級品のシックなものが置かれている。だがそれは男物と言っても過言じゃないくらいにシックだ。


王女はそれはそれは豪華な椅子に座していた。しかしそれはこの部屋には余りにも不釣り合いで、王女にも全く似合わない。



「それで今度はなんだっていうの」


「王女様に置かれましてはご機嫌麗しく」


「そんなのいつもしないでしょ」



苛々とリゼリア様の挨拶を遮って王女様は私に視線を投げた。


リゼリア様を繊細な美しさと言うならば、王女様は迫力のある美しさと言うべきだろう。森の古い木を思わせる焦茶色の髪に新緑の瞳、肌は白いがどこか色褪せたような気を発していた。顔には一切の化粧が施されず、髪もざっくりと後ろでひとまとめにされただけで王女様のオーラが無ければきっと私より身分が低いと言われれば信じてしまうほど、質素な身なりだった。何より彼女が身につけているドレスはこれまた彼女の祖母が着ていたであろう古い型のドレスで、深緑が色落ちしたような奇妙な色をしていた。



「侍女は不要と言ったつもりなのだけれど」


「ええ、勿論。だから侍女ではなく話し相手を連れてきましたの」


「話し相手?ローズヒルズのご令嬢が私の話し相手を?」



顔にありありと不快の色を貼り付けて王女はリゼリア様に問いかけた。リゼリア様は涼しい顔でそれをかわしていく。



「あなたの壊滅的なセンスをどうにかしてもらわないと」


「それは私の侍女がすることよ」


「いいえ。これまでは黙ってきたけれど、今日からは私とマリアさんであなたを改革するわ」


「そもそも着飾るつもりなんてないし、部屋だってどうでもいい。装うのは外に出る時だけでいいわ」


「ええその外に出る時ですらダッサイのはいかがなものなのかしら」


「ださい?」



王女の眉がぴくりと動いた。

私はようやく王女の後ろに控える中年の侍女を見つけた。侍女は敵意を持ってリゼリア様を睨んでいた。



「ローズヒルズ伯爵令嬢、あなたもそう思って?」


「今現在もそう思っております」


「素直すぎるわよ」



リゼリア様が吹き出した。王女も表情を緩めてくすりと笑った。アルフォンスお兄様はそれを見てほっとした顔をし、私とリゼリア様に椅子を持ってきた。


王女様に促されふかふかの椅子に座る。侍女が私とリゼリア様にお茶を持ってきたので受け取るがリゼリア様は頑としてそれを口につけなかった。私は出されたものを一応口に付けたが余りにも変な味がするので一口でお茶を諦めた。



「それで私に城内でも着飾れと言うのね」


「違いますわ。城内でも、最低限王女らしい格好をしていただきたいだけ。だからマリアさんを連れてきたのよ」


「このままでも十分よ。余計なお金をかけて国庫を圧迫するのも嫌だわ」


「あなたの衣装代くらいで圧迫されるほど国庫は小さくありません」



リゼリア様に叱られると王女様はしゅんとして小さくなった。



「大体あなたが着飾らないと不安に思うのは国民の方よ。あんな貧相な装いをするほど国は貧乏なのか、と」


「…だから外に出る時はきちんと」


「できてないから言っているのよ」



リゼリア様がぴしゃりと言った。王女様は唇を尖らせて拗ねた。



「リゼリアとアリシア王女は幼馴染なので気安く話しても許されているんですよ」



後ろからアルフォンスお兄様が私に囁いた。なるほど。



「とにかく紹介させて頂戴。マリアさん、こちらはこの国の第一王女、アリシア様よ。アリシア、彼女はマリア・ローズヒルズ伯爵令嬢。仲良くして頂戴」


「初めてお目にかかります、マリアです」


「よろしくね、マリア。私のことはアリシアと呼んでくれて構わないわ。ところでその荷物の紹介をしていただけるかしら」



王女様改めアリシア様が指示を出すと侍女が慌てて荷物を解き始めた。私は出てくる物を一つひとつ紹介し、前回採寸したものを参考に用意したけれど合わない場合は直ぐに手直しすると告げた。アリシア様はため息交じりにそれを見ていた。



「せっかくだけど私のクロゼットには入り切らないわ。もう沢山あるから」


「クロゼットを拝見しても?」


「構わないわよ」



アリシア様は立ち上がった。私とリゼリア様もその後ろに付き従って部屋の奥へ行く。奥は衣装部屋になっていてかなりの広さがある。


クロゼットを開けると私はビックリして きゃっ と小さい声を挙げた。リゼリア様は呆れたようにため息をついた。


それもそのはず。クロゼットの中は何世代も遅れた衣装が詰め込まれていたからだ。



「…これは要らない。これも要らない。これは汚い」



私はクロゼットからまだ着れるもの、着れないものを分別することにした。ポイポイと床に投げ捨てるのをアリシア様は悲壮な顔で眺めた。止めたかったようだがリゼリア様に羽交い締めにされ強制的に眺めるに留められたようだった。


一時間ほどその作業に没頭し、実に3分の2ほどの衣装が床に投げ捨てられた。残りの3分の1もこれから着るには手直しが必要なものばかりでこれは我が家で引き取ることにした。代わりに私が持ってきた衣装で3分の2ほど埋められたので当分着るものには困らないはずだ。靴も半分捨てた。小物もかなり捨てた。宝石だけは我が家は管轄外なので持ち寄ることはできなかったが検分して流行遅れ、どう考えても似合わないものはリメイクに出すように指示した。



「さてアリシア様。今すぐそのダッサイアブラムシ色のドレスを脱いでもらいましょうか」


「え?」


「私が持ってきたものにも緑はあります。そんなダサいもの、着せられません!」



言うが早いか、私はアリシア様に飛びかかった。アルフォンスお兄様は慌てて部屋から出て行った。リゼリア様も手伝って二人掛かりでアリシア様を着替えさせ、薄化粧を施し、髪も丁寧に櫛を入れて編み込むとようやくまともな王族らしく見えるようになった。侍女は何にも手伝わなかった。


ぐったりした王女に満足した私とリゼリア様は部屋の外に控えているアルフォンスお兄様を呼びに行った。



「お兄様、できたわ…よ…」



ノリノリで扉を開けると外にはアルフォンスお兄様以外に2人の男が立っていた。

一人は兄と同じ騎士の制服でリゼリア様と同じ黒い髪に黒い切れ長の瞳。髪は背中まであるようでうなじで一つに纏めている。背は兄よりずっと高い。

もう一人は王宮に勤める者にしては随分ラフな格好をしていた。さらさらの茶色い髪に榛色の瞳で、優しい顔つきだった。



「邪魔だ」



黒髪の男は私の肩を押して無理やり通った。よろけた私をアルフォンスお兄様が抱きとめ、黒髪の男に怒鳴った。



「レイモンド!貴方と言う人は!」


「うるさい。俺の前に立つ女が悪い」


「まあまあ、喧嘩すんなって」



間に割って入ったのが茶色い髪の男だった。持っていた分厚い本を黒髪の男に向けて牽制する。



「驚かせましたね。この目つきと性格の悪いのはレイモンド・アッカーソン。アッカーソン侯爵家の次男です。こっち茶色いのはジョシュア。歴史の語り部です」



歴史の語り部。

この国において、ある意味王族よりも価値のある人間である。この国の歴史をこの国の中枢で見、それを公式に記録する者である。彼らは王族の命令に従う必要は無く、しかし彼らは誰よりも保護され、なにより国民から支持されている。王が没すると彼らはその王の治世、伝記を作成する。良いところも悪いところも含めて。それはいずれ編纂され、教科書になり国民の全てが学ぶことになるのだ。

彼らは一族で、そして姓を持たない。語り部として厳しく教育され、国民から絶大な支持を受けている以外のことは殆ど知られていない。



「初めまして。マリアでいい?」



ジョシュア様は気軽に声をかけた。



「初めまして。構いませんわ、ジョシュア様」


「悪いな、レイモンドが押して。いつもああなんだ。アリシア以外には冷たいのなんのって」


「レイモンドは僕と2人でアリシア様付きの護衛騎士なんです」



先に部屋に入ってしまったレイモンドを追いかけて3人で部屋に入ると、レイモンドは立ち尽くしてアリシア様に見惚れてぼうっとしていた。


アルフォンスお兄様は即座にアリシア様の側に寄って感嘆の声を挙げた。



「すごい!アリシア様、やればできるんじゃないですか!」


「ほんと、綺麗だぜ。似合ってる」


「そう?レイモンドはどう思う?」



レイモンドは名指しされて惚けていた顔を即座に引き締めた。



「いつもに増して、お綺麗です」


「ありがとう」



跪かんばかりの勢いのレイモンドにあっさり興味を失ったアリシア様は鏡で自分の姿を確認していた。



「いつもどのようなケアを?」



私の問いかけにアリシア様は侍女に視線を投げた。侍女は私を明らかに見下しながらぼそぼそと話した。



「第一王女様はお若いので、特別なケアはされておりません」


「…それでは今日からケアをしてもらいます。よろしいですね?」



自分の姿に気を良くしたアリシア様は鷹揚に頷いた。侍女はそれをあからさまに面倒臭そうな顔をして拒否した。



「第一王女様。それは国庫の浪費というものです。若いうちはそんなものは必要ありません」


「そうなのかしら?」


「そんなことを言ってこの前はトリートメントをバスルームから持って行ったわね」



リゼリア様の問いかけに侍女はこれまた見下しきった顔をした。



「貴女様も贅沢のしすぎなのです。私の若い頃は…」


「あなたとは身分が天と地ほどの差があってよ」



リゼリア様が冷たく言うと侍女は無言でアリシア様に助けを求めた。アリシア様はどちらを信じるべきか判断に困っているようだった。アリシア様は結局私に視線を投げた。



「アリシア様、恐れながらどのような石鹸やシャンプーを使っているか見せていただいても?」


「ええどうぞ」



その言葉に頷いた私はバスルームに入った。中には庶民が使う質素な石鹸が一つだけ置いてあった。まさか、そんな。シャンプーの一つも、置いていない。オイルも無ければ、ブラシもないのだ。私は何も言わずに石鹸をゴミ箱に捨てた。



部屋に戻ってみるとリゼリア様が私が持ってきた荷物からバスセットを一式取り出して私にドンと手渡した。なるほど任せたとばかりにそれをバスルームに置いてくる。あとは、明らかにダメな侍女であるあの女をどうするか、だ。このままではまたこのバスセットが捨てられるのも時間の問題である。



「リゼリア様、よろしいでしょうか」


「私もお話があるわ」



リゼリア様は私と2人でアリシア様から少し離れた。



「あの侍女、どうしてあんなのがアリシア様にお仕えしているのですか?」


「サラセリア様をご存知ね?あの侍女は、サラセリア様からけしかけられた者なの」


「それはなぜでしょう?」


「海よりも深~い理由があるのだけど、ざっくり言うとサラセリア様はアリシア様を嫌っているのよ」


「お生まれの問題でしょうか」


「正妻だとか側室だとかあの二人にはきっと関係ないわね」



一応アリシア様が正室の腹に当たる。2人の後ろ盾の力もほぼ同等であとは当事者2人の力で…とはなっているのだから、2人が嫌がらせをし合うのもよくわかる。うむ、なるほど。


権力争いは家族間でも行われる。辛い世の中だ。



「アリシア様は聡明なお方だけど興味のないことにはとことん無頓着なの。だから身の回りのことは侍女任せ。それをどうしても直したいのよ」


「やはり新しい侍女が必要なのでは?」


「今なら受け入れてもらえそうだし、私の侍女を勧めてみるわ」



言うが早いか、私とリゼリア様はアリシア様の元に駆け寄った。



「ね、アリシア様。身の回りの世話は侍女一人には荷が重いわ。まして今日からは手間も増えるのだから、もう一人増やしてはどう?」


「それもそうね」


「私の所は少し多い目にいるから、そこから1人…」


「その必要はないわよ」



アリシア様は手を振って否定した。私とリゼリア様は顔を見合わせる。



「私が勉強の世話をしている子がいるのは知ってるわね?彼女に仕事を与えなきゃいけないから、そろそろ侍女にしようと元々考えていたの。だけどいきなり私の世話をさせるのは難しいだろうから、よければリゼリアの所で面倒見てもらえるかしら」


「え、ええ。勿論よ。一週間で使えるようにするわ」


「ジェシカという、金髪の可愛い女の子よ。年も私たちと変わらないからよろしくしてあげて。マリアも手伝ってくれると嬉しいわ」


「はい、お任せくださいませ」



臣下の礼をして、一歩下がる。中年の侍女は私とリゼリア様を睨みつけていた。余程私たちの息のかかった若い娘が入るのが嫌らしい。一国の王女に侍女一人は元々少なすぎるだろうに。



「私、それでもやっぱり少ないと思います」


「そうよ。サラセリア様なんて何十人も侍女を従えているのだから、あなたも最低でも五人は持つべきだわ」


「そうなのかしら。私にはわからないからリゼリアとマリアに任せるわ。ジェシカとあと数人見繕っておいて」


「ええ、任せてちょうだい」



リゼリア様はにっこり笑った。後ろで控える侍女の顔はより一層険しくなったが知ったことか。私たちの後ろにいたアルフォンスお兄様達もほっとした顔をしていた。



窓を見るとすっかり日が暮れてしまっていた。あまり遅くなると兄が心配するので私は帰る旨を伝えて部屋を辞した。アルフォンスお兄様が見送ろうとしてくれたのだが、警護の仕事中だと嫌味ったらしいレイモンドに睨まれ喧嘩し始めたので代わりにジョシュア様が送ってくれることになった。



「ごめんなさい、アルフォンスお兄様が馬鹿で」


「いやレイモンドのほうが…。俺は個人的にマリアと話したかったから丁度良かったんだけどな」


「なんでしょう?」



歩きながら問いかける。ジョシュア様は少し歩く速度を落とした。



「アルフォンスの妹ってことは分家の出身ってことだよな?」


「ええ、その通りです」


「今年は昨日付けてたあの花冠を流行らせる?」


「そのつもりです」


「じゃあドレスは深みのある色じゃなくて、薄い色が流行る?」


「そうでしょうね」


「分かった。ありがとう」



簡単な問いを繰り返し、ジョシュア様は直ぐに切り上げた。私は訳が分からず首を傾げる。



「んーとな、説明するのは難しいんだけど、そういう衣装と経済って深い因果があるんだよな」


「因果、といいますと?」


「例えばなんだけど、景気の良い時は光り物が流行る。今年はあんまり良くないなーって時には花が流行る」


「どうしてですか?」


「諸説あるんだけど、今のところ解明されてないんだよな、これが。アリシアはこれを解明しようと経済学を専攻してる子を飼ってるんだ」


「飼う…」


「さっきジェシカって子の話してただろ?あれはアリシアに飼われて研究している若い天才。表向きはアリシアが右腕にするために勉強させているってことになってるけど、彼女は既に右腕なんだよ」


「年は私たちとそう変わらないとか。おいくつなのでしょう」


「18。来月19才になる」


「それでは私よりは少し年上なのですね」


「ま、良い奴なんだ。仲良くしてやってくれ」



ジョシュア様はにっこりと輝くような笑顔を見せた。



「じょ、ジョシュア様…」



顔が、熱くなる。ジョシュア様の笑顔は私には効果抜群だった。恋に落ちるとはきっとこれのことだ。私は一瞬でこの男、ジョシュア様に惚れたのだ。



「ん?俺の顔、何かついてる?」


「私…ジョシュア様のことが…」



ジョシュア様は ん?と首を傾げて一歩私に近付いた。整った鼻筋に可愛らしい小動物のように垂れた瞳、薄い唇…何もかもが私を魅了する。こんな感情は初めて…そしてこの人に出会うためだけに生まれてきたのだと心が囁く。


私は恥の一文字をかなぐり捨ててジョシュア様に叫んだ。



「ジョシュア様のことが好きになってしまいました!」


「…っえええええええええ??!!」



王城の静かなエントランスに素っ頓狂なジョシュア様の声が響いた、午後4時。

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