幼馴染との日常(触発されて書いた意味のないもの)
注)ただの自己満足です。いちゃつかせるだけです。
――アンタの事なんてもう知らないんだからっ!――
脳裏に浮かぶ、幼馴染――國城瑠美との喧嘩の際に発せられた言葉。そんな気分の悪くなるような言葉が脳内でリフレインして俺の意識は覚醒した。
「……くぁ。眠ぃ」
力が入りきらない肢体に鞭うって上半身を起こす。カーテンの隙間から光が差し込んできている。朝だ。
枕元にある使った事が無い時計で時刻を確認する。
「って、遅刻確定じゃねぇかよ!」
いつもは瑠美に起こされて俺は朝を迎えていた。しかし、今日は昨日の喧嘩のせいで彼女は起こしに来てくれなかったのだ。思えば当たり前なのだが、少しだけ心がちくりと痛む。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない!
がしゃがしゃと頭を掻きながら床に散らかっている制服を拾い上げ、着替える。メタモルフォーゼである。……某アニメのように俺の体は光に包まれたりもしないで主導で着替えるのだが。
台所に行き、親が作ってくれていたであろう朝飯を確認するが、今日はご飯だったのでそのまま靴を履いて「行ってきます!」と叫んで駆け出した。
学校までは歩いて三十分の距離だ。走れば一限の途中に間に合う……!
脇目も振らずに走り出――したと思うと何かに足をひっかけ転びそうになる。
「なんだよ、あっぶねぇな。ちくしょ――」
文句を吐いて躓いた物に目を向けようと後ろの地面を見ると、そこには小奇麗なローファーから伸びるすらっとした足があった。
「何寝坊してんの。ダッサ」
さらに上から毎日欠かさず聞かされているであろう声が聞こえてきた。
「なにしてんだよ、瑠美」
ローファーとすらっとした足の持ち主は昨日喧嘩したはずの瑠美の物だった。
……思えばそれ以外可能性ないじゃないか。俺の隣の家は瑠美の家なんだもの。
「なにって、アンタ待ってたんじゃん。やめてよねー、アンタのせいで私も遅刻扱いになっちゃうじゃん。サイアク」
「……なら先に行けばよかっただろ」
体制を直して瑠美の方を見ずにぶっきらぼうに言い捨て学校に向かって歩き始める。
「先に行ったらアンタ泣くでしょ」
たたたっ、と小走りで俺の隣に並ぶ。
「あっれぇ? なに。もしかして昨日の喧嘩気にして居ないと思ってたのぉ~?」
くるっと俺の前に周り、後ろ向きで歩き始める彼女の顔は憎たらしいほどに可愛らしく微笑んでいた。
「だってお前今日朝起こしに来なかったじゃん」
「あははっ、見事に私の策略にはまってる! 可愛いね」
「お前な……」
「はいはい、そんなむすっとした顔しないの! いつもながら『あ、察し』な顔がもっと『あ、察し』ってなってるよ?」
「うるせえ」
「うるせえブスじゃないの、そこは?」
「お前自分の容姿分かっててそれ言うの最低だぞ」
「大丈夫、アンタにしかそんな事言わないから」
俺は確かに没個性で瑠美の言う通り察せられるような顔立ちなのだが、こいつはとても顔立ちが整っており、紛れの無い美少女の部類に入っているのだった。
いつも通りの透き通ってほんのりピンクに染まっている頬に、華奢な体を見渡して溜息をもらす。
「うっわ、今全身舐めるように見られたんだけど。もしかして私の子の美麗なプロポーションに欲情してる?」
「してねぇよ!」
「あ、ムラムラしてるの間違いだった?」
「下ネタやめろよ」
「うん、ごめん」
恥ずかしがるように目を逸らして下を向く瑠美。
恥ずかしがるなら言うなよ。
「それよりもさ、アンタの今日の夢当ててあげようか?」
「なんだよいきなり」
再度俺の隣に戻った彼女が、顎に人差し指を当て、うーん、と悩み始める。
大体夢なんて覚えて無いっつーの、と言おうとしたところで昨日の喧嘩の事だと思い出してしまう。
「見えました! 昨日の夢はアタシとの喧嘩の事でしょう」
再認識したその瞬間にそう言われ、否定しようとしても出来なかった。
「無言って事は当たったって事だよね?」
にこり、と笑う。
「そんなわけないだろ。俺の昨日の夢は美少女とウハウハする夢だったぞ」
「美少女って私?」
「毎回毎回美少女って単語にそう反応するなよ」
「いや、だってあんたの知ってる人間で一番の美少女ってアタシでしょ? クラスはおろか、学校で一番アタシ可愛いじゃない」
「性根が腐りきってる!」
「なんて、冗談に見せた真実だけどさー。あーあ、それよりも外れたのかー」
空を仰いで呟く彼女の表情は見えないが、雰囲気は少し大人しくなっているようだ。
「なんで落ち込むんだよ」
「いや、アタシの夢がアンタと喧嘩した夢だったから同じだったら嬉しいなーって思っただけだけど?」
……今の不意打ちは卑怯だろ。
こちらに向けられた儚げな表情は偽りではないようだ。
「……俺もお前との喧嘩の夢だったよ」
「え?」
「だから、俺の夢もお前の夢と同じだった、って言ってるんだよ。胸糞悪かったんだからな」
これは決して可哀想だとか、悲しげな表情をさせたのが罪悪感を誘ったとかそういう事じゃない。ただ、こうでも言っておかないと後々にこいつが不機嫌になって俺が迷惑を被ることになるからそのための予防線としてだな!
なんて誰にでもなく言い訳をしているところで、バン! と強めに背中を叩かれる。
「痛ってえ!」
文句を言おうと隣を見ると何故か彼女は赤くなっていた。
「バーカ! べーっだ!」
終わり……というか頭がもう働かなくなった。