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不幸せな青い鳥に願いを込めて  作者: 満月小僧
言わぬが花と言うけれど
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「幸、俺を幸せにしてくれ」



 今私は何を言われました? あなたは今私に何を言ったのですか?


 いえ、頭では理解しています。あなたが言った言葉も理解できます。けれど、意味が理解できません。〝サチ、オレヲシアワセニシテクレ〟分かりません分かりません。今ここであなたが私にこのような事を言う意味が理解できません。


 ああ、やはり私はあなたという人間の事を何も理解できていなかったようです。何を考えているのか、あなたの事を理解できません。


『多分さ、俺たちは他者の事を理解できないんだよ』


 ふと、昨日の朝方あなたが言った言葉を思い出しました。


 ええ、この言葉は正解でした。私はこんなにもあなたの事を理解できていませんでした。


 私の口は気づいたら声を出していました。


「冗談、ですか?」


 あなたは口元に小さく笑みを生んで、答えました。


「そう見える?」


 分かりません。あなたが分かりません。今のあなたの言葉の真偽を判断する事が出来ません。


 しかし、何故でしょう? 私の視界が歪んでいきます。目の前にいるあなたの顔がどんどん歪んでいきます。私の視覚機能に異常が生まれたようです。


 もう表情も分からなくなったあなたが私に聞きました。


「で、幸、お前は俺を幸せにしてくれないのか?」


 また、体が言う事を聞かなくなりました。私の体が勝手に動きます。


 私の視界が勝手に左右に数度動きました。


 あなたの軽く笑う声が聞こえます。


 気づいたら私はあなたに問い掛けていました。


「役立たずの私で、良いのですか?」


 返答は早かったです。


「お前が役立たずとは思っていない」


 私の口が勝手に言葉を発します。


「失敗作ですよ?」


 これにもあなたは力強く答えました。


「じゃあ、その失敗作に価値をあげるよ」


 あなたは私に価値をくれるのですか?


 役立たずでポンコツなガラクタに、どうしようも無い失敗作に価値を与えてくださるのですか?


 ああ、何故でしょう視界が歪んでいくのが止まりません。頬に何かが伝っていくのを感じます。私の体から何かが漏れたようです。


 何処かが破れたのでしょうか?


 良いのですか、こんな私で?


 誰も幸せに出来なかった私で良いのですか? 


 ダメです。いけません。昨日この町を離れると決めたでは無いですか。もう二度と人と関らないと決めたでは無いですか。これ以上迷惑をかけないと決めたばかりではないですか。これ以上言葉を出してはいけません。


 けれど私の口が言葉を生もうとしました。ええ、この一ヶ月と七日間あなたに会うたびに言い続けたあの言葉を言おうとしました。


 あなたが黙ってこちらを見ているのが、歪んだ視界でも分かりました。不思議です。


 私の口が勝手に言葉を生み出しました。


 言う直前に〝何か〟が頭の中をよぎりました。


「……あなたを、幸せに、させて、ください」


 歪んでしまった視界でもこれは分かりました。


 あなたは今笑っています。


「うん。お願いします。俺を幸せにしてください」


 左手を握られる力が強くなったのが分かりました。





(ああ、俺も歪んでいるな)


 そう佐野は思った。青いワンピースを着た女が泣きながら自身の額を彼の胸に押し付けている。


 佐野はその頭を左手で撫でながら、曖昧な微笑を浮かべていた。


 完全に幸という女は佐野幸喜という人間に縋った。その事に佐野は一種の倒錯した喜びのような物を感じていた。


 今ここで、この弱々しく真っ直ぐに歪んだ女を目一杯に拒絶してしまえば、この女は壊す事が出来る。それは何と甘美な事だろうか。そんな歪んだ感情さえ持っていた。


 しかし、その事を歪んでいると認識するだけの理性は残っており、自分のそんな歪んだ部分もまた佐野の好きでは無いと所だった。


 このまま彼女に縋られるのも悪くない。


 彼のすぐ近くで、肩を震わせている弱々しいこの女を、完全に彼のモノとするのはあまりに、あまりに彼にとって甘美で、焦がれてきた物だった。


 自分の元から何があっても離れる事の無い相手、彼が長い間求め続け、探し続け、焦がれ続けた相手、それが今目の前、手の届く場所にいる。


 彼の内面に強烈な独占欲が広がっていく。幸を自分の所有物としたい。それは否定しようの無い彼の望みだった。


 けれども、佐野にとっては至極残念極まりない事に、彼は理性的な人間で、刹那的で直情的な決断は下せても、楽観的に未来を考える事は出来ない人間だった。


 強烈な欲望に突き動かされようとする直情的な自分と、それを引いた場所から見ている理性的な自分、二つの自分が彼の中を存在していた。


 しかし、彼は直情的に生きるのは苦手なのだ。


 右手は幸の左手を握りながら、左手は幸の頭を撫でながら、佐野は小さく息を吐いた。


 幸が自分の頭を小鳥のように佐野の胸に押し付けた。


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