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不幸せな青い鳥に願いを込めて  作者: 満月小僧
言わぬが花と言うけれど
33/42

……今考えると、かなり恥かしい事を口走った気がしないでも無いのですが、そこは若気の至りという事で勘弁してください。



 まあ、さておき、この話で言う明日、七月最初の日、七月一日に、私は初めて自分から幸を訪れます。


 しかしながら、物語はそう簡単に波をたてないで終ってくれないようです。


 私が幸の元を訪れるところから話を書きましょう。……



七月一日、日曜日。



 午後七時半、佐野は自転車を走らせ、育友荘を目指していた。このままだと後十分程で育友荘に到着である。


 この移動時間の間、彼が考えている事は当然幸の事だ。


 三十七日、一ヶ月と七日間、佐野が幸と出会ってからの日数だ。長さにすればまだまだ短い長さだが、共に過ごした濃度は家族を無しにすれば暫定一位である。


 つくづく変な女、正確には変なアンドロイドと付き合ってきた物である。そんな非日常を楽しんできたのだから自分でも苦笑いだが、やはり色々あった四十日弱だったと佐野は思う。


 出会って怯えてため息付いて、悩んで話して苦笑して、決めて会わせて逃げられて、なかなかに波乱万丈な時間ではないか。


 確かに大したイベント等は無かった。彼が好むライトノベルのような起伏に富んだストーリーでは無かった。山あり谷ありというよりは緩々と丘を登り続けたような物だった。唯一のネタ晴らしのような物は幸が人間では無くアンドロイドだったという事だけである。昨日も思った事だが、どこぞのB級映画のようなストーリーだ。


 だが、それが今回佐野に廻ってきた舞台であり、そのようなストーリーを演じてきたのも彼なのだ。ならば、その事実に不満を持つはずが無い。

ただ、不満は持っていないが、寂しさのような物なら彼の胸を訪れていた。


 今、佐野は自分が何を望んでいるかは分かっていた。青山が幸の事を諦めたという展開である。それは彼自身が自覚している彼の歪んだ部分であり、彼がそこまで好きではない自身の内面だった。


 佐野が自身のソレに気づいた、いや、自覚したのは三年前、彼がまだ制服に身を包み、毎日毎日足繁く高校に通っていた頃の事だ。



六月某日、(三年前)



 佐野が通っていた学校は中学受験と高校受験の両方を実施する中高一貫校であり、佐野はそこに中学生の時から通っていた。


 その中高六年間は漫画のような派手なイベントは存在しなかったが、佐野的には波乱万丈で、満足の行く、やり切った六年間だった。


 彼には加藤という友人が居て、彼もまた佐野と同じ高校に入学していた。


 佐野と加藤は小学生の時からの付き合いで、月に二度ほど共に遊んでいた。彼が生きてきた十八年間の中で、佐野が親友と呼んでいるのはこの加藤だけである。


 佐野が高校生になって二ヶ月、新しくなったYシャツの色にようやく慣れて来た六月のある日、自分の教室に戻ろうと廊下を歩いていた佐野はふと目撃した。


 加藤が彼のクラスメイトと楽しげに会話しているではないか。


 初め佐野は『加藤にも友人が出来たのか』と、加藤に少々失礼な事を思った。加藤と友人になってその時で七年目、その間一度たりとも佐野以外の友人の話を加藤から聞いた事が無かったからだ。


 佐野は嬉しく思った。とうとう自分以外の相手が加藤にも見つかったのだ。加藤の立場からすれば喜ばしい事だ。


 しかし、彼はその時同時にこうも思ったのだ。


『加藤が自分から離れてしまう』


 断っておくが、佐野は別に同性愛者ではない。また、中学時代に出来た友人が数名ほどしっかりと存在し、決して学内で孤立していた訳では無かった。


 だというのに、佐野は加藤が自分以外の者と親しげに会話している姿に、一瞬だが激しい独占欲を感じたのだ。



 後になって、彼の家の自室でベットに転がっている時、ふとある言葉が佐野の脳裏を過ぎった。


『佐野幸喜という人間は誰かに依存して依存されたい』


 違和感無く彼の内面に溶け込んでいく言葉だった。否定しようにも佐野は自身からその否定材料になり得る物を何一つ見つける事が出来なかった。


〝メンヘラか〟と自身にツッコミを入れた思い出がある。


 佐野は自分から決して離れていかない『誰か』をずっと探していた。


 要するに決して独りには成りたくなかったのだ。寂しがり屋の兎だったのである。


 決して自分の手を離さない『誰か』に盲目的に妄信的に尽し続ける。


 それは何とも気楽で甘美な生き方に佐野には思えたのだ。

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