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不幸せな青い鳥に願いを込めて  作者: 満月小僧
切れないハサミ、書けない鉛筆、飲めないコップ
29/42

 数分ほど沈黙が続きました。おそらく。これを重苦しい空気と言うのでしょう。重力が二倍に成ったような空気が私たちを包んでいました。


 あなたのミルクティーから湯気がたたなくなっていました。


「……」


 沈黙が生まれ、五分と五秒経ったところで、あなたは唐突に私に顔を向けました。


 一体、どうしたのでしょうか? 私にはあなたが何をしたいのか分かりませんでした。


 あなたは一度まぶたを閉じ、私に問い掛けました。


「幸、俺と青山さん、どっちを幸せにしたい?」


 私の息が止まりました。今、私は何を聞かれたのか分かりませんでした。いえ、何を聞かれたのかは分かっています。私があなたとアナタどちらを幸せにしたいのかを聞かれたのです。


 ああ、アナタが唖然とした表情であなたを見ているのが分かりました。もう、私にはあなたが分かりません。


 いえ、最初から分かっていなかったのでしょう。やはり私には人の気持ちが分からないようです。


 私は声が出せませんでした。何かを言おうと口を動かすのですが、そこから言葉は生まれませんでした。


 何故でしょうか? あなたが哀しそうに見えました。役立たずな私が下した判断ですから、間違っているのかもしれません。


「幸、お前は誰を幸せにしたいんだ?」


……私が誰を幸せにしたいか? ですか。


……………………?


……………?


……?


……私は誰を幸せにしたいのでしょう?


 分かりません。分かりません。分かりません。この思考はいけません。これ以上結論を出そうとしてはいけません。結論は出してはなりません。


 気づいたら、私の口は言葉を出していました。いつの間にか声が出るようになったようです。けれど、自分でも久しぶりに感じるその声はかすれるような声でした。


「私は、誰かを、幸せにするための、物です」


 まるで、私自身に言い聞かせているような声でした。


「俺が聞いているのは、〝誰か〟をじゃなくて〝誰〟をだ」


 止めてください。止めてください。これ以上、私にその質問をしないでください。


「私の価値は、人を幸せに、する事です」


 そうです。人を幸せにする事が私の役目で唯一の価値です。それは絶対的な物です。それが為せないから、私は役立たずでポンコツなガラクタなのですから。


 けれど、あなたは質問を終えてくれません。やめてください。許してください。これ以上、私に思考をさせないでください。私に結論を出せさせないでください。


「お前の価値や役目は関係ない。お前は誰を幸せにしたい?」


 ああ、そんなに真っ直ぐに私を見ないでください。見ないでください。聞かないでください。考えさせないでください。


 そう願うのに、私の頭は思考してしまいます。出すべきでない結論を出そうとしてしまいます。


「私が……」


 声はかすれ、視界は定まらず、体が震えました。


 ……私が幸せにしたいのは?


「…………」


 あなたは私から視線を逸らしません。逃げる事が出来ません。ああ、あなたはおそらくこの問いの答えを知っているのでしょう。分かっているのでしょう。この解いてはならない問題の解答を導き出しているのでしょう。


「……幸」


 あなたの声が聞こえます。気づけば、私の左手があなたに握られました。あなたの顔はより一層哀色に包まれていました。


 ダメです。ダメです。いけません。解答を求めてはいけません。出してしまったら、もう取り消せません。正答は誤答にはできません。だめです。嫌です。


「私が幸せにしたいのは」


 口が勝手に言葉を生み出していきます。ああ、私の目線が左に座るあなたから正面に移っていきます。


 ああ、ダメです。私の体、止まってください。そちらに顔を向けてはいけません。ダメです今はダメです。今は見てはいけません。今は今は今は、アナタを見たらいけません。


 何故ですか言う事を聞いてくださいよ。お願いですそちらを向かないでください。ああ、ダメです。ダメですダメですダメです。ダメダメダメダメダメダメ、
























「…………」


 ああ、向いてしまいました。アナタが目を見開いて私を見ています。


 いけません。もう手遅れです。ダメです。もうダメです。私はもうダメです。私という役立たずでポンコツなガラクタはもう取り返しがつきません。



 解答を出してしまいました。


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