一
……そして、私は幸と青山を会わせました。しかしながら、私が下した決断はとても最適とは言い難いものでした。私自身それが最適であるとは思わなかったのですが、出来れば上手くいって欲しいという願い、いえ欲望がありました。
幸と青山を会わせた時、青山はもちろんの事、幸が初めて目に見えて狼狽しました。それを見て多少の嬉しさを感じた自分に少々の苦笑いを感じつつ、私は彼女にこう言ったのです。
『幸、俺と青山さん、どっちを幸せにしたい?』
彼女の事を知っている私が言うにはあまりに残酷な問いだと自覚していました。
その時の彼女は何を思っていたのでしょう?……
佐野が幸を連れ、青山が彼を待っている喫茶店に着いたのは七時二十分。今、彼らは喫茶店の入り口の前に立っている。
「……この店にお前に会わせたい人を待たせている。会って欲しい」
「……分かりました」
幸はいつものように頷き、それを見て、佐野は入り口のドアを押し開けた。
佐野は押し開ける寸前、幸に聞こえないように小さく、『ごめんな』と呟いた。
それが単なる自己満足であると自覚して、それは自分のためだけのものであるとも自覚して、決して傍らにいる相手のためのものでは無いと分かっていて、それでもこの若輩者はそれをせずにいられなかったのである。
*
何故、何故何故何故何故、何故、ここにアナタが居るのですか? どういう事ですか? 理解できません。
「…………」
ああ、あの雨の日を除けば、三年八ヶ月十五日十一時間三十二分五十六秒ぶりにここまで近くに居るアナタは何故そこで呆けた表情で私を見ているのですか?
不可解です。理解不能です。理解不可能です。理解放棄です。一体何故何故何故何故、何故ですか?
私はこの疑問の答えを知る人物に顔を向けました。
私の右隣で、気づいたら私の右手首を掴んでいたあなたは、小さな小さな苦笑いをその口に張り付かせていました。
「行くよ」
あなたはそれだけ言って、私の手を引き歩き出します。何処に向かっているかは明白でした。
待ってください。待ってください。そこには行かないでください。私をそこに連れて行ってはいけません。お願いです頼みますその手を離してください。
しかしはあなたの足は止まる事も無く、速度も緩める事も無く、私の右手を引き、アナタの元へ近づいていきます。
おかしいです。声が出ません。力が入りません。抵抗が出来ません。こんな簡単に払えるような手を払う事が出来ません。何故ですか体が言う事を聞きません。ここまで軽い彼の力に逆らえません。嫌ですやめてください。これ以上近づけないでください。ああ、もうここまで近づいています。お願いです止めて止めて止めて。ああ、ああ、ああ、
「……おはようございます」
そう口に出しながら、あなたはそのまま、唖然とした表情で私を見るアナタの目の前まで、距離にして八十四センチのところまで私を連れて行きました。
……ああ、出会ってしまいました。アナタに私を認識させてしまいました。
「…………」
ああ、アナタは何も言いません。ただ唖然と私を見ています。そんな目で見ないでください。アナタが辛いではないですか。お願いです私を見ないでください。
あなたは私の腕を引き、アナタの向かいの席の奥に座らせ、その左隣座りました。逃げ道を塞がれたように感じられました。
「いやぁ、今日はいい天気ですね、青山孝幸さん」
あなたは飄々といつもより心なし明るい口調です。アナタはそんなあなたに目を向けました。未だ呆然とした目です。
「佐野、さん。これは、いったい?」
アナタの言葉に曖昧に頷きながら、あなたはこう言いました。
「とりあえずミルクティーを頼んでも?」




