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元々は二次創作として作り上げたオリキャラたちです。リハビリ感覚で書いてますので、所々おかしい部分があると思います。
あの人が自分の苦しみや悲しさ、辛さなどを思い出してしまう過去を半分持ってくれるから自分は今ここに立って、生きていられる。あの人と出逢えた奇跡があるから、今も笑っていられる。
それほどまでに弱くなってしまった、自分。強くありたいと望むほどに、強くなれない矛盾した今の自分。
――そんな弱い自分で、あの人を支えたいなどと思うのはおこがましい事なのだろうかと最近、少しだけ考えるようになった。
優しさを与えてくれて、愛情を与えてくれて。それに縋るように生きる事しか出来ない自分が、与えてくれる人を支えたいと望むことなど無謀なのだろうかと。
それでも思ってしまう。愛しいと、心の底から愛しいと。
愛しいから傍に居たい。愛しいから、笑っていて欲しい、本当の笑顔で。愛しいから、誰よりも近い距離で支えたい。
でも、この想いをあの人は受け取ることはおろか、聞き入れることさえもしてくれない。伝えることすら、許してくれないのだから。
「じゃあ、明日はちょっとわたしの都合で店を休みにするから……ごめんなさいね」
ふと考えに耽っていたホストクラブ「ノクターン」のNO.1ホストである左京の耳に届いたのは、この店の店長でもある聖護院 咲姫の声だ。
聞こえてきた内容に、もうそんな時期か、と左京は何気なく思う。
5年近くこの店で働くようになってから、咲姫が自分の都合だけでこの店を休みにすることは明日だけだ。
つまり明日は、必ず行かなければいけない場所があるという事なのだろうが、その理由は一度も聞いたことがない。
聞ける雰囲気ではないと言った方が過言ではないのかも知れないが、ふと咲姫に関係があることであれば、双子の弟でもあるNO.2の咲一にも関係があることかも知れないと思い、何気なく咲一に目を向けてみれば何とも言えぬ複雑な表情を浮かべている咲一の姿が目に入った。
「……咲一?」
「え? あ、ああ……はい。どうかしましたか?」
「いや、それは俺の台詞だよ。どうかした?」
「……」
訝しげに思った左京は近付いて小声で名前を呼べば、はっとしたように咲一は慌てて振り返り、左京を視界の中に入れれば焦ったように聞く。
それだけで普段の様子と違うことが分かれば左京はじっと咲一を見ながら逆に問い返せば、咲一は困ったように苦笑を浮かべ、口を閉じてしまう。
そのまま、左京から出来る限り自然に視線を逸らしながら咲姫に視線を向ければ、そこには変わらず微笑みを浮かべながら話を続けている姿がある。
それには、ただただ、安堵の息を漏らすことしか出来ずにいた。もちろん、彼女がここに居るホスト達全てに心配を掛けるような表情を浮かべるはずがないという事は分かっているし、今浮かんでいる微笑みさえも必死に浮かべているものかも知れない。
双子であるのだから分かるのかも知れないが今ばかりは咲姫を理解しようとしても中々出来ずにいた。
明日という日は咲姫にとってはもちろんのこと、自分にとってもある意味で特別な日。その日が来なければ良いと何度も願いながらも、無情にも時は過ぎ、その日はやってくる。思い出したくないあの日の思い出と共に。
――咲姫は今、どんな気持ちなんだろうか。今の自分には問い掛ける勇気すら持つことが出来ずにいた。
咲一は深々と溜息を吐くと、ひょこっと隣から顔を覗きこまれて思わず一歩だけ後ずさってしまう。顔を覗き込んだのは左京であり、様子がおかしい事などとうに気付いていた。
「……大丈夫? 咲一」
「え?」
「いや、辛そうな表情だから、ね。……咲姫さんに聞いても答えてくれないだろうから、咲一に聞こうと思ったけど止めとくよ。話すのですら辛そうだから」
「……すみません」
「謝る必要はないと思うけど? 俺が勝手に知りたいと思っただけなんだし。……俺はまだ、知る権利を得られる位置じゃないんだろうね」
心配気な声に咲一は思わず情けない声を出してしまうと、左京は苦笑を零してからゆっくりと言葉を紡ぐ。自分が今どんな表情をしているかなど分からなかった咲一は何と言えばいいかも分からずに顔を俯かせ、小さな声で謝罪の言葉を口にすると左京は僅かに首を傾げ、苦笑を浮かべたまま言う。
後に続いた言葉はどこか寂しげに、悲しげに紡がれたことに気付いた咲一は俯かせていた顔を上げてそっと窺うように左京を見る。
――彼が一番、想いが強いのかも知れないと確信を持つようになったのはいつの頃だったか。
咲姫への想いさえも彼に敵わないと思ったのは、いつの頃だっただろうか。それはどこか悔しくもあり、でも、どこか嬉しくもあった。咲姫を理解出来る位置で居たいと思うけれど、ただ理解してあげられるだけ。苦しみも悲しみも寂しさも、辛さも。全てを分かってあげられるけれど、自分は分かるだけで留まる。
それ以上先のことは自分にはどう頑張っても出来はしないのだ。咲姫に何よりも必要なのは自分ではなく、きっと左京のような存在なのだと気付いている。咲姫もきっと心のどこかで気付いているのかも知れないが、あえてそこから目を逸らす理由も何となく分かっている。
だからこそ、自分には何も言えない。咲姫が自ら進まなければ意味がないと思うから。
「……貴方なら」
「ん?」
「貴方なら、きっと知れると思います。……いえ、貴方に知って欲しいと私は思いますよ」
「どうして? 確かに咲姫さんの隣に居たいと思ってるし、咲姫さんを想う気持ちは誰にも負けない自信もある。……でも、俺よりずっと、良い人はいるよ」
「そうでしょうか? 私は、多分、貴方以外は出来ないと思うんですよ。咲姫の涙を、拭える人は」
涙さえも笑顔で隠すようになってしまった彼女の涙を拭って欲しいと思う。決して人前では泣かず、一人の時ですらも泣かなくなってしまった彼女を、泣かせてあげて欲しいとすら思う。
買い被り過ぎじゃないかな、と左京はどこか困ったような、そんな苦笑を浮かべていることに気付きながら咲一はふっと微笑みを浮かべた。
明日が来なければいいとそう願うけれど、明日が来なければ咲姫も、そして自分も、前に進めないのかも知れない。あの日から止まってしまった心の時間を、動かすために。




