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お前は少し知り過ぎたようだ

掲載日:2026/05/25

「ええっまた?!体調が悪いから行けないと?」


私の婚約者は昔から身体が弱かった。

寒かったから、暑かったから、雨が降っていたから。ん?晴れてるからってのもあったか。

とにかく何かにつけてよく寝込む人だった。


けど今はどうだろう?そこまで身体が弱いとは思えない。

だって、自分が観たいと思うお芝居には喜んで行くし、この夜会を断ると貴族としてちょっと不味いんじゃない?というもので欠席した事はない。

体調が悪いなら、観たくても出たくても無理な時ってあると思うんだけど。


だから最近私の中では疑惑というよりも確信に近いものがある。

そう、アレは仮病だ、と。

しかも、一番タチの悪い"自分の思い通りに事を運ぶ為"の仮病なんじゃないだろうか、と。



※※※※※※


「昨日もまた体調不良だったね。ふっ、ショボい夜会って言ってるの聞いてたからそうなるとは思っていたけど。」


笑いを堪えきれずにそう言うと、執事のリランパーゴが答える。


「しかも、またもや"自称幼馴染"様がお見舞いに駆けつけたそうです。」


「また?私でさえ行っていないというのに?」


「行っていないというのに、です。」


「あれ?でもさ、幼馴染殿も婚約者がいなかった?」


「しっかりいらっしゃいます。」


「じゃあ。」


じゃあ幼馴染殿の婚約者殿もドタキャンされたということか。これは不味くないか。今回の夜会って、出席した人みんな口を揃えて

「出席しといてよかったー!!」

って言ってたよ?


まあ今回のはイレギュラー過ぎて、招待状からはそこまで読み取れなかったからなぁ。

……そもそも幼馴染殿と一緒にこう言ってバカにしてるの聞いたんだよね。


「こんなショボい夜会なんて行くだけ無駄無駄。勝手にあいつが1人で行けばいいの!」


だからまあ、自業自得だな。


その夜会で何があったかって?それはね…






夜会も半ばを過ぎた頃、主催のイレアリテ侯爵家のカプリッシユ様がおもむろに壇上に上がった。それで急に


「リリアローズ!お前の悪行は看過できん!婚約破棄だ!」


なんて言い出した。リリアローズ嬢はポカンとしたままだし、侯爵閣下だって何も聞いていなかったのかぽけっとしていた。

しかも隣にはべったりと張り付くようにノウミィ・フォレスタ男爵令嬢が!


シーンと静まり返ったのは多分1分にも満たなかったと思う。我に返ったリリアローズ嬢が


「婚約破棄でございますね。承知しました。それではわたくし、本日は失礼させていただきます。」


そう言ってにっこり笑って告げた後、ハイヒールを履いて重たいドレスを身につけた令嬢とは思えないスピードで退場していった。

カプリッシユ様は、もっと揉めると思っていたみたいだけど呆気なく破棄が成立した事で少しポカンとし…ってこの方がぼけっとしてるのは標準装備か。

まあともかくポカンとしている所にノウミィ嬢がベッタリを通り越して絡みつくようにしがみついて、


「カプリッシユさまっ!これで!これでわたくしたちは真実の愛で添い遂げられます!」


なんて言っていた。が、ここでイレアリテ侯爵が再起動した。

小さな声で周囲に指示を出し始める。


そして。扉という扉が一斉に閉じた!


「えー、皆さま。本日の夜会はお楽しみ頂いておりますでしょうか。」


あまりにも白々しい主催者の挨拶が始まるが、誰も何も発せられない。だって。


参加者は出口を封じられ、何事かに巻き込まれようとしているのだ。隣に立っていた、先日夜会デビューをしたばかりの年若いご令嬢がぶるぶる震えながら呟く。

「わ、わたくし口封じのために殺されますのっ……?」


小さな呟きだったが、その恐怖心は瞬く間に会場内に広がってしまった。

侯爵家の大スキャンダル、相手は公爵令嬢。


「お前は少し知り過ぎたようだ。」


なんていう決め台詞が人気の"暗殺者が主人公の小説"が最近流行っていたのも悪かったのだろう。

とにかく会場内はパニックとなってしまった。

出口に殺到する人々。自分の死を悟って気絶する夫人。


「違う!ちがーう!!誰も殺さないからぁっ!!」


凡そ侯爵とは思えない半泣きの声で侯爵本人が叫び続けること15分。流石に皆殺しはないか、とやっと会場内は落ち着いてきた。


「皆さん、お騒がして申し訳なかった!皆さんを害するような事は何も考えていない!いないから話し聞いてっ!」


多分まだ侯爵も混乱している。普段は重厚な話し方で威圧感半端ない侯爵が"聞いてっ!"って。

だがその少しくだけた口調が良かったのか、みんなが耳を傾けるようになってきた。


「扉を閉めたのは、今後に関するお願いをひとり残らず漏らさずに伝えるためだから!それだけっ!」


落ち着いて話を聞いてみたらとてもとても真っ当な判断だった。


「先ほどの婚約破棄宣言だが、このアホがいきなり言い出した事で!私は把握していなかった!さらに言うと、アホが言い出したリリアローズ嬢の悪行というのは事実無根だ!最近そんな噂がまことしやかに流れており、公爵家と協力して調査しておったのだ。」


ああそう言えばそんな噂あったなあ。

カプリッシユ様の愛が得られないリリアローズ嬢が愛を独占しているノウミィ嬢に苛烈な嫌がらせを続けているとか。

まあ周囲に信じている人なんかいなかったけど。あ、1人いたか。


「調査の結果、事実無根と証明された。更にその噂は殆どのものが信じておらなんだ。……このアホを除いてな。」


そう、このアホ…んんっカプリッシユ様は信じ切っていた。さめざめと泣きながら訴えるノウミィ嬢と、抱きつかれた時に思いっきり押し付けられる柔らかい物体に嘘はない!と思ったんだろう。


「本来ならば穏便に婚約を解消する予定だったのだ。そもそも!オマエは!」


そう、カプリッシユ様は次男坊だ。なんやかんや事情があるとか、ものすごく優秀だとか。

なーんにもない、ただの次男坊である。

そして今先ほどものすごいスピードで身を翻し去っていかれたリリアローズ嬢は。


「公爵を継ぐのはリリアローズ嬢だ!なのに破棄なんぞしたらオマエはただの!」


そう、このままだとただの侯爵家出身の平民だ。


「まあ!侯爵さま!何をおっしゃいますの?ベルサリテ公爵とはご兄弟なんでしょう?女であるリリアローズが本当に後継として相応しいとお思いなのですか?それなら血の繋がりもあるカプリッシユ様が養子に入って公爵を継ぐ方が自然ではありませんか!」


うお!このヒト、公爵夫人になるつもりだったのか!いや、おかしいと思ったんだよ。


「カプリッシユ様の愛人の座を狙ってるとばかり。それなのに婚約破棄させるなんて何考えてんだろう?って思ったら!」


つい言葉で出てしまった。だが周囲の人も頷いているからみんなそう思ってたんだな。


「カプリッシユ、オマエもそう思うのか?」


「はえ?いえ、後継であるリリアローズが継ぐのが当然だと思いますが、女であると言う事でリリアローズに不安があるのであれば私が継ぐ事は吝かでは…」 


ばきぃっ!すごい音がしたと思ったらカプリッシユ様がぶっ飛んだ。


「おい、この2人を拘束して地下牢にでも放り込んでおけ。……息子にこれ以上罪を重ねさせられない。」




※※※※※※


侯爵からのお願いということで、今日の出来事は参加者以外には家族であろうとも話さないことになった。

つまり。この日夫婦で参加していた者はこの件についての立ち回りを夫婦で検討することができるが、片方だけが出席していたら、何も情報共有ができないことになってしまった。

まあ、一年もすれば有耶無耶かもしれないけど。

フォレスタ男爵家が飛ぶ鳥を落とす勢いを急速に無くし、更には取引条件が厳しくなったりそもそも取引を終了されたり。

それが何故か。誰の意向なのか。

たとえ短期間でも、情報に乗り遅れると言うのは貴族にとって相当な痛手であろう。


幸いにも我が家は私と両親が出席していた。

そして幼馴染殿の婚約者も両親と出席していた。


しかし我が婚約者殿と幼馴染殿は…

体調が悪いと言う婚約者の為に家族揃って夜会を取りやめ、同じく心配する幼馴染殿に付き添って家族総出でお見舞いに訪れていたので、誰も今回の珍事について知らなかった。



※※※※※※


程なくして私の婚約は解消となった。

そして、幼馴染殿の婚約も。結果…。



「まあなるべくして、って感じですよね。」

「確かに。病弱な上に面倒そうな幼馴染がついて回る()を婿に迎えるメリットなんて、ねえ。」


「貴方もそうでしょう?何かあればすぐに病弱な幼馴染の元に駆けつける()と婚姻を結ぶメリットなんて、ねえ。」


そう、私はタルティーヌ・マルシュ。伯爵家の跡取り娘だ。領地経営はすでに父のお墨付きも貰っていたから、多少出来が悪くても病弱でも子を授かることさえ出来れば。と、夫に求めるものが非常に少なかったことと、父親同士の縁がありドゥーイー子爵家で持て余していた病弱な次男を迎えることになったのだ。


そして今話をしているのは、三人兄弟の三男で、例の"幼馴染殿"カンティーナ・ミニーモ男爵令嬢を妻に迎え、男爵位を授けられる予定だったゲイル・アグバージェ侯爵子息だ。


幼馴染殿は、侯爵子息との縁談ということで当初喜んでいたが、蓋を開けてみれば余っていた田舎の領地の男爵位を賜る予定の三男坊。

それならば、幼馴染であるタッキィミ・ドゥーイー子爵子息が婿入りした後、愛人になった方がよほど良い暮らしが出来ると思っていたらしい。

なんなら病弱ということで私とは子を成さず、私が年齢的に出産が厳しくなった頃に子連れで現れれば自分達の子が将来伯爵になれる、とまで計画していた。

控えめにいってもお家乗っ取り計画な訳で。そもそも病弱で子を成せないのにそんなに長く居座るつもりの婿ってなんなんだ。3年で追い出すわ。




今回のカプリッシユ事件では個別に口止め料、もしくは希望の口利きを頂くことが出来たんだが、私たちはそれぞれの婚約破棄の口添えをしてもらった。

まあ、自分たちの大スキャンダルと被る話だったからね、特にリリアローズ嬢の口添えは大きかったみたい。そこそこの金額を頂いて無事相手の有責で破棄することができた。

まあ次の婚約どうしよう、という悩みは残ったんだけど…


そんな時提案されたのが、私たちの婚約だ。

お互いの婚約者が不貞を働いていて婚約破棄となったが、慰め合ううちに婚約に至った、という事にすれば。


「まあまあの美談に纏められますわよ。それに。」


"ふふふ。貴方たちすごくお似合いよ"


そう揶揄うリリアローズ嬢の言葉に真っ赤になりながらも否定できない私達だった。



ーー婚約破棄の話し合いの場にてーー


「アグバージェ侯爵、この度の我が娘の行い誠に申し訳ありませんでした。つきましては違約金といたしまして…」


「まあお父さま、何をおっしゃっているの?タッキィミは婿入りが無くなって平民になるのでしょう?それならばたとえ田舎の男爵だとしても平民になるよりはましですもの、わたくし予定通り嫁いで差し上げますわ。」


「差し上げます…」

「差し上げます…」

「差し上げます…」


「ええ、安心なさって?わたくし用に王都に屋敷をひとつ用意していただければ我慢できると思うの。」


「我慢できる…」

「我慢できる…」




「我慢でき…ないかな。僕は。」



「ひいいい!侯爵!ゲイル殿!もう一生王都には出入りさせません!ていうか娘には、娘にはっ!お好きな処罰を好きなだけ与えて頂いて良いので!我が家は、我が家はご容赦をおおお」



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