1話 僕らは自由
人っていうのは憂鬱なものだ。
やる事ばかりに縛られて、自由に暮らせていけない。
いつも未来ばっか見てしまって、現在を本当の意味で楽しんではいない。
朝起きたらまずすることといえば、顔を洗い歯を磨き、着替えて朝食を食べて学校や職場に向かうだろう。
そんな規則正しい生活に楽しさはあるのか?本当の自由はあるのか?
感性は人それぞれだ。僕みたいなのが口出しするものではない。だが、この一つだけは唯一断言することができる。
「人生ってもんは楽しんだ勝ち」。きっとその通りだ。
「いってきます。」
誰もいない家に向かって呟く。
僕ーー逢沢ヨル(14)は現役高校生にして不登校である。
最初の自己紹介が不登校とはなんとも印象が悪い。ただ、言えることはそれしかない。両親は離婚し、今は母だけ。毎日朝から晩まで仕事をし、必然的に帰りは遅い。だから僕はほぼ1人の生活をしている。
僕の活動時間は朝10時から。同級生にも会わず、人気も落ち着いたちょうどいい時間だ。
向かっている途中に自動販売機がある。土産にも酒を買って行こうか悩んだが、誰かに見られたら終わりだ。コーラだけを買う。
どこに向かっているかって?それはまぁ。
1時間ぐらい、ぶらぶらと歩き続ける。交番の前を通る時はヒヤリとする。なんなら人とすれ違うだけで。
「…いい天気だな。」
ふと空を見ると雲一つない青空に鳥が空を飛んでいる。
8月中旬だが、嫌な暑さはなく、寒がりな僕には丁度いい気温だ。僕はこの自由を噛み締めながら飲み干したコーラ缶を潰した。
「そろそろ行こうかな。」
僕は足取りを早め、人気の少ない路地へと入る。
家から歩いて約十分。目的地に着く。
「相変わらず古いアパートだな。」
俺は苦笑しながら階段を登る。三階まで足を運ぶと誰も住んでいない筈のアパートから話し声が聞こえる。
「これこれ、この酒がいいんだ。」
「私の服どこ!?勝手に触んないでって言ったのに〜!」
「ちゃんと片付けてないのが悪い。そう騒ぐなよ。」
ドアノブを掴むと聞こえてくる三人の話し声。
その声を聞くと笑みが溢れる。
そして、僕はドアノブを捻り、部屋の奥へと進んでいきながら、こう喋る。
「こんちゃーす、もう昼メシ食べましたか?」
中に入りながら僕はそう三人に問いかける。
「おぉ、ヨルおはような。まだ食ってないし、どこか行くか?」
最初に声をかけてきたのは僕たち4人組の1人の盛舞 ルイだ。とても若い容姿をしている男性だ。
「おっ、いいですね。どこに行きます?」
「私ラーメンか焼肉かお寿司食べたい!!!」
僕とルイさんの会話に割って入った2人目の人物は夜基 スズナ。学生ですと言われればそう信じてしまう若さを持ちながら、30歳ですと言われても信じてしまう大人の雰囲気を放っているが性格は子供だ。グループ唯一の女性だ。
「お昼から焼肉か寿司は高いだろ。」
「あ!ルイはそう言ってすぐに提案を否定する!」
「じゃ、ラーメンにすれば…」
「全部食べたいの!!!」
スズナちゃんが駄々をこねているところに1人がまた現れる。
「昼がラーメン。夜が焼肉と寿司。これでいいだろ。あ、ヨルおはよう。」
奥の部屋から頭をかきながら現れたのは幕白 ジン。
この4人の中で最年長であり、好きなのはパチンコと酒。
「やった!ならすぐ近くにできたラーメン屋さんに行こうよ!」スズナちゃんが飛び跳ねる。
「いいんすか?そんなに奮発して。」
「パチンコで珍しくボロ儲けしたからな。気分がとてもいいんだ。」
「総合的にはマイナスだろ。」
くだらない無駄話をしながら僕らは部屋に出て、道を歩き出す。
行きたい時に、行きたい場所に、行きたい人と。
これが一番の自由なんだろうと噛み締めながら街角を曲がると。
【プップーーーー!!!】
刹那車のクラクションの音が街に響くと同時に、僕以外の三人が轢かれる。
「あぁ、またやってる。」
僕は呆れるように吹き飛ばされた三人に近づく。
「…大丈夫っすか?」
僕が動かない三人に話しかけると同時に、ルイさんが大きな声で叫びぶ。
「うぁっっあ!いってぇぇ!あのクソ運転手許さねぇ!」
ルイさんが頭から大量の血を流しながら叫ぶ。
「……貧血…血が……欲しい」
「おいおい、こんな程度でそう叫ぶなよ。」
弱々しくうずくまるスズナちゃんと対照的に無傷のジンさん。
「やっぱアンタら人間じゃねぇ……。」
俺はひきつった顔で声を漏らす。
あ、そうそう。伝え忘れたことがあったな。
彼らは人間じゃない。
ルイ狼男・スズナ吸血鬼・ジンゾンビ・ヨル人間
これはそんな僕たち4人の不思議であり、ごく普通の自由な日常の物語だ。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
逢沢ヨルのある日の朝は正午から始まった。
夜更かしをしているわけでもないが、毎日起きるのが遅いのは不登校故の属性(?)だろう。
学校では給食の時間。僕は優雅に家で朝食(時間的には昼食だが。)そんなこと考えながら卵を二つ割り、フライパンの上で転がす。
冷蔵庫の中を物色しつつ、ベーコンを取り出して、フライパンに追加。卵の白身が絡まっていく。
スマホを確認するとスズナちゃんから3件のメッセージが来ていた。
『おっはよ〜!』
『今日はみんなでボーリング場にいるから、ヨルも来てねー!!!』
『あ、お菓子もたくさん買ってきといてね♪』
「場所を教えてくれよ……!」
無駄に刻んだのに肝心なところが抜けている文章に呆れつつ、料理を皿に乗せお箸を用意した。
「いただきます。」
メッセージが来てたのは1時間前。すでに結構待たせてしまっている時間帯だ。
一気にご飯を書き込み、食べ終わった食器を食洗機に入れ、身支度を済ませてから急いで家を出ようとする。
僕が玄関の扉を急いで開くと「イテッ。」と微かな声が聞こえる。
(誰か扉にぶつかったか!?)
急いで様子を見るとそこにはルイさんの姿がいた。
「ルイさん!?」
「あぁ、ヨルすまんな。連絡も無しに来ちまった。余りにも遅いから2人に見てこいって言われて…ジャン負けで」
額から汗を垂らしたルイさんが疲れた様子でこちらを見上げる。
「狼男でも疲労はあるんですね。」
「ハァ…ハァ…当たり前だろ。てか、めっちゃダッシュで来たんだよ。オオカミで。」
狼男…ルイさんは狼男であるから一時的にオオカミになれる。ただ、疲労が通常の数倍は感じるらしい。
「そんなに疲れてるなら休んで行きます?」
僕が扉に向かって指を刺しながら言うとルイさんは驚いた様子で顔を上げる。
「え?あぁ、ヨルの家とか初めてだな…頼む。」
ルイさんが家に上がり、ソファに直行する。
「冷房効いてて神!!!」
他人の家でお構い無しにくつろぐルイさんにお茶を出す。
「あ。俺水がいい。キンキンの」
これはキレていい!キレていいよな!?
そう言いつつ水に入れ替え、ルイさんの横に座る。
「ルイさん…てか、家に誰かが来るのは初めてですよ。」
「想像以上に綺麗にしてるな〜。しっかりと掃除が行き届いてる。」
ルイさんが感心したように家を見渡す。
「そりゃぁ、いつもの共有部屋に比べたら…ね。」
4人が遊ぶ時に集まる部屋。あれはお部屋だ。管理されていない服。捨てられていないゴミで溢れている。ま、あれも落ち着くって言えば落ち着く。
「お母さんに汚くしてたら怒られるですよ、僕の家は。」
「あれ?お母様はどこに?ご挨拶を。」
「お母さんは夜まで仕事。基本的に放任主義で、それがお互い上手く行ってるコツ」
「親子で上手くいくコツってなんだよ…聞いたことねぇ」
親とは結構中がいい。それはきっと過度に干渉しないこの関係のお陰だろう。
「暇だな。お、ゲームあんじゃん、なんかやろうぜ」
ルイさんがコントローラーを持ち、こちらに渡す。
「格ゲーやりましょうよ。できますか?」
「フッ…舐めるなよ。ガキの頃に4000時間プレイしていた実績持ちだ。」
「クッソ無駄な半年」
なんだかんだ言いながらも僕とルイさんの試合は夕方まで続いた。
『ちょっと!迎えに行った筈なのに遅すぎる!!』
「すまんすまん。ちょっとゲームが白熱しちまって。」
すっかり待たせているのに忘れていた2人はスズナちゃんにその後長時間叱られた上、ラーメンを奢らされた。
僕はこんな日常がずっと続くのを願った。
人間ではないのに、こんなにも人間味がある三人との日々が……。




