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第4話エイリアンの枝(1)

「恋って…何なんすかね…。」


「は?死ね。」


「雑談って知ってます?」


スタッフルームでの休憩中、TERUさんに誹謗中傷される。ただ、楽しい会話をしたかっただけなのに。


「いや、急に気持ち悪いこと言いだしたから…。」


「にしても、死ねはひどいっすよ。可愛い後輩に言っていい言葉じゃないっすよ。」


「可愛い後輩以外は、ぐうの音も出ねえ正論だな。悪かったよ。てか、急にどうした?」


「ああ、実はね。これっすよ。」


そう言いつつ、TERUさんにスマホの画面を見せる。TERUさんは面倒くさそうに覗き込む。


「これは…この前遊びに来た、俺の指名客の枝か?」


「そうっす!クラモミさんって言うらしくて。結局、僕のこと指名してくれたんすよ!今もこうやって、ちょくちょく連絡とってるんす。」


枝とは、ホストが使う隠語のようなもので、すでに指名のホストがいるお客さんが連れてきた、初来店のお客さんのことだ。簡単に言うと、お客さんの友達である。クラモミさんは、TERUさんの指名客が連れて来て、偶然ヘルプについた僕のことを気に入って指名してくれたのだ。


「ほ~ん。どんな話してんだ?」


「最近だと、1億円が当選したからリンクをクリックして受け取り作業をしてほしいとか。」


「古典的な詐欺じゃねーか!なんで知り合いに迷惑メール送ってくるんだよ!」


「いやいや、そういうお茶目なところが可愛いんじゃないっすか。」


「ああ、そう。他には?」


「コンビニでiTunesカードを買って裏の番号を見せてほしいとか。」


「ちょっと最近の詐欺じゃねーか!迷惑メールが通用しなかったから、新しめの手法に取り組んでんじゃん!」


「まあまあ、逆に信頼されてる証拠っすよ。」


「まあ、お前がいいならいいけど…。他はもうないのか?」


「一番最近だと、投資?のグループチャットに招待されて。そこで仲間と高め合おうって。」


「ゴリッゴリの詐欺じゃねーか!てかもう2人で話してすらねーじゃん!」


「なんか、今はインドの会社の株が激アツらしくて…。」


「ハマるなハマるな!お前絶対この子と店外営業とかするなよ!前もマルチの説明会行って帰ってこれなくなっただろ!」


「あれは、講師の説明が分かりやすかっただけっすよ!それに、クラモミさんは優しいし、TERUさんと違って笑いのセンスもいいし、それに…。」


「それに?」


「…なんでもないっす!とにかく、俺はホストとして指名客にサービスしてるだけっす!」


「本当に大丈夫か…?てか、さっきからスマホ見てる割に、クラモミさんから全然返信来ねーじゃん。」


「たまたま忙しいんすよ!もうちょっと待ってれば…。」


ピロリン


「ほら!来た!」


コメット君(★´∀`)ノ


やっほー(^_-)-☆

今日も一日がんばろーね٩(๛ ˘ ³˘)۶


最近ドンドン仕事覚えてるし、このままいけばナンバー入りできるかもね(^ν^)

僕も負けてられないなゲッ!(꒪ꇴ꒪|||)

あー、僕もコメット君とチャットできたらもっとやる気でるのになー|д゜)チラッ

話したくなったら、いつでも連絡してね‾͟͟͞(((ꎤ >口<)̂ꎤ⁾⁾⁾⁾


P.S.

インドの株より、S&P500の方がおすすめだヨ⁽⁽(ી₍₍⁽⁽(ી₍₍⁽⁽(ી( ˆoˆ )ʃ)₎₎⁾⁾ʃ)₎₎⁾⁾ʃ)₎₎


GINGA


GINGAさんからの怪文書を、全て読み切る前に削除する。再びクラモミさんからのメッセージを待つ。


「…なんか返してやれよ。」


「…とにかく!僕は大丈夫なんで!店外営業もしませんし、適切な距離感を保ってお付き合いしていきます!」


———


「コメット君。良かったラ、今度デート行きませン?」


「行きましょう。クラモミさん。」


快諾してしまった。さっきまで、店外営業はしないと啖呵を切っていたのにこれである。

営業開始直前に、クラモミさんから今日お店に遊びに来ると連絡があったのだか、まさか来て早々デートに誘われるとは。

TERUさんに自慢してやろう、と思ったが店外営業禁止のルールを思い出し、慌てて訂正する。


「あ、いや、ごめんなさい。お店のルールで店外営業はダメなんす。」


目の前で両手を合わせて、ごめんなさいのポーズを取りつつ、チラリとクラモミさんの様子を伺う。エメラルドグリーンの肌にポツリと浮かぶ、両の目が悲しそうに潤んでいる。


「そっカ。お店のルールじゃしょうがないよネ。コメット君と、もっと色々なお話ししたかったんだけどナ。」


「行きましょう!」


快諾してしまった。

クラモミさんの残念そうな様子を見ていると、つい反射的に言葉が出てしまった。

もうお店のルールとか関係ない。ホストとしてのコメットではなく、自分自身がこの人、もといこのエイリアンともっと親交を深めたいと感じたのだ。


「本当!嬉しイ!」


そう言うと、クラモミさんは鈴が鳴るようにコロコロと笑った。見た目はエイリアンだが、所作の一つ一つが上品で可愛らしい。もし人間だったら、きっとモテモテだっただろう。


「そうダ。これ、プレゼント。」


嬉しそうにはしゃいでいた、クラモミさんは何かを思い出したようにバックの中に手を伸ばす。そして、綺麗にラッピングされた小包を僕に手渡す。


「これは…?」


「いいかラ、開けてみテ。」


そう急かされて、包装を解き中を確認すると、鈍い光を放つブローチが入っていた。木の小枝を模した形をしており、赤や青、黄色など色とりどりの小さな宝石が散りばめられている。


「コメット君、いつもスーツにアクセサリー付けてないでショ?こういうの付けたラ、少しはホストっぽくなるかなっテ。」


「うおお!めっちゃ嬉しいっす!ありがとうございます!」


早速、スーツの胸あたりに着けて、クラモミさんに確認してもらう。嬉しそうに、似合う似合うと褒めてくれた。


「良かっタ!じゃア、デートの日もこれ付けてネ!」


「もちろんっす!楽しみにしてます!」


「あ、私今日はもう帰らなきゃだかラ。じゃあまた連絡するネ!」


「はい!あ、お見送りしますよ!」


お会計を済ませ、出口へと向かうクラモミさんを見送る。一般のお客さんにバレないように、専用の裏口から出ていくクラモミさんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


今日は他に指名客はいないから、TERUさんとGINGAさんのヘルプだ。デートの日を楽しみにしつつ、気を引き締め直してフロアへ戻る。アクセサリーをひとつ付けただけで、背筋がピンと伸びた気がした。アクセサリーの持つ効果なのか、はたまたクラモミさんから貰ったという事実がそうさせているのかは分からないが、ホストとして少し成長したような気分になった。


———


「クラモミさん、遅いなぁー。」


月曜日の12時半、待ち合わせ場所である浅草駅の前でクラモミさんを待っていた。一般的にはお昼ご飯の時間だが、夜職のホストからすれば早朝といっても過言ではない。あくびをしつつ、人力車に乗る観光客を眺めていた。


まだ落語家だったころは、よく師匠の手伝いでこの浅草を奔走していた。今日は、客として師匠の芸を見に行く。自分が女の子を連れていると、きっとビックリするだろう。愛想がよくて、気品があって、エメラルドグリーンの肌で足が8本あって…。


「あー!」


思わず大声を出してしまう。そうだ、クラモミさんはエイリアンだった。エイリアンの接客が日常になっていてすっかり忘れていた。エイリアンを浅草の演芸ホールに連れて行ったら、会場が大混乱になることは間違いない。

どうしよう、予定を飛ばして品川に移動しようか。いや、どの道そこでもパニックにはなる。全部キャンセルして、お家デートにするか。いやいや、初めてでお家デートなんてそんな…。どうしよう、どうしようと慌てていると、背中をチョンチョンとつつかれる。

振り返ると、そこには面識のない美女がいた。


「お待たセ。」


その美女は、目が合うや否や、笑顔で挨拶をする。改めて見てもかなりの美女だ。一度会ったら忘れられなさそうなくらいなのに、間近で見ても誰なのかは一向にわからない。


「えっと…?」


戸惑いを隠せないでいる自分を見て、何か察した様子の彼女は、笑いながら口を開く。


「そっカ、ごめんごめン。私よ、クラモミ。」


「え?えええ!」


美女の発言に思わず驚愕する。いつもの軟体動物のような出で立ちとは異なり、人間の姿なのだ。訳が分からず、脳が混乱する。


「女性はメイクで化けるって…本当なんすね。」


「フフ。さすがに化粧じゃこうはならないわヨ。」


自分の驚きように、クラモミさんはコロコロと笑う。いつも通りの笑い方だ。自分の知ってる一面を見れて、少し安心する。クラモミさんは、なぜ人間の姿になっているのか説明してくれた。


「エイリアンにはネ、身体のどこかに変身スイッチがあるノ。」


「変身スイッチ?」


「そウ。エイリアンには生まれつき備わっている機能なノ。結構体力を使うけド、スイッチを押せばその星に住む生命体の姿に変身できるノ。私の場合…ほラ、二の腕の内側ニ。」


袖をまくりながら、クラモミさんは変身スイッチなるものを自分に見せてくれる。昔のスマホについていた、ホームボタンにそっくりだった。


「本当だ…!すげぇ…!」


「フフ。優秀なエイリアンほド、変身したときに美しい姿になるノ。ちなみニ、コメット君が押せば、コメット君が好きな姿にもなれるわヨ。」


「マジっすか!押してみていいっすか⁉」


「フフ。ここじゃ人が多いから後でネ。それよりもデートを楽しみまショ。ちゃんとエスコートしてよネ。」


「もちろんっすよ!今日のために、完璧なプランを立てたんで任せてください!」


内心、変身スイッチの話をもっと聞きたかったが、今日はデートが優先だ。昨日夜通し考えたプランなら、クラモミさんも喜ぶこと間違いなしだろう。僕は、自信満々でまずは浅草演芸ホールへとクラモミさんをエスコートした。

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