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第9話エイリアンの夢(2)

『それでハ、新郎新婦の入場でス。』


パチパチパチパチ


式場は、割れんばかりの拍手で私たち2人を出迎えてくれた。少し前に入場したリングボーイのコメットが、なぜかとてつもなく場を温めてくれたようだ。参列しているエイリアンは私たちを見て、皆口々に祝福の言葉を投げかけてくれた。


「おめでトー!」


「2人ともとてもお似合いでス!」


「お幸せニー!」


「これで月も安泰ダ!」


ああ、幸せだ。皆からの賛辞をかみしめる。こんなに沢山の人々に祝われて、私は幸せ者だ。横を歩くテルヤを見つめる。誰が見ても美男子に成長した。こんな素敵な王子様と結婚できるのだ。私は幸せだ。幸せであるべきなんだ。


祭壇の前に着く。神父による誓いの言葉が始まる。


「星々の導きのもとニ、今ここに2人の魂が交差しまス。新郎ハ、光の速さで過ぎる時の中でモ、ブラックホールが産み出す闇の中でモ、新婦を愛し続けると誓いますカ?」


「ういー。」


「…誓いますカ?」


「あ、はい。」


「よろしイ。新婦ハ、宇宙の終焉のときまデ、新郎を尊ビ、支え合イ、酸素がなくても心通わせると誓いますカ?」


「はい、誓いまス。」


「それでハ、あなたがたヲ、この星の夫婦と認定いたしまス。さあ、誓いのキスをどうゾ!」


テルヤが私のベールを持ち上げる。目と目が合う。ニコリと微笑み、私はそっと目を閉じる。これでいいのだ。これで私は幸せなのだ。


「ちょっと待ったーーーーー!!!!!」


式場のドアを蹴破り、誰かが乱入してきた。驚き振り向くと、そこには先程までリングボーイをしていたはずのコメットがいた。


「エ、ちょっト、何やってんのヨ!」


「皆さん、聞いてください!月のお姫様は、皆さんに噓をついています!」


ザワザワ


式場は、コメットの突然の告白にざわつき始める。


「ちょっト!いい加減にしなさいヨ!なんの根拠があっテ、こんナ…!」


「今から証拠をお見せします!TERUさん!!」


「おう!!」


「エ?ハア⁉」


テルヤは、コメットの合図があるや否や、タキシードを脱ぎ上裸になりこちらに背を向ける。そして、背を向けたまま私に話しかける。


「姫様、腰にある変身スイッチを押してみてくれ。」


「エエ?」


そう言われて、テルヤの腰を見る。確かに、エイリアンの持つ変身スイッチがそこにはあった。


「な、なんデ、私ガ…。」


「前にコメットから聞いたことがある。このスイッチは他人が押せば、その人の好きな人の姿に変身するんだろ?」


「でモ…。」


「姫様。」


テルヤはこちらを向き、私の手を握る。そして、そのまま私の手を自分の腰へと回す。


「大丈夫。俺を信じて。」


指先がスイッチに触れる。カチッと音が鳴り、テルヤの身体が輝き始めた。


「…これが、あんたの答えだろ。」


変身した姿でテルヤが呟く。テルヤの目を見れなかった。その姿は、私が千年前に恋をしたあの男の姿だった。


「どれだけはぐらかしても、心の奥底までは誤魔化せなかったな。」


「ひどいヨ…もうずっト、忘れようとしてたのニ…。なんデ、こんなこト…。」


泣きじゃくり、その場にへたり込む私を見て、テルヤは膝をつき優しく話しかけた。


「それは、俺がホストだからだ。」


「地球から俺をさらう時、言ってただろ。俺を指名するって。」


「だから、姫様は今、俺の大事なお客様だ。俺のポリシーにかけて、姫様が本当に望んでいることを叶えてやる。」


そこまで言うと、テルヤは私の手を握り、もう一度問いかけた。


「あんたは、自分が恋した人じゃなくて、俺と結婚して、本当に幸せなのか?」


私は、テルヤの目を見つめて言葉を振り絞る。


「本当ハ…あの人と結婚したかっタ。あの人と結婚しテ、お父さんト、お母さんとも一緒に暮らしていたかった。でモ、でももう叶わないヨ。」


そこまで言い切ると、私はまた目から涙をこぼし俯く。テルヤはそんな私の頭を撫でて囁いた。


「大丈夫。俺が夢を見せてやる。」


そう言うと、テルヤは式場で混乱したままのエイリアンたちに向かって、声高らかに叫んだ。


「全員聞けぇい!俺は、この星の王子・テルヤだ!今から噓をついた我らが姫の処刑をする!!」


式場は静かになるどころか、更に混乱を極めた。テルヤは構わずに続ける。


「その処刑の内容とは…地球への拉致監禁だ!さらうのはもちろん、地球生まれのエイリアンであるこの俺様だ!」


そう宣言し、テルヤは私を抱えて、全速力で式場を抜け出した。呆気に取られていたエイリアンたちは、大慌てで私たちを追いかける。


「ギャーハッハッハ!いつも誘拐してばかりのエイリアンたちの姫様をさらってやったぜ!こりゃ傑作だな!」


私をお姫様抱っこしたまま走り、テルヤは楽しそうに笑う。その姿が、私には囚われの姫を救い出す王子様に見えた。


「TERUさーん!お姫様ー!」


宇宙船の前で、私たちを呼ぶ声がする。コメットだ。いつの間にか式場を抜け出し、先んじて月から脱出する手はずを整えていたようだ。


「よしっ、全員乗ったっすね!じゃあスイッチ、オン!」


そう言いながら、コメットは緊急脱出用のスイッチを押した。これで、私たちは地球に強制送還される。


「いぇーい!作戦成功ー!!」


「これで地球に帰れるっすね!」


「帰ったらあのラーメン屋行きてぇな!」


「えー!せっかくだし、もっといい店行きましょうよ!」


「馬鹿野郎!あのラーメン屋以外考えられねぇよ!なあ姫様!」


「…。」


「姫様?どした?」


「…プッ。アハハ!」


あっという間の事態に、私はおかしくなって笑ってしまった。これから、月はどうなってしまうんだろう。地球に帰ったとして、その後はどうしよう。悩み事は尽きないが、そんなの今はどうでも良かった。私はテルヤを思いきり抱きしめる。戸惑っているテルヤの頭をワシャワシャと撫でながら話す。


「アハハハハハ!本ッ当、最高ねあんタ!地球に帰ったら結婚してあげようカ!」


テルヤは、少し驚いた顔をした後、ニヤリと笑いながらこう返した。


「お前なんかお断りだ!」

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