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第9話エイリアンの首(1)

「うおー!すげえ!!地球ってマジで青いんだ!」


「TERUさんあれ見てくださいよ!月がとんでもなく近いっすよ!」


「どひゃー!ほんとだ!うっほほーい!」


「き、気に入ったようで何よりヨ…。」


月に向かっている宇宙船の中、さらわれたTERUさんと、巻き込まれた僕・コメットは初めての宇宙に興奮を禁じ得ないでいた。僕らをさらった張本人である姫様は、はしゃぐ僕たちを座席に座りながら、やや引き気味に眺めていた。


「ねーねーお姫様!なんでこの宇宙船は無重力状態にならないんすか?」


「無重力だト、色々飛び散って掃除が面倒だからネ。わざと重力を設定してあるのヨ。」


「なーなー姫様!月ってやっぱウサギいるの?」


「それはいないワ。あれは月のクレーターがウサギの形に見えるってだけの話デ…。」


「それにしても、宇宙船って初めて乗ったっす!これ窓って開かないんすか?」


「いヤ、宇宙で窓なんか開けたら大変なことになるでショ。」


「あ!あのスイッチ押していい?」


「チョ、絶対やめテ!それ緊急脱出用のスイッチだかラ、地球に強制送還されちゃウ!」


「じゃあ逆にこのスイッチは押していいっすか?」


「やめなさイ!やめロ!大人しくしてロ!」


宇宙船の中を、好き勝手にウロチョロする僕らを姫様は必死に制止する。


「ハア…ハア…。もう勝手に色々いじるの禁止!破ったらこのまま地球に帰りますからネ!分かっタ?」


「「はーい。」」


本来ならば、このまま地球に帰れるのなら一件落着では?とツッコむところだが、初めての宇宙にすっかり旅行気分の僕らは、姫様の命令に大人しく従っていた。


「じゃア、改めて月に着いてからの簡単な段取りを説明するわネ。月面に着陸したラ、その足で大聖堂に向うワ。で、テルヤは純白のタキシードに着替えテ、そのまま私と一緒に婚礼の儀を行ってもらうわヨ。」


「そんなすぐ結婚すんの?」


「まあネ。今の月って結構やばいのヨ。先代の王が亡くなってかラ、私1人で統治してきたけド、水面下で他の星からの侵略が進んでるシ、宇宙法で職業選択の自由が保証されてからは優秀な人材がどんどん転職していくシ…。」


「なんかサラリーマンみたい。」


「だかラ、テルヤがこんなに立派に育っていてくれテ、本当に安心したワ。あなたが私と結婚してくれたラ、月も安泰ヨ。」


「ふーん。」


姫様は、長話を聞けないTERUさんに向けて、端的に説明を続ける。

対して、顎をポリポリと掻きながら、TERUさんは窓の外を眺めている。少し様子がおかしい。オーナーの話によれば、姫様はTERUさんの初恋の人だ。照れているのだろうか。


「何か質問でもあル?」


「いや?別に。」


「ちなみニ、月の王様になるんだかラ、毎日餅つきし放題ヨ。」


「ふーん。」


「お月見ならヌ、お地球見だってし放題だシ。」


「へえー。」


「あ、地球が恋しいなラ、8月13日から16日の間は帰省してもいいわヨ。」


「ほーん。」


やはりおかしい。普段なら、こんな分かりやすいボケを見逃すはずがない。いつものキレのあるツッコミを見れず、なんだか歯がゆい。


「何ヨ。何か不満なことでもあるノ?」


そうだ、言ってやってくれ、お姫様。TERUさんは窓から目を離し、ゆっくりと振り向く。


「別にいいけどさ。あんたはいいの?俺と結婚することになって。」


「もちろんヨ。」


「本当に?昔、俺のプロポーズ断ったくせに。」


「あら、あらあらアラ!何ヨ、それを気にしてたノ?可愛いところあるじゃなイ!」


「答えろよ。本当に、俺と結婚して幸せなのか?」


「そう言ってるでショ。あなたと結婚しテ、月の姫として月の平和を守ル。これが私の幸せヨ。」


そう言うと、お姫様は窓の外に顔を向ける。


「さ、そろそろ着くワ。降りる準備をしておいテ。」


———


「ん~、僕はやっぱり和装の方がいいと思うっす。」


「マジ?やっぱ結婚式といえばタキシードじゃね?」


「でも、TERUさん仕事でいつも派手なスーツ着てるじゃないすか。普段と違うギャップを見せるのって大事だと思うんすよね。」


「なるほどな。いや、でも迷うな~。」


式を行う大聖堂の中にある待合室、テルヤとその後輩・コメットは式で着る衣装をどれにするか話し合っていた。

というか、宇宙船の中でも思ってたのだが、このコメットとかいう男、なぜ一緒にいるんだ?テルヤをさらったつもりが一緒にくっついてきて、宇宙船で待機してるかと思えば大聖堂までついてくるし。

このまま結婚式にも参加するつもりなのかな。帰ってくれないかな。


え、てかなんでコメットが衣装選んでるの?花嫁である私を差し置いて?普通私の意見聞かない?

そんなことを考えながら、コメットを睨んでいると、流石に気づいたのかこちらに小走りでやってきた。


「お姫様、少しご意見いただきたいのですが。」


「うン!なんでも聞いテ!」


「僕が担当することになったリングボーイの登場タイミングなんすけど…。」


「そこの意見は求めてないわヨ!」


「えっ。」


「あ、いや、ごめんなさイ。あなたに任せるワ。」


いかんいかん。結婚する前からこんな姿をテルヤに見せてはまずい。鬼嫁なんて印象を持たれたら、結婚生活がやりづらくなってしまう。


化粧台でメイクを確認しながら、テルヤの言葉を思い出す。


『本当に、俺と結婚して幸せなのか?』


もちろんだ、幸せに決まってる。テルヤと結婚すれば、月の情勢も少しは安定するだろうし、彼の魅力があれば、他の星のエイリアンを手玉にとって侵略を防ぐこともできる。自分の暮らす星に平和をもたらせるんだ。幸せに決まっている。噓はついていない。


「てか、TERUさん。本当にいいんすか?このまま結婚して。」


頭の中で、自分に言い聞かせていると、コメットの発言が耳に入った。


「んー?まあ、いんじゃね?」


「TERUさん、初恋の人と結婚できるから嬉しいんでしょ。さっきも照れてたし。オグゥッ!…なんで殴るんすか…。」


「別にそんなの関係ねーよ。俺としては、正直この星の王子になるのも悪くはないと思ってる。」


「オーナーが寂しがりますよ。」


「あいつはいい加減、子離れした方がいいから気にする必要ねーよ。でも、結婚する前に確かめなきゃいけないなと思ってることはある。」


「え、なんすかなんすか?」


「だからコメット。頼みがあるんだが、式の途中で…コショコショ。」


肝心のところが聞こえない。確かめたいこととは何だろう。耳を澄まして聞き取ろうと踏ん張っていると、ドアがノックされ執事が入ってきた。


「姫様、王子様。式場の準備が整いました。皆様お待ちかねです。」


「あ、ああ。ありがとウ。それジャ、行きましょうか。」


「ういーす。じゃあコメット、手筈通り頼むぞ。」


「了解っす!」

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