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第6話エイリアンの首(2)

「Ladies and gentlemen...!

今宵、月よりも輝く姫のために──!!

ドンペリ ゴールド 降・臨ーーー!!」


\\シャンパン!シャンパン!シャンパンパンパパン! //


「祝福の月光つきあかり浴びて

今、姫に捧ぐーー!!」


「それでは、今夜…一番星のように輝く姫に一言いただきましょ~う!」


「きゃ~♡TERU君マジ王子様…♡GINGA君マジクール…♡コメット君超可愛イ…♡みんな大好キ~~~♡」


「姫、ありがとう。今日は俺たちと楽しんでってね。」


「…一緒に飲み明かそう。」


「オトモミさん、ありがとうございますっす!精一杯盛り上げますね!」


「キャ~~~♡」


「じゃねぇだロォ!私のバカァ!!」


シャンパンコールの後、トイレへ駆け込み鏡の前の自分へツッコミを入れる。アホ面で喜んでいた自分を殴り飛ばしたい。まさにミイラ取りがミイラになってる。まさか、ホストクラブがこんなに楽しいところだとは。これは確かに、捜査と銘打って遊びに行きたがる部下の気持ちも分からなくもない。

それに、ナキオの奴がこの店にツガイを隠すのも納得だ。これだけ魅力的な人間が多いと、誰がツガイだか一目では分からない。


「いや、違ウ。こんな冷静な分析をしている場合ではなイ。」


そうだ、さっさとツガイを見つけなければ。私が遊んでいる場合じゃない。今までの部下の報告で役に立ちそうなものがなかったか。記憶を頼りに、数か月分の報告内容を思い出す。


『TERUとコメットっていう2人組がいいコンビなんですヨ。あれ多分、裏で付き合ってますヨ。』


違う。


『GINGA君って何考えてるか分かんないけド、そこがいいんですヨ。多分私のこと好きなんですよネ~♡』


これも違う。


『今度コメットにプレゼントしようと思うんですけド、何がいいと思いまス?』


もはや報告ですらない。


『私の推し、イケメンすぎるから暗闇でも輝いて見えるんですよ~♡』


これだ!以前、上層部から聞いたツガイの特徴に当てはまる。なんでも、ツガイは暗闇でうっすらと光るらしい。つまり、この報告はツガイのことを指していたのだ。遊んでいただけだと思っていたが、まさか重要な情報を報告していたとは。ただ肝心の推しが誰を指しているのか分からない。


しかし、ここはホストクラブ。いつも薄暗い場所だから問題ない。

廊下の陰からこっそり3人のホストを覗いてみる。遠目で見れば、誰が薄っすら輝きを放っているかわかるだろう。

…ダメだ。3人ともキラキラ輝いて見える。また、コメットがドジして怒られてる。床にお酒こぼしちゃったんだな。でもTERUに怒られてるのにどこか嬉しそう。本当に裏で付き合ってたりして。ああ、なんて素敵なメンズたちなんだ…♡

…いや何を考えているんだ私は。もう一度よく観察してみるが、やはり完全に電気を消さないと光っているか分からない。


私は、もしもの時のためにこっそり侵入させていた部下に合図を送る。

その1分後、突如としてお店の灯りが消える。部下にブレーカーを落とさせたのだ。店内は軽いパニックになっているが、この隙を逃さず3人のホストに目を向ける。いた。本当に微かだが輝いている。あれは我々の姫様と同じ能力だ。ということは、やつがツガイに違いない。

再度部下に合図を送り、ブレーカーを復旧させる。そして、何事もなかったかのように卓へと戻った。


「お待たセ~♡」


「おかえりなさい!うんこっすか?オグゥッ!」


「あはは、ごめんなさい姫様。後輩が下品なこと聞いちゃって。急に停電しちゃったけど大丈夫でしたか?」


「いいのいいの全然。それデ、悪いんだけどここから先はTERU君と2人きりにしてもらえるかしラ?」


「喜んで。じゃあ、GINGAとコメット、悪いけど外してもらえるか。」


「…ごゆっくり。」


「うぐぐ…ごゆっくりどうぞっす。」


さて、これで任務は完了したも同然だ。

私は、今まで数多の星の男を落として今の地位を築いた。こんな辺境の星のオスを落とすなんて赤子の手をひねるのと同じだ。来期から私は地球支部の支部長…いや、本部の役員に昇進だ。


「ふウ…なんだか暑いわネ。」


私はTERUの前で、わざとらしく後ろ髪をまとめる。チラリとTERUを見るが、接客しているときと変わらずにこやかな笑みを浮かべている。これは、まだまだ序の口だ。


「ねぇ知ってル?エイリアンのヒ・ミ・ツ♡」


「なんでしょう?僕には見当もつきません。」


ここで私はTERUとの距離を詰め、耳元で囁く。


「それはネ、エイリアンは姿を変えることができるノ♡」


地球の男は、こういった女性の仕草が好きだと事前の調査で分かっている。しかし、TERUは動じることなく答えた。


「ああ。それなら、うちのコメットから聞いたことがあります。確かスイッチが身体のどこかにあるんですよね?」


なかなかやるな。流石No.1ホスト。しかし、この情報はどうだ。


「それだけじゃないワ。TERU君がスイッチを押せバ、TERU君の好きな人にだって返信できるのよ♡」


「ほう。それは興味深いですね。ですが、僕が今恋しているのは、オトモミさんなので。」


「えっ本当⁉」パアンッ


「えっ、大丈夫ですか?」


危ない危ない。TERUの甘い言葉に、コロッと堕ちてしまいそうになったところを、自分で自分の頬をはたくことでなんとか正気を保った。


「ごめんごめン。それデ、よかったらTERU君に私のスイッチを押してほしいんだけド、いいかナ?」


「あ、ああ。僕でよければ。」


よし、成功だ。これで、TERUの好みの人間の姿に変身すればあとは簡単だ。言葉巧みにこの男を誘惑し、月へ誘おう。


「ありがとウ。じゃ、優しく押してネ…♡」


そう言いながら、私はTERUに背を向けて、髪を上げる。私のスイッチは、うなじにあるのだ。

TERUの指が優しくスイッチに触れる。そのまま、カチッと音が鳴る。身体が光り、形が変わっていくのが分かる。光が消えて、自分の手を見る。人間の手だ。私はゆっくりと振り返り、TERUへ満面の笑みを向ける。


「どうかナ?♡」


「…。」


「TERU君の好きな人の姿になったんだけド。」


「…。」


「TERU君?」


想定していた反応と異なる。人間の感情を表情から読み取るのは難しいが、このTERUの表情は、好意を向けているものではなかった。


「あノ…?」


「…どこで。」


「エ?」


「どこでその女と会った?」


いまいち感情は読み取れないが、深刻そうな雰囲気は伝わった。

私は、慌ててポーチから手鏡を出し、自分の顔を確認する。


「ヒャアッ!」


自分の顔を見て驚いた私は、手鏡を落としてしまった。手鏡は音を立てて破片を飛び散らす。

私が驚くのも無理はない。鏡に映ったのは、有り得ない人物だったからだ。


「噓、そんナ、なんデ…。」


「聞いているのはこっちです。」


「有り得ない。だって、この人は…。」


あまりの事態に脳が混乱している。その様子を見て、TERUはため息をつき、私に話しかける。


「すみません、大変申し訳ないのですが、本日はお引き取り願えますか?」


「エェ?いヤ、でモ。」


「ひどくお疲れのようですし。それに、申し訳ないのですが、その姿だと私も満足な接客ができそうになく…。」


アクシデントはあったが、こんなところで帰るわけにはいかない。TERUを月に連れて行かねば。しかし、お引き取りくださいと言われてしまった。宇宙法に則り、私は帰らないといけない。でも、ここでTERUを連れて帰れなかったら、私は終わりだ。なんとか策を考えないと。

いや、そんなことより。ナキオとの、ツガイを惚れさせるという賭けに私は負けた。

あの時、私は———


「いいだろウ。私が惚れさせることができなかったラ、その場で首を切ってやル。」


宇宙法に則り、噓は付けない。

私はゆっくりと立ち上がり、床に散らばった手鏡の破片を拾う。


「あ、掃除は当店のスタッフがやりますので…。」


破片を吟味し、大きめのものを選ぶ。


「オトモミさん?」


私は、破片を手に取り、自分の方へ向け、ゆっくりと目をつぶる。


「ちょっ———」


私は、思い切り自分のクビに手鏡の破片を突き刺した、はずだった。首に痛みはない。握っていた破片は、強い衝撃によって私の手から離れた。目をつぶっていたので分からないが、何らかの形でTERUが止めたのは分かる。

恐る恐る、目を開けてみて、状況を確認する。


「T、TERU君!」


そこには、倒れ込むTERUの姿があった。脇腹に私が握っていた破片が刺さっている。足元を見ると、床がビショビショだ。そのせいで足を滑らせ、こんなことに。


「ダ、ダレカ!キュウキュウシャ!」


私は、TERUを抱えて叫ぶことしかできなかった。


———


『でハ、この任務から外れるということでよろしいんですネ?』


「はイ…私には荷が重かったでス。」


『ですガ、よろしいのですカ?ツガイを特定させただけでモ、功績として称えられますヨ。今までのミスなどと併せてモ、恐らくプラスの評価はもらえると思いますがネ。』


「いエ、もういいんでス…。」


ホストクラブから帰った後、私は今日あったことを報告し、自ら任務の辞退を申し入れた。ツガイに傷をつけるなんて、部下のミスとは比べ物にならないほどの失態だ。


『分かりましタ。では、上に伝えておきまス。ちなみに今回の一件ですガ、業務上の事故ということで片づけておりますのデ、あなにはペナルティはございませン。』


辞めることが決まった今となっては、この電話番との無機質なやり取りも名残惜しく感じる。礼を一言伝えた後、電話を切ろうとした時だった。


『あー待ってくださイ。変身したとき、どんな姿だったんですカ?』


「エ?」


『次のチームに引き継ごうと思いましテ、ツガイにボタンを押してもらった後、あなたはどんな姿になったんですカ。』


「ああ、はイ。あの時変身したのハ———」


私は、手鏡に映った自分の姿を思い出す。あれは間違いなく…。


「姫様の姿でしタ。」

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