第一話 第三王子の自室に連れ込まれる幼女
「兄上や姉上と婚約を結びたいものがいる。これは考えるまでもなく解ることだ。貴族であれば王族とのコネクションを欲するだろう。或いは最大限の効率の結果、時期王配の地位を得られる。だが、自分にまで近寄ってくるなど、時勢が読めないと言っているようなものじゃないか」
……伊達眼鏡の君こと、この国の第三王子。
ヴィルヘルム・ゴートリーは、そのように憤りを表明した。
問題はここがゴートリー王城で。
私が、彼の私室に通されていることである。
冒険者ギルド前からここまで、事情の説明すら受けず、唯々諾々と私は連行されてきたわけだが、これには理由がある。
ヴィルヘルム殿には、ゴートリーへ着たばかりの時、宿を世話してもらい、王族として忠告をいただいたという大きな借りがあったためだ。
だからこそ、王城の番兵に奇妙なものを見る目つきをされても、ヴィルヘルム殿付きの侍従たちから好奇の視線を向けられても、一切口を噤んできた。
だが、いきなり私室というのは、いかに私でもよろしくないことは理解できるわけで。
「ヴィルヘルム殿」
「ああ、アンリ嬢、貴女ならば理解できるか。彼らはなにを考え、自分に取り入ろうとしているのか。否、考えるまでもなく王族の基盤を欲しているのは理解しているのだが」
「話を聞き給え、ヴィルヘルム殿」
「……なんだ?」
なんだ、ではないが。
私は深くため息を吐き、自分を指差す。
ついで、部屋全体を身振り手振りで示し、ついで彼へと視線を向けた。
「この状況を、どうお考えかな?」
「気心の知れた友人を自室に招いただけだろう?」
友人と言ってもらえるのは素直に嬉しいが、最近は私も自分の外見に自覚が出てきた。
控えめに言って美しい。
それも極めて年若い幼女だ。
「おまけに素性が知れない。そういったものを第三王子が部屋に連れ込んだとなれば、邪推されるとは考えないのかな?」
「……あっ」
あっと言ったか、そう言ったのか、伊達眼鏡の君?
顔色を悪くした彼は、ずり落ちそうになった眼鏡を何度も戻す作業に没頭して現実逃避をしようとする。
私は再びため息を吐き、宥めるように語りかけた。
「慰めではないが、ポジティブに受け取ろう。ヴィルヘルム殿にはそれだけ親密な間柄の相手がおり、よって周囲のご令嬢がたにはご遠慮いただくという筋書きを立てるというのは?」
「それだ。いや、自分は端からそういうつもりで行動していてだな」
ここでなけなしの面子を潰すのは、年長者のやることではあるまい。
今度はため息を飲み込んで、私は彼の真意を聞くことにする。
「実際の所、なぜ私を呼んだ? それもわざわざ、自ら出向いてだ」
「……内調をしてもらいたい」
「おっと、予想外の言葉だ」
内部調査。
すなわち、彼にまつわる周辺人物の身辺を探れということである。
「どうして、そのようなことを?」
問いを重ねた私へ。
彼はじつに生真面目かつ真剣な面持ちで、こう告げたのだ。
「それは、これから茶会に同行してくれれば解る」




