ep.1
「VRMMO?」
『そー。結構有名だけど、知らない?』
「ここ数年は忙しくて中々、な」
椅子の背もたれに身を任せ、窓の外を眺める。
高層ビルばかりが見えるその風景に、ふと今聞いたばかりのVRMMOの詳細を聞きたくなった。
「で、そのゲームはなんていうタイトルなんだ?」
『VSW。正式名称はヴァーチャルスペシャルワールド……だったかな? みんな通称で話すから忘れちゃった』
「V、S、W……ね。というか全く凝った名前じゃないんだな」
『それこそ今更。変に凝ったタイトルより中身で勝負のゲームが多いのよ?』
「まぁ……そりゃそうだろうけどよ」
宙に浮いたタッチパネルを操作して検索をかける。
するとものの数秒で公式サイトと関連動画が上がってくる。
「自由なストーリー……自分だけのオリジナルストーリーが展開……景色も良さそうだな」
『まぁね。街から街にいくのにボスを倒したりする必要はあるんだけど、ストーリー……いわゆるメインストーリーみたいなのって決まってないの』
「決まってない? それがこの自分だけの、ってやつか?」
『そういうこと。NPCとの会話次第でどんな展開にもなるってこと。暴君にもなれるし、勇者にだってなれる。なんなら一般住民として生活だってできるし、闇組織みたいな立場にだってなれちゃうのよ』
「とんでもないゲームだな」
だから自分だけのオリジナルストーリー、か。
『アタシもレイもやってるんだし、兄さんも始めたらどう? ようやく暇が出来たんでしょ?』
「暇って言うか……まぁ、そうだな」
『あ、あと機材はこっちで用意するからちょっとだけ待っててね! 絶対自分で買わないでよ!』
「……結構な値段するだろ。貯金はまだあるし、自分で―」
『母さんに言いつけるけど?』
「……分かったよ。あぁ、それと」
『なぁに?』
「自由に旅するのって……どう思う?」
『いいんじゃない? 兄さんらしくてアタシは好きだよ。フリヘイト……あぁ、VSWの世界のことね。フリヘイトってめちゃくちゃ景色いいし、自然豊かなんだよ。あとは種族次第かなー。人型はもちろん、獣人にエルフ、妖精……それに機械人とか!』
「機械? とんでもない世界だな」
全員が機械の種族でそこからカスタムしていくならまだ分かるが……
『だから旅するにはちょうどいいって訳! アタシも街から街を放浪してる傭兵みたいなのやってるし!』
「へぇ? 戦闘とかも激しい感じなのか?」
『敵によるかなー。いくらメインストーリーがないって言っても、新しい街に行くにはボスを倒さないといけない。行ける街が増える度に敵の強さが激しくなっていくからね。最近だと……オーバーレイドって言ってね、何百人と集まって倒したりもしたんだよ!』
「流石はMMOだな……中々見られない光景だ。どんな敵だったんだ?」
『虫! それも城より大きな飛ぶ虫! 気持ち悪くて気持ち悪くて……うぅ、思い出しただけで寒気が……』
……みたいような見たくないような……
『まぁ、そんな訳だからあとは自分で調べてみてね! 機材は今手配しているから、その間に公式サイトで事前入力しておくと後で楽だよ! んじゃね!』
それだけ言って電話は切れてしまった。
相変わらず忙しないやつだ。
さて、公式サイトで事前入力だったな?
それから数日が経ち、荷物が届いたが
「……こんなものなのか?」
今まで見てきた中でもトップクラスに小さかった。
というかヘッドギアタイプか。
公式サイトで確認したらVSWに対応しているのは2種類。
ベッドタイプかヘッドギアタイプ。
ヘッドギアタイプは重くて基本的に横になりながら使うものだと聞いていたが……随分と軽いな?
まぁ、それはいいとして。
箱の中を探ると、手紙が同封されていた。
随分と古風だが……アイツはそういうのが好きなタイプだったな。
『先日の誕生日にお祝いできなかったから、アタシとレイと母さんからの誕生日プレゼント。VSWのコードは同封してあるから買わなくて結構! 既に買ってた場合は誰かにでもプレゼントしたら? それと、ログインしてそのままプレイするなら連絡ちょうだい。どこかで待ち合わせしましょう』
誕生日……ね。
久しぶりに帰るのも悪くないな。
コードはネットから入力できたので、有難く使わせてもらうことに。
事前入力も済ませてあるし、早速行ってみるか。
ベッドに横たわり、ヘッドギアを装着する。
あとは視線操作でどうにでもなる。
いくつかあるウィンドウの中からVSWを選択し、そして気がつけば
『ようこそ、VSWの世界へ』
文字が目の前に浮かんでいた。
初めましての方は初めまして。
ここ数年でVRMMO系にハマって、自分が読みたいタイプがなかったので自分で作りました。
色々グダグダしてるとは思いますが、読んでいただけると幸いです。
今回は2話連続投稿となります。