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王国を追放されましたが、今が一番幸せです〜婚約破棄された【無能】公爵令嬢は、隣国の辺境伯の元で才能を開く〜  作者: 雨野 雫


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22.白きモフモフ


「キュッ、キュウ〜!」


 どこからともなく飛び出してきたのは、白いモフモフとした毛玉……ではなく、小さな魔獣だった。耳も手も足もとても小さく、つぶらな瞳がうるうるとしていて何とも庇護欲をそそる。


「うわぁ……かわいい! モフモフ!」


 モフモフこと魔獣のキュウが、手のひらの上にやってくる。アストリアはそのあまりの可愛さに、思わず頬ずりをした。


「キュッ……キュウ〜」


 嬉しそうに目を細めるキュウがそれまた可愛くて、アストリアは既にこの子にメロメロだった。


 しかし、その様子を見ていたルカが何故かムッとした表情になり、己の使い魔にビシッと指示を出す。


「いいかい、キュウ! 何があっても必ずアストリアを守るんだ。わかったね?」


「キュウッ!!」


 キュウが力強く返事をしたところで、ルカがアストリアに説明をしてくれた。


「キュウはこんな見た目だけど、攻防共に秀でた使い魔でね。だから防御魔法もこいつに任せて大丈夫。既に入り込んでいる小型の魔物はキュウが対処するから、アストリアは浄化に専念して」


「わかりました」


「すぐに片付けて、君の元へ向かうから」


 ルカはそう言うと、不意にキスをしてきた。咄嗟のことで驚き、反応が遅れてしまう。


「……ル、ルカ様! 人前ではしないでくださいとあれほど……!」


 ワンテンポ遅れて顔を赤くするアストリアを見て、ルカは愛おしそうに笑った。


「フフッ。じゃあ、さっさと片付けるとしますか」


「もう……!」


 周囲の視線が何とも痛い。


 ルカが魔物討伐に加わることになって安心したのだろうが、こんな緊急事態だというのに皆が温かい視線を向けてくるのだ。


 その空気がいたたまれなくて、アストリアはルカを急かした。


「ルカ様、早く参りましょう」


「うん、そうだね。行ってきます、アストリア。くれぐれも気を付けて」


「はい。ルカ様も」


 そうしてアストリアは、副団長のバイエルに連れられ、大瘴気の発生源へと向かうのだった。



* * *



「この階段を下りてしばらく進むと大広間があります。そこが大瘴気の発生源です」


 バイエルに案内され、アストリアは皇城の地下へと続く階段の前にいた。


 今この時も、地下からモクモクと黒い瘴気が湧き出ており、そのせいで辺りの空気はすっかり淀んでしまっている。


 よく見ると、バイエルの手足が小刻みに震えていた。鍛え上げられた肉体が、本能的に「この場所は危険だ」と叫んでいるのだろう。


 そんな彼を見て、アストリアは頭を下げた。


「ご案内していただきありがとうございました。ここからは一人で行きます」


「そういうわけには参りません。アストリア様を送り届けることが仕事ですので」


 バイエルは頑なに引き下がろうとしなかった。確かにここで仕事を放棄すれば、皇帝の命令に背いたことになってしまうのかもしれない。


 そこでアストリアは、少し言い方を変えることにした。


「バイエル様の剣技を発揮すべき場所は、もっと他にあるはずですわ。わたくしにはこの子がいるので大丈夫です。それとも、ルカ様の使い魔が信用なりませんか?」


「キュウッ!!」


「そ、そういうわけではございませんが……」


 困った様子のバイエルに、アストリアは目を眇めていたずらっぽく微笑みかけた。


「マルクス様には、バイエル様にしっかりと送り届けてもらったとお伝えするのでご安心ください」


 その言葉に、バイエルは呆気にとられたように目を丸くしたが、すぐにフッと表情を緩めた。そしてその場でビシッと敬礼をする。


「承知いたしました。アストリア様、どうかこの国をお救いください。ご武運を」


「お任せください!」


 アストリアは力強く返事をした後、キュウと共に地下に続く階段を下りていった。


 一段、また一段と下りていくにつれ、瘴気が濃く、禍々しくなっていく。普段浄化している瘴気とは比較にならないほどの威圧感が、アストリアを襲った。ランタンを握る手に思わず力が入る。


 光の巫女姫である自分には瘴気の影響がないとわかっているのに、本能的な恐怖が内から湧き上がる。階段を一段下りるごとに、ヒヤリとした瘴気がアストリアの頬を撫でた。


 そして、地下に降り立った頃には瘴気が黒い霧のように広がっており、ランタンで照らしても数メートル先しか見えない状況になった。ここでまだ発生源ではないというのだから恐ろしい。


 アストリアはランタンをぎゅっと握り直し、広間へと向かって歩き出した。


(自分の足音以外、物音がしないわ。魔物は入り込んでいないのかしら)


 周囲を警戒しつつ進むと、程なくして開け放たれた大扉が見えてきた。どうやら広間の入口にたどり着いたようだ。


 広間の中には息苦しいほど禍々しい空気が漂っているのが外からでもわかる。


 アストリアは扉の前で立ち止まり、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。心臓がドクドクと早鐘を打ち、あまりの本能的恐怖に足がすくむ。


 早く中に入って浄化しなければならないのに、最初の一歩が踏み出せない。


「キュッ」


 アストリアの不安を読み取ったかのように、キュウが声をかけてきた。


「キュウ〜」


 キュウは可愛らしい鳴き声を上げながら、ランタンを握るアストリアの手にスリスリと頬ずりをしてくる。まるで「大丈夫だよ」と言ってくれているようだ。


(ここで怯えてどうするの。早く自分の仕事を全うするのよ、アストリア)


 意を決したアストリアは、とうとう広間に足を踏み入れた。


 しかしその時。


 影に潜んでいた小型の魔物が、アストリアめがけて一斉に襲いかかってきた。


「キュッ、キュウ!!」


 キュウが咄嗟にアストリアの前に飛び出し、防御魔法を展開してくれる。


 カウンター効果もあるのか、防御魔法にぶつかった魔物たちは弾かれ、次々に倒れていった。


「ありがとう、キュウ……!」


 愛らしい白き魔獣に礼を言うと、キュウはアストリアの服の袖を引っ張ってきた。どうやらこのまま発生源まで進めと言っているようだ。


 アストリアはひとつ頷くと、広間の中央に向かって進んでいった。キュウのおかげで足の震えも収まり、しっかりとした足取りで歩けている。


 その間も、魔物たちが防御魔法にバチバチとぶつかっては倒れていく。まるで大粒の雨が屋根に打ち付けているような轟音が、広間に反響し鳴り響いていた。


 そして、アストリアは瘴気が最も濃い場所で立ち止まる。


(やはり、普通の瘴気とは比べ物にならないわ……!)


 これまでに数多くの瘴気を浄化してきたアストリアでも、この大瘴気の浄化に一体何時間かかるのか全く想像できなかった。


 だが、一秒でも早く浄化を終わらせなければ、皇都の被害がどんどん大きくなってしまう。全てはアストリアの力量にかかっていた。


 思ったよりも多くの魔物が入り込んでいたようで、次から次へと魔物たちが襲いかかって来ている。しかし、それらは全てキュウが対応してくれていた。流石はルカの使い魔だ。


(わたくしは浄化に専念して問題なさそうね。さあ、始めましょう!)


 アストリアはいつものように、祈るように手を合わせ、目を閉じた。


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