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王国を追放されましたが、今が一番幸せです〜婚約破棄された【無能】公爵令嬢は、隣国の辺境伯の元で才能を開く〜  作者: 雨野 雫


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21.急報


 その知らせは突然だった。


「先生、大瘴気が発生しました。至急、アストリア様のお力をお借りしたい」


 長方形の通信魔道具に映し出されているのは、ここフレーベル帝国の若き皇帝、マルクス・ロンネフェルトだ。彼の切れ長の碧眼には、強い焦燥が滲んでいる。


 連絡が来た時、アストリアはルカの膝の上で税収記録を書き起こしていたところだった。通信に出る前に急いでルカの膝から飛び降り、今は彼の隣でこの通信を聞いている。


「わかったよ、マルクス。アストリア、今から行けるかい?」


「もちろんです」


 マルクスの焦り様から、すでに被害が出ていることが想像できた。


 いずれ大瘴気が発生すると覚悟はしていたものの、突然の浄化要請に緊張が走る。民を救わなければという使命感と、初めて大瘴気と対峙する不安とが、心の中でないまぜになっていた。


「それで、場所は?」


 ルカが尋ねると、マルクスはより一層表情を険しくする。


「幸か不幸か、皇城の地下です。おかげですぐに気づくことができましたが、漏れ出た瘴気で城内の者たちが次々に倒れていっています。そして、大型の魔物が大勢集まりつつあり、騎士団と魔法師団が総出で対処に当たっています」


(皇城の地下……!?)


 皇都の人口はこの国で最も多い。魔物が皇城へ集まってきているなら、一般市民への被害も出かねない状況だ。


「それは大変だ。すぐに向かう。君はそのまま執務室にいなさい」


「わかりました。迅速なご協力に感謝を」


 マルクスはそう言い残して通信を切った。そしてルカはアストリアをぎゅっと抱きしめ、落ち着かせるように耳元でささやく。


「アストリア。安心して。僕がついてるから」


 彼の声と言葉と温もりに、先ほどまで抱いていた不安が和らいでいく。


「大丈夫です。覚悟はできております。それに、ルカ様がいてくださるなら、怖いものなど何も。皇城へ向かいましょう!」


 

* * *



 マルクスの執務室では、重臣たちが慌ただしく出入りし、対応策についての議論が飛び交っていた。当のマルクスも、険しい顔で臣下に指示を出している。


「マルクス。来たよ」


 ルカが声をかけると、マルクス含めその場にいた全員の視線がこちらに向けられた。そして、ルカとアストリアを捉えた途端、皆の表情が安堵に染まる。


 すると、隣にいるルカが事も無げに言った。


「今、城の周りに結界を張った。これで魔物は城内に侵入できないはずだ。瘴気が外に漏れ出ることもない。それと、城内の全員に結界をまとわせたから、安心して動いていいよ」


(い、いつの間に……!)


 この部屋に着いて、まだ三十秒も経っていない。あまりの早業に、アストリアだけでなく臣下たちも驚いていた。


「ありがとうございます、先生」


 マルクスはこちらに近寄ると、アストリアに向かって一礼した。


「お初にお目にかかります、アストリア様。このような時に挨拶することになり申し訳ない」


「いいえ。わたくしもご挨拶が遅れて申し訳ございません」


 二人が軽く挨拶を交わしたところで、ルカがマルクスに尋ねた。


「早速だけど、大瘴気の発生場所はどこ? 案内してくれる?」


「部下に案内させます。彼について行ってください」


 マルクスの視線の先には、筋骨隆々の武人がいた。その武人が、こちらに向かって敬礼をしてくる。


「帝国騎士団、副団長のバイエルと申します。よろしくお願いいたします」


「よろしく。じゃあ、行こうか」

 

 そう言って歩き出そうとするルカの袖を掴み、アストリアは彼を止めた。


「お待ちを。ルカ様は、魔物の討伐に加わってください」


 彼は驚いたように目を見開いた後、すぐに眉根を寄せた。


「いくら君の頼みでも、それは聞けない。君を守るのが僕の役目だ。魔物は騎士団や魔法師団の連中がなんとかするよ」


「いけません、ルカ様」


 アストリアはゆるゆると首を横に振る。


 ルカは反対したが、アストリアとて引けなかった。しっかりと彼を見据えながら、窓の外を指差す。


「ドラゴンが十匹以上集まってきています。いくら帝国の騎士や魔法使いが優秀でも、相当な被害が予想されます。ルカ様なら、この事態も収められるでしょう?」


「それは……そうだけど……」


 皇城の屋根の近くには、ドラゴン以外にも空飛ぶ魔物がぞろぞろと集まり始めている。そのうち陸からも手強い魔物たちが押し寄せてくるだろう。このままでは混乱が加速するのは必至だ。


 大瘴気の浄化にどれだけ時間がかかるかわからない以上、ルカを自分の護衛に縛り付けるのは得策ではない。


 アストリアには、これまで護衛無しで浄化をこなしてきた自負があった。防御魔法だって十分に使える。


「わたくしは大丈夫です。信じてください。弱くはないつもりです」


 そう言って、ルカの手をぎゅっと握る。力強い視線を向けると、彼は困ったように眉を下げた。


「そんなこと言われちゃったら、信じないわけにはいかないな。でもその代わり、僕の使い魔をつけるよ。出ておいで、キュウ」


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