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王国を追放されましたが、今が一番幸せです〜婚約破棄された【無能】公爵令嬢は、隣国の辺境伯の元で才能を開く〜  作者: 雨野 雫


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20.賠償金騒動


 シェリルがベルンシュタイン邸を訪れた数日後。


 ランドル国王は、額に青筋を浮かべながら、とある書状を読んでいた。ベルンシュタイン家当主から送られてきた警告状だ。


 国王は読み終えたと同時に書状をグシャリと握りつぶし、そのままの勢いで執務机を激しく叩いた。


「あの娘はどこまで愚かなのだ!!」


 警告文には、だいたいこのような内容が書かれていた。



〜 〜 〜


 貴国のウォーラム公爵家シェリル嬢、並びにその護衛数名が、ベルンシュタイン領地内に許可なく侵入するという由々しき事態が発生した。


 その上、侵入するだけでは飽き足らず、我が妻に幾度となく暴言を放った。


 無断で領内に立ち入り、我が妻の心を深く傷つけたことは断じて許しがたく、シェリル嬢への厳正な責任追及と賠償を求む。


 また、今回の行為は、我がベルンシュタイン家への敵対行為とみなす。


 今後、貴国の人間が我が妻アストリアに接触を図ろうとした場合、貴国の安全は保障できない。


〜 〜 〜



「国王様。アストリア様を連れ戻す計画は、やはり中止なさっては……」


 宰相が恐る恐る進言すると、国王は怒りの矛先を自らの臣下に向けた。


「馬鹿者! あんな金づるをみすみす逃すやつがあるか!!」


 再び国王が机を叩き、宰相がビクリと肩をはねさせる。


「ウォーラム公爵家から謝罪文と賠償金を送らせろ。金を握らせればあの若造も少しは黙るだろう」


 大瘴気は光の巫女姫だけが払うことができる。


 そして、その大瘴気の発生は一箇所に留まらない。


 つまり、各国が大瘴気の発生に困窮しているところにアストリアの能力を貸し出せば、見返りとして莫大な金が手に入る、というわけだ。


 過去の光の巫女姫たちは無償で浄化作業を行っていたらしいが、金を取らないとは何とも愚かしい。


「よいか。何としても大瘴気が発生する前にアストリアを取り戻せ!」


「しかし、アストリア様がベルンシュタイン領内にいる間は、手出しができません」


「そんなことはわかっておる! それを何とかすることがお前の仕事だろうが!!」


 無理難題を押し付けられた宰相は、執務室を出た途端大きな溜息をついた。あの大魔法使いを出し抜いてアストリアを取り戻すなど、ほとんど不可能に近い。


 わずかに可能性があるとすれば、アストリアがベルンシュタイン領を離れるときだ。普段は領内にこもりきりだろうが、観光や瘴気の浄化でフレーベル帝国の街を巡ることがあるかもしれない。


 しかし、それがいつかはわからないため、帝国のあちこちに諜報員を潜ませておく必要がある。


 自分の執務室に戻った宰相は、疲れ顔で自分の部下に指示を出した。


「隠密部隊を呼んでください」


 こうして宰相は、王国の諜報員をフレーベル帝国の各所に派遣するのだった。


 しかし、「アストリアを取り戻せ」という国王の命令が、そして宰相のこの指示が、後にランドル王国の首を大いに締めることになるのを、この時はまだ誰も知らないのだった。



* * *



 後日、ウォーラム邸では。


「なんてことをしてくれたんだ、お前は!!」


 激しい叱責とともに、シェリルは父であるウォーラム公爵から容赦ない平手打ちを食らった。


 あまりにも強い衝撃に、シェリルはそのまま床に倒れ込む。頬は熱くジンジンと痛み、反射的に涙が滲んだ。


「お前のせいで他国の貴族なんぞに多額の賠償金を支払う羽目になった! アストリアがいなくなった途端、領地経営も立ち行かなくなるし、どうなってるんだ!!」 


 父は苛立ちを隠せない様子で、地団駄を踏んでいる。


 ウォーラム公爵領の管理は、その大部分がアストリアに任されていた。任されていたというより、押し付けられていたという方が正しい。

 

 父は「もともとは自分たちで領地経営をやっていたのだから、アストリアがいなくなっても余裕だ」と言っていたが、実際は違った。


 アストリアがいなくなってから、収支のバランスが途端に崩れだしたのだ。


 税収による収入が大幅に減る一方、支出はどんどん増えていく。しかしそれがどうしてかわからない。


 ここ数週間の間で、ウォーラム公爵家の財政は破綻の一途を辿っていた。


 そこにベルンシュタイン家への賠償金が重くのしかかり、父はこうして怒り狂っているというわけだ。


 だが、ほんの少し領地に入っただけで賠償金を払わなければならないなんて、誰が想像できただろうか。


 シェリルはこの賠償金騒動に関して全く納得していなかった。払うとしても、国が払えばいいではないか。抗議文は国に送られてきたのだから。


 視線で母に助けを求めるも、返ってきたのは家族とは思えないほど冷たい視線だった。


「あなたは昔から頭が悪かったものね。こんなことになるなら、もう少しちゃんと勉強させておくんだったわ」


(どうして? どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの?)


 シェリルがベルンシュタイン領に立ち入ったのは、ジェフリーに冷たくされ、彼に愛想を尽かしたからだ。だから、姉からルカを奪い、自分の居場所を新しく作ろうとした。


 強力な魔法使いで、見目麗しく、広大な領地も持ち合わせているルカなら、優秀な巫女である自分にピッタリの相手だ。彼もきっと、無能な姉よりも自分を選ぶに決まっている。


 そう思っていたのに。


 どうして出来損ないの姉が選ばれたのか。自分の方がずっとずっと優れているというのに。到底納得できなかった。


 そもそも、どうしてジェフリーは急に冷たくなったのか。自分はこんなに有能で美しいのに、あんな扱いをするなんて、彼の頭がおかしくなってしまったとしか思えなかった。


 そして、どうして父と母はこんなにも怒っているのか。今まで()たれたことも、冷たい言葉をかけられたことも、一度もなかったのに。まるで姉に対する態度のようだ。


(それもこれも……全部、全部お姉様のせいだわ……!)


 シェリルは心の内に憎しみを増やしていった。嫌なこと全てを、アストリアへの憎悪に変えていった。


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