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エピローグ



 高校に入学してから半年は経っただろうか。ひどく暑い夏を超え、ようやく涼しくなり始めた秋。随分と過ごしやすくはなったものの、周囲を歩く登校中の女学生達の服が分厚くなり始めた事は残念だと言わざるを得ない。


 自身の通う高校が視界に入るくらい近付いてきた頃、ふと前を歩く男子生徒の中に親しい仲の人間がいる事に気付き、少し早足で近付き肩を叩いた。


「おはよう、松太郎くん。今日は彼女さんと一緒ではないのかい?」

「おはよう、染崎(ソメサキ)。何度も言うけど、別に付き合ってないよ……」


 松太郎くんはなかなか可愛らしい顔立ちの男子だ。その整い具合からそれなりにモテそうだが、いつも周囲に女を侍らせている為……しかもその女子のレベルが高いものだから、モテない学校生活を送っているのだと嘆いては男子の顰蹙を買っている男だ。

 まぁ、ベビーフェイスになかなかの漢気を備えたこの彼が『彼女』の物になっていないうちに捕まえてしまえばいいものを……と周りの女子の行動力の低さに呆れが湧く。いや、実際モテているかは知らんが。


「ふふふ、贅沢だな君は。まぁ我が学年の『三美姫』のうち二人も侍らせていては、むしろ一人に絞るのは難しいといったところか」

「……仲良いのは認めるけど、あの二人は僕をそんな目で見てないと思う」


 俺の軽口に、ため息を吐いて本気の顔でそういった彼に(いや、一人は自覚なくても大分……)と思ったりはするが、まぁこれ以上は野暮ってやつだ。


「染崎、君こそ『三美姫』の……ねぇ。人のこと言えた口かな」

「ふっ。彼女は盛大にね、腐っているから……まぁむしろ互いに異教というかね」

「?」


 そんな会話をしながら高校につき、二人とも同じクラスなのでそのまま連れ立って教室まで行く。

 席は離れているので教室に入って分かれて、自分の席に座るとどかりと目の前に足が出てきた。

 顔を上げると、俺の机の上に足を組みながら座る幼馴染の姿が。


「おい。お前昨日、岬花苗と一緒に居たろ」

「……なんで知ってるの」

「お前を見たって話、なんかよくウチに流れてくる」

「総監視社会ね。怖過ぎるわ」


 岬花苗とは、目の前の幼馴染同様に我らが学年の『三美姫』と呼ばれる……中でもとびきり容姿がいいと言われることの多い、文武両道の化け物みたいな女のことだ。

 しかしこの幼馴染はまるで浮気を見つけた彼女みたいな言い方をしてくるが、ひどい言いがかりである。俺はむしろ……いや、これはいいか。


「一緒に居たとして、お前に何も関係ないだろう。いや待てよ? もしかしてお前は俺の彼女だったのか?」

「それは、ない」


 なんと色気のない会話か。昔から幼馴染で、よく「付き合ってるの?」と揶揄われてきたが、それでも真顔で否定されたことしかない。


「おはよー」


 のんびりとした声が聞こえてきて。

 ふと、教室内の空気が変わった。


 皆が先程までと同じ行動を取っているように見えて、しかしどこか意識している。それが学年のアイドルとも言える『周防真守(スオウマモリ)』の存在感だ。


 いつもべったりと岬花苗を引き連れているのもあるだろう。というか溢れ出る雰囲気で言えばそちらの方が妖艶ではある。

 だが、周防真守には人の目を惹きつけてやまない『モノ』がある。


「おはよう染崎くん」

「おはよう」


 それは小さめの身長に細い腰、なのに不釣り合いに大きな胸部である。男子のみならず女子ですら、二度見三度見は免れない魔性を持つそれは歩くだけで強く主張する。

 というわけで、この学年の男子人気で言えば一番なのが周防真守だ。かくいう俺も彼女のファンの一人である。まぁ我が幼馴染に次いで、ではあるが。

 中学でも非常にモテたらしく、女子とは馴染めなかったと言っていたが……今、クラスの女子と仲良く談笑している姿を見ると中々想像はつかない。まぁ、恋愛系で揉めたのかもしれないな。


「相変わらずデケェな」


 幼馴染も机に頬杖をつきながらポツリといった。女子だから許される軽口だが、もし俺が言おうものなら女子からの目線はまさに針の筵であっただろう。

 幼馴染のとある事情を知っている人からすれば、グレーの発言ともなりうるのだが……。


「おい、松太郎くんや。あの胸をそろそろ揉みしだいたんか?」

「……やめてくれ。染崎、そういう関係じゃないってお前の彼女にちゃんと伝えろって言ってるだろ」

「狙ってはいるけど彼女ではないんだ」

「やめろぉ! 松太郎、お前もウチの事情話しただろぉ!?」


 自分から松太郎に絡んでおいて、手痛い反撃を喰らって取り乱す我が幼馴染をニヤニヤとした顔で見つめていると、腹を思いっきり蹴られた。


 やれやれ……。

 そんな風にまぁ、いつもの談笑を松太郎や幼馴染としていると周囲の話し声が耳に入った。


「おい、聞いた? 隣のクラスの女子が電車で『E.R.O.S』に痴漢されたってよ」

「うわ、マジかよ。可哀想……」

「ほんとキショい連中だよなぁ」


 思わずため息を吐いてしまう。不思議な力を持った能力者が徒党を組んだ集団の一つ……『E.R.O.S』という、能力を使って変態性癖を満たすことに執念を燃やす悪性能力者集団。

 その名前を聞いて、我が幼馴染がぴくりと眉を顰めて不機嫌を露わにした。


「ちっ……また出やがったのかあのゴキブリども! カス! 殺してやる! どこで出たか聞いてくる!」


 ガタッ! と、椅子から立ち上がり隣のクラスに向かおうとする幼馴染の腕を掴んで止める。この剣幕のまま行かれては非常に困る。


「やめなさいって、その被害者の子は傷付いているだろう。蒸し返してその傷を抉るようなことをしてはいけない。お前も、そうだろ?」

「うぐ……っ」


 俺と幼馴染のやりとりを見て、松太郎が僅かにバツの悪そうな顔をしている。彼には、幼馴染の事情を話してあるのだ。


 彼女はかつて、彼だった。

 しかし、ある時『E.R.O.S』の一人によってその身体を女性のものに変えられてしまった。それは不可逆の変化で、非常に多感な時期にそうなった幼馴染は大層歪んでしまった。

 男同士の友情に憧れ過ぎて腐ってしまうくらいには。


「いや、まぁでも本当になんとかしてほしいよな……『Next』とか、『美食倶楽部』とか、最近は物騒な奴らが多過ぎる」


 腕を組み、神妙な顔で松太郎は言う。何やら思い詰めたように見えるのは気のせいだろうか。

 周防真守の横に立ち、何故かこちらをジッと見ていた岬花苗の視線を嫌だなぁって思いながら、俺はもう一度ため息を吐いた。





 *




「大丈夫? 染崎くん」


 驚いた。


 それはいつもの日常から……少し外れた日のことだった。何気なく歩いていたショッピングモールに、突如としてそこを襲った能力者。

 建物内は阿鼻叫喚の地獄絵図……とは言い過ぎかもしれないが、それなりの騒ぎになっていた。

 衝動的な犯行だ。電気を操る能力者は、ショッピングモール内の電力を奪い取り、それで周囲の人間に攻撃を始めた。


 偶然居合わせた俺は、なんとかその場から逃げ出そうとするも偶然犯人の前に姿を現してしまい、あわや絶命の危機……その瞬間に、どこからか飛んできた周防真守が犯人を蹴り飛ばした。

 その際に電気によってその整った顔に攻撃を受けていたが、一切気にする様子なく俺の方に来てむしろ俺の心配をしてくる。

 顔の傷は、まるで幻だったのかと思わせる速度で治っていく。そうか、彼女も能力者だったのか。


「少し下がってて、アイツは……私が倒す」


 周防真守の能力は傷を治すだけではないらしい。なんだか色々な力を使って、犯人を制圧した。その後駆けつけた警察官の女性と親しげに話しているのを横目に、俺はさっさとその場から抜け出すのであった。



 *



 また別の日。

 俺は夜道を歩いていると、女性に向けてコートの下を見せつける変態を見つけてしまった。しかも股間が光っている、物理的に。能力者……なんてことだ、しかもそのまま女性を人気のない場所へ連れ込もうとしている。


 光らせる意味はわからない。それはともかく流石に助け舟を出すべきかと思案していると、どこからともなく黒い影が飛び出して変質者を叩きのめした。


「マツ! 油断するな!」


 黒い影は人間だ。肩に乗った黒猫が突然人語を話した。俺はびっくりした。能力者が猫を操作しているとか、そういったものだろうか。

 猫が叫んだ直後、強い光が変質者から放たれ、それは目眩しとなって黒い影は一瞬怯んでしまう。その隙に変質者は逃げ出してしまった。


「くそっ! 逃すか! 《俊足の種》!」


 黒い影が懐から何かを取り出し口に含む。すると同じ人間とは思えない速度で走り出し、瞬く間に変質者に追いついて拘束していた。


 その様子を見ながら、俺は姿を隠して驚愕に口を抑えていた。変質者が光を放ち、それが弱まった時……黒い影、黒いパーカーを深く被った男の顔を見てしまったのだ。


 なんと、友人の松太郎くんであった。

 あの足の速さ、彼も能力者だった……? いや、直前に含んでいた黒い種のようなものがカラクリか? そもそもあの猫は一体……。


 場合によっては俺も不審者扱いされかねないと、一旦その場は立ち去ることにした。




 *




 そんな風に、何やらいろんな事件に巻き込まれたり目撃する日が多くなった。周防真守の旧知の中である女性警察官……松太郎の従姉妹に当たる人には妙に顔を覚えられたり、《対魔》とかわけわからん連中と周防真守が共闘しているところに出くわしたり、真守の姉である周防潔が化け物だったり。


 俺は中心ではない。周防真守が中心なのだろう。特に『Next』という犯罪能力者集団が各地で起こすテロ。その組織と彼女は何やら因縁があるらしい。



 何度か、そういった場面を見かけて俺は素直にカッコいいと思った。その容姿に、ヒロイックで……自己犠牲を躊躇わない姿に、俺は自身の心に強く響くものを感じていた。


『Next』は過激な奴が多い。故に先陣切って身を危険に晒す周防真守はいつもボロボロになっていた。

 岬花苗がその姿を妙な視線で見ているのが気色悪いが、周防真守が本当のピンチの時はよく助けている。どちらかというと裏方的動きが多い。



 だが、今回の『敵』は流石に分が悪いようだ。偶然、学校の行事で博物館を訪れていたときに襲撃してきた『Next』は、館内の人間を拘束し何かを探し始めた。

 いつもの如く、周防真守や松太郎……岬花苗も『Next』に刃向かい、戦いを始めていた。

 だが俺を含む同じ学校の生徒を人質に取られ、彼女達は敗北を喫してしまう。このままでは殺されるだろう。俺はため息を吐く。流石にそれは、夢見が悪い。


 キンッ。

 と、小さく甲高い金属音が鳴る。それは俺の『能力』によって、俺の腕を拘束していた金属の鎖が切れる音だ。


 周囲の人間に気付かれないよう、こっそりと俺は監禁されていた場所から抜け出す。少し探して、ようやく周防真守を見つけた。


 彼女は一人で、誰かと話していた。ボロボロで、今にも気絶しそうな怪我をしているのにその瞳だけは依然強く輝いている。その姿を見て、思わず口角が上がってしまう。

 近くに、岬花苗と松太郎が気絶して倒れているのが見える。それを庇うように膝をつく周防真守に対し、たった一人でポケットに手を突っ込み見下ろす……俺たちより年下に見える、少年と言ってもいいだろう。


「誰だ」


 気付かれたので、俺は堂々と姿を現す。


「染崎、くん!?」


 周防真守の驚く声が聞こえるが、今はそれどころではない。俺は肩をすくめて言った。


「悪いね。周防さんと君はどうやら仲が良いようだが……俺は彼女のファンでね」


 キキンッ! 

 謎の少年の真上、天井を格子状に切り裂き、重力に引かれた瓦礫が彼に降り注ぐ。すると彼の首元から赤い『棘』のようなものが飛び出して、降り注ぐ瓦礫の全てを破壊した。俺は驚いて一歩後退る。


「おいおい、嘘だろ?」

「へぇ、君は能力者(アウター)か。自己紹介をしておくと、『Next』総帥の『血棘』だ。中々強力な能力(アウト)に見える、どうだ? 仲間にならないか?」


 言葉とは裏腹に俺への敵意は一切解いていない。そりゃあ、こっちから攻撃を加えたのだから当たり前である。


「……周防さんの、敵だろ? だったら、俺の敵かなぁ。もう一度言うけど、ファンなんでね」

「……残念だよ」


 一度、少年の眼光が強くなる。


 小手調べだ。総帥と名乗る少年から十本近くの『棘』が飛び出した。俺は、緩やかに手を伸ばしそれらを全て半ばで切断する。


 パラパラと地面に落ちた赤い棘は空気に溶けるように消えて、俺はそれを確認した後一歩前に踏み出す。


「強い能力だ。だが、なぜ人体を攻撃しない。見たところ君の切断能力は『座標』を決めて攻撃しているのだろう? 射程も、僕の上の天井を落とせた時点で届かないということはないだろう」

「……そこまで分かるの? こわっ」


 俺は肝が冷えた。今の攻撃で、俺の能力の性質を見切られている。なんだこの化け物。俺は振り返り周防真守を見る、すると気絶してしまったのか地面に伏せっていた。


「答えは、君が人体への攻撃に抵抗があるか……人体は切れない『条件』があるか」


 少年と俺の真下の地面を格子状に切り裂く。重力に引かれ、地面が抜けて下の階に落下し始める。


「さらに! 君の能力には明確な弱点がある! それは!」


 少年の声がよく通る。

 瓦礫と共に落下しながら、少年は瓦礫の隙間を縫って赤い棘を伸ばしてくる。それを、俺は瓦礫を蹴って移動しながら切断し防ぐ。

 少年の能力への警戒はしていた。しかし、瓦礫の隙間から突然赤い棘が形を崩して飛び散った。鉄臭い匂いから、棘の正体が血であるとそこで気付く。血の目眩し、そうして隠れた位置から、今度は瓦礫の破片が飛来して俺の顔に直撃する。



 なんとか地面に着地して、上から降り注ぐ瓦礫を回避する。破片は俺の右目を完全に潰してしまっていた。止まらない血を、手で抑えながら前を見る。

 無傷で、こちらに向かってくる少年は俺の顔を見て口角を上げて、言った。


「距離感だ。片目を失い、もはや君の能力は狙いが付かないんじゃないか?」


 その通りである。

 両手で足りないくらいの数。少年が『棘』を構えた。俺は何度目かになるため息を吐き、覚悟を決めた。


「一つ話を聞いてくれないか? なんで、俺達は能力者(アウター)と呼ばれているんだ?」

「……。始まりの能力者は、この世界から(ハズ)れた存在だ。それに曳かれ続いた我々も、同じく世界から『逸れた(アウトした)』存在なんだよ」


『Next』は日頃から自分達が能力者の始まりだと公言していた。そして、『アウター』と言い始めたのも彼らが発端であり、それは実際にそうであると世間的に認められたものだった。

 だから聞いてみた。疑問だったのだ。俺からすれば違うから。


「世界から、外れた……ね。俺はそうは思わないんだよな」


 勝ちを確信しているのか、それとも何か思惑があるのか。少年は黙って俺の話を聞いていた。俺が少しでも動く素振りを見せれば、すぐにあの『棘』達が俺を貫くだろうが。


能力(ギフト)。俺は、そう呼んでる。何故なら俺達、能力者(ギフターズ)能力(ギフト)は、願い、信じれば、必ず答えてくれるからだ」


 俺は走り出す。目にも止まらぬ速度で『棘』がいくつも俺の体に風穴を開け、痛みと体内から溢れ出す血にうめき声をあげてしまう。だが、時間は充分もらっていた。

 発動、可能だ。


能力(ギフト)は、答えてくれ、る。ゴホッ……神からの、賜りもの……俺は人体を、切れないんじゃ、ない」


 何故、死なない? 

 そう言いたげな顔だった。既に能力は発動している。俺は『生まれ変わっている』のだ。


「自身に『条件』を課した。切れるのは、『男性器』だけだ。俺が能力(ギフト)にそう願った」


『棘』をすり抜け、俺の身体は『女性のもの』に変わっていく。新たに生まれた肉体は、当然新品だ。失われた右目も復活した。

 男の肉体から男の象徴を『切り』落とし、女として生まれ変わらせる。その際に肉体が新しく作り直されるのは当然の道理である。己自身に使うのは初めてだが。


「はっ?」


 数々の修羅場を潜り抜けたであろう事が予想される少年も、流石に驚いていた。致命的な隙だ。


「ふっ。男と違って女は容赦ないぞ?」


 能力(ギフト)は願い、信じれば変化する。とはいえ男の俺と女の俺では精神的な変容? もよく分かんないけど能力(ギフト)の仕様に変化があるのは自明の理。


 つまりはまぁ、女の俺は普通に人間を切れる。


 バッ! と、少年の首が裂けた。浅い、だが致命的だろう。彼は咄嗟に後ろに避けたのだ。おいおい、人間を殺す覚悟、決めたのに逃げないでくれよ。


 少年は首の傷を血で塞ぎ、ヨロヨロともう数歩後ろに下がった。追撃をかけようとして、突然少年の側に新たな男が現れたことに驚いてすぐ発動するが、既にそこにはいない。


「ふ、ふふ……手痛く、やられたよ。今回は退かせてもらう……」


 視線を動かすと、なぜか別の位置に立っていた彼らを見つける。逃すとでも? 

 そう思い少年と男ごと切り裂こうと能力を発動するが、瞬きの間にまた目の前から姿を消していた。


「何……?」

「恐ろしい能力だ。でも何故……そんな妙な使い方を」


 声のした方を向くと、すぐ近くに『棘』を構えた少年がいた。側に立つ男の能力か……。俺はそう推測する。この距離だと、俺の能力発動と少年の『棘』のどちらが速いかわからない。何故か発動の瞬間を見切られてるし。

 俺は、少年と話を続けることにした。


「妙、か。俺……いやもう私だな、うん。私の性癖は『TS娘』でな。こう……現実には中々いないだろ? だから自分で作ることにしたんだ」

「ええ……? ていうか君、もしかして」


 少年の呆れた声、俺は一度鼻を鳴らし、『Next』の彼に自己紹介をすることにした。


「そうだ。私は『E.R.O.S』幹部、『変性のキリサキ』……大変遺憾ながら、『悪性能力集団』と揶揄される存在である」

「揶揄されて当然だろう」


 少年は再び目の前から姿を消した。慌てて周囲を見渡すと、かなり遠い位置の、しかも高い位置からこちらを見下ろしていた。


「でもそれで、君が周防真守を気に入っている理由はよく分かったよ。また会おう、次は……負けない」

「……ちょっと待って、その理由教えて? 俺あの子に能力使ったことないよ。でもなんか刺さるんだよなぁ」


 少年はまるで幻だったかのように消えた。

 俺は最後にまたため息を吐き、自身の身体を見下ろす。


「どうしたものか……」


 俺の能力による性転換は、『性器の切断』によって引き起こされるものだ。つまりは、不可逆である。

 このことは誰にも話せない、強いていうなら『E.R.O.S』の連中には説明できるが、プライベートでは無理だ。幼馴染に殺される。

 ということは、俺は、俺自身が『E.R.O.S』の被害者であるフリをしなければいけなくなった。




 ということで、その後意識を取り戻して助けに来た周防真守になんか上手いこと説明して、突然現れた『E.R.O.S』の変態が全部なんとかしていったことにした。

 しかし、俺は能力の発動を周防真守に見られていたらしい。女体化までは見ていないようだが……能力者であることはバレてしまった。なので幼馴染の手前、『E.R.O.S』を敵視して戦う立場を取ることになった。


 そう……ここから始まったのだ、俺も周防真守達と共に中心になって悪性能力者達と戦う日々が。


 周防真守の姉や岬花苗には何やら怪しまれていそうな目で睨まれるし、とある警察官と迂闊に話すとボロが出そうだし。

 なんか《対魔》とかいう連中は特に害がないけど、地面から刀生やすおっさんはともかく刀を振り回すおっさんは怖い。


 表では彼らと共に正義の味方的動きをして、裏では『E.R.O.S』の仲間と暗躍する……そんな二重生活に俺は耐えられるのだろうか。



「染崎くん、私も性転換能力者には会いたいと思ってるんだ! だから、君の見た情報を少し友達に話して欲しいんだけど……」


 ある日、周防真守からそう言われてズイッと顔を近づけられた俺は特に考えもせず頷いた。危ない。そのまま口付けするところだった。潔さんにぶっ殺される。

 何故この子は少し距離が近いのだろう。理由は最近判明した。岬花苗による無意識の調教だ。パーソナルスペースをバグらせているのだ。

 あの女は何を考えているのか、周防真守を無防備な小悪魔に育てようとしている。それはさておき周防真守に言われてホイホイと俺はついて行った。


 辿り着いたのは、政府が運営する対能力者用の監獄だ。ここでは犯罪を犯した能力者を様々な方法で管理しているらしい。


 そして、その中で捕えられた犯罪者の一人と会うことになった。俺は最近腰まで伸ばした髪をいじいじしながら待った。

 すると、現れたのは同い年くらいの女だ。何故か、ビビッと俺の脳に電撃が走る。周防真守を見た時と同じだ、刺さる……性癖に……! しかしこの女に能力を使った覚えはない、もしかしたら……俺以外にも性転換可能な能力者が居る? ならば俺も男に戻れるのでは……。


「光、久しぶり。今日は彼女、いや彼の話を聞いて欲しいんだけど」

「……?」


 わざわざ俺のことを彼と言い直した周防真守に、面会に現れた女は首を傾げた。


「これ、彼がこの姿になる前の姿」

「……えっ」


 写真だ。多分学校の行事などで撮られた写真の切り抜きだろう。それを見せられた女は眉を顰めて俺を見た。もう一度写真に目を落とし、また俺を見る。


「実は、彼は『性転換能力者』をその目で見ているらしいんだ。光の知るその能力者と同じなのか確かめようと思って、個人的に、会ってみたいんだ」

「えっ、いや……あの……いや、そいつ」


 妙に歯切れの悪い女だな。俺はぼんやりと見つめながらそう思った。俺のことを指差し、周防真守に対してモゴモゴと何かを言い淀んでいる。



「そいつ自身だよ」



 女の発言で場の空気が凍った。

 何故バレたのか分からないが、周防真守もそれを真実だと確信していそうな顔でこちらをみてきた。どれほどこの犯罪者の女を信用しているんだ。


 やれやれ。

 俺はため息を吐き、新たに始まるであろう戦いに想いを馳せた。



 終


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