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ただ愛してるだけ  作者: レオナル℃
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第六回「雷雨」

迎えに来てくれるとのことなので交差点付近でさゆりは待っていた。さゆりは今更ながら思い切ったことをしていると思っていた。家庭がある身でありながら男性と、しかも大学生とドライブだなんて。でも、岩井のいうとおり只の気晴らしのドライブであって、別にそれ以上のことはないとわかっていても、さゆりは心の高鳴りを感じていた。

しばらくすると、一台のバイクがさゆりの前でライトを点滅させて、そして、近づいてきた。岩井は車ではなくバイクでやってきたのだ。さゆりはてっきり車でのドライブと思っていたので意表をつかれた。

岩井はさゆりにメットを渡す。

「てっきり車でくるものかと思っていたわ」

「バイク、嫌いですか?」

「乗ったことがないわ」

「いいもんですよ。風を切って走るのは」

さゆりはメットをつけて岩井の後ろに跨った。

「しっかりつかまってください」

さゆりははじめは躊躇うも岩井が「つかまって」と念を押すので、さゆりは岩井の背中にもたれ、両腕でしがみついた。そして、がっしりとした岩井の体を感じた。

そして、バイクは走る。

最初に二言三言、何処へ行くか?話しをしたが、海に行くことにした。

そして、バイクは疾駆する。

さゆりは岩井の背中にもたれ、「こんなことをしてよかったのか?」「もし、夫に知れたら?ひかるに知れたら?」と自問自答していた。このドライブの誘いを断らなかったのも岩井の押しもあったかも知れない。けど、本当は自分という人間を姉の佳織にも娘のひかるにも、おそらく夫にも見透かされている自分がイヤだった。つまらない人間と思われていることがたまらなくイヤだった。そんな中、岩井くんが現れたんだ。

「ほら、海が見えてきた」

さゆりは顔をあげると眼下に海が見えてきた。

「海、久しぶりに見るわ」


岩井は海岸線を走り、砂浜が広がる場所へ行った。

そして、二人はバイクを止めた、さゆりはほんと久しぶりなのか高揚した気持ちで裸足になって波打ち際ではしゃいでいた。乙女のようにはしゃいでいた。そんなさゆりの姿を見て、誘われるように岩井も靴を脱いで裸足になってはしゃいだ。二人はどちらかともなく手を握り合った。そしてワケもなく笑い、はしゃいで時を過ごした。


そして、近くのファミレスでゆっくりと他愛ない話をしながら昼食をとり、そしてまた、海岸線をバイクで走った。さゆりも岩井にしがみつくことにもう抵抗はなかった。そして、雲行きが怪しくなってきたので家路につくことにしたが、雷雨にあってしまった。さゆりは岩井にしがみつく。

「さゆりさん」

さゆりは頭を上げる。すると、前方に大きな看板が見えた。ラブホテルの看板だった。

「いいよね」

さゆりは何も言わず、岩井に背中に身を任せた。岩井は雨をさけるかのようにホテルへ入っていった。そして、二人は手を繋ぎ黙って部屋へと入っていた。さゆりは岩井にしがみついていたせいか前はさほど濡れてはいなかったが、岩井はびしょぬれだった。岩井はさゆりを抱き寄せた。さゆりは一言も発することなく目をつぶった。唇に岩井の唇が重なるのが分かった。さゆりは岩井になされるがまま、ふと「今まで将来とか安定とか体面、そういうものなしに人を好きになったことがあっただろうか?」という考えが脳裏を過ぎるも、今は消し去り、今はただ何もない裸と裸の男と女。さゆりは岩井に身をゆだねていった。


岩井は寝ながらたばこを吸っていた。さゆりはベッドの中で岩井の胸に頭を押し当てて、「本気になっていいの?」と岩井に聞こえるか聞こえないか程度の小さな声でポツリと呟いた。それは自然に無意識に出てしまった言葉だった。さゆりはハッとし、一瞬考えた。「本気」という言葉がさゆりの頭に引っかかったのだ。それは岩井に聞いたのか?それとも自分自身に聞いたのか?でも、そんな答えは今はいらないと思い、さゆりは無意識に浮かんだそんな言葉を振り払うかのように岩井を強く抱きしめた。


二人がホテルを出たとき、雷雨は通り過ぎ、雲の隙間から陽が差していた。



             

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