第三回「告白」
さゆりはバイトを終えて、ゆっくりと着替えて、公園に行く。公園には数人のホームレスがいるのか段ボールの寝床がある。ブランコを揺らす音が聞こえるのでさゆりはブランコの方を見ると岩井がブランコにのって、さゆりに片手をあげて合図を送る。さゆりは岩井の傍に行くと岩井は自販機で買った缶コーヒーを渡す。さゆりはブランコを囲っている鉄柵に腰を預ける。
「私が姫宮さんにいやがらせを受ける理由って何?」
岩井はブランコに揺られながら「澤田さんが遅番に入る前の日かな、姫から電話をもらったんだ。その時、姫が澤田さんにいやがらせをするって言っていたんだ。はじめは姫もふざけ半分で俺をからかうつもりで言っていたんだけど、なんていうのかなぁ、そのうち売り言葉に買い言葉になっていくと段々、姫の方が本気になって、澤田さんに絶対いやがらせをしてやる!バイトやめさせてやる!とか少なくとも遅番には来ないように仕向けるとかいいだして、喧嘩別れしたんだ。そしたら、案の定、姫が澤田さんのことを怒っていたとか周りの人が言っていたから」
さゆりは、缶コーヒーを開けず両手で握っている。
岩井は軽くブランコを揺らしながら「僕にも、姫と年が近い妹がいて、ああいう子の扱いはなれていると思っていたんだけど、姫はいかんせん一人っ子で、ちょっと幼いというか、わがままな面があるんだよね」
「仕方ないわ。私にも姫宮さんと同い年の娘が一人いるけど、もう、私の手におえなくて、私のいうことなんてちっとも聞いてくれないわ」
さゆりは手に持っている缶コーヒーのプルトップを開けて、コーヒーを一口すする。そして、缶コーヒーをまた両手で包むようにもって「きっと彼女、あなたにもっとかまって欲しいのよ。なんか健気じゃない」といって微笑み、「姫宮さん、あなたのことが好きなのね」とさり気なく呟く。岩井は揺らしていたブランコを止めてさゆりを見ながら「僕もあなたのことが好きですよ。さゆりさん」
と、さゆりの部分を強調して岩井は告白する。
さゆりは岩井を見る。岩井もさゆりを見ている。
静寂が二人を包むも、さゆりが静寂と岩井の熱い視線に耐えかねるように「いやだぁ~、もう変なこといわないでよ」といって笑い、「もう岩井さんまで、おばさんをからかわないで!」といって、手に持っている缶コーヒーを口にする。
岩井はそんな少し動揺しているさゆりをほほえましそうに見て、さゆりと目が合うと岩井は「僕は本気ですよ。本当にさゆりさんのことが好きですよ。だから、姫と喧嘩になって、さゆりさんが姫からいやがらせを受ける羽目になったんだから」
さゆりは只々沈黙する。
「でも、大丈夫。これ以上、姫に好き勝手はさせないから。だから、これからも遅番に来てくださいね」
さゆりはなんていっていいのか分からず、只々黙っている。
「遅番に来なくても、僕が早番にいける日は行きますから」
岩井は笑顔でそう話しながらさゆりを見つめる。さゆりも岩井の視線から目を逸らすことが出来ずにいる。
さゆりは彼の眼差しが少なからず私の心を突き刺したような気がした。
その夜、さゆりは変な余韻に浸りながら家に帰った。家には夫も娘もいない。夫は仕事で留守、娘は姉の佳織のところに泊まってくるとの事。うちではありがちなことだ。
岩井に公園で「好きだ」と告白されたせいか、なんか変な気分でお風呂に入り、そして、パジャマを着て、何気なく深夜テレビを見た。別に見たい番組があるわけでもなく、なんかこの変な気分を紛らわしたかったのだ。そして、何気なくつけたチャンネルではバラエティ番組が放送されていて、そのバラエティは牧場で若い芸人やタレントが牧場の体験レポートをしていた。すると若い雄牛が年老いた雌牛の背中にのって執拗に交尾しようとする雄牛を制する牧場の人たちの姿が映り牧場主は
「その雌牛は引退したんだから、やめろてば!」と若い雄牛を年老いた雌牛から引き離そうとしていた。それをタレントたちが見て「熟女好きな雄牛ですね」とか言って囃したてていた。
さゆりは身につまされる思いがしたのかテレビを消して、寝室に行き眠りについた。
すると今度は夢の中で若い青年、岩井が私に迫っている夢を見た。
岩井の研ぎ澄まされた肉体がハリのない体をもつ私に迫る!そして、私は夢の中で岩井に好きなように抱かれていた。
岩井の胸にもたれかかっているさゆりに周りの人は冷やかしの声をあげ、姫宮は私に「いい年こいて恥を知れ恥を!」と罵声を浴びせていた。
その罵声の前に岩井が立ちはだかり、私に覆い被さってくるところでさゆりは目を覚ました。
「ああ、なんて夢を見たのかしら・・・」
首から胸に手を当てるとジットリとした寝汗をかいていた。