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ただ愛してるだけ  作者: レオナル℃
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第一回「何があるっていうの?」

「仕事もなれてきたて、皆さんとも親しくなってきたのに残念です」と送別会の席で吉田三津子が挨拶をした。

別れの挨拶をしたのは他に一人、遅番で働いていた浪人生の田中が家庭の事情で実家に帰らなければいけなくなった。

今日はそんな二人の送別会がスーパーの閉店後、近所の居酒屋でささやかに行われた。

スーパーでは高校生も働いている為、出席したのは皆、二十歳以上で田中は三浪していたため、出席した。

正社員の他は皆アルバイトやパートで大半は主婦と大学生でしめられた。

三津子の退職も田中の退職もほんと突然のことだった。

特に三ヶ月前、三津子に誘われる形で一緒に働きはじめた澤田さゆりにとってはまさに晴天の霹靂だった。

さゆりと三津子はご近所で、ともに専業主婦をしていた。

年齢も同じ43才ということもあって仲が良く、さゆりには高校生の一人娘のひかるがいたが、三津子には子供がなく、ラッキーというい犬を飼っていたが、こないだ地震が起こったとき、骨董マニアの夫の集めた一番高くて大きな壺が愛犬ラッキーの頭上に落ちて、骨董もろとも頭蓋骨も砕けてなくなった。吉田家にとってはまさにアンラッキーな出来事だった。

一時は三津子は家に引き籠もったが、このままではいけないと思い、気分転換をかねて駅前のスーパーで昼間働こうと仲良しのさゆりを誘ったのだ。

さゆりは生まれてバイトということをしたことがなかった為、はじめは戸惑ったか、三津子のことは三津子の夫からも聞いていたため、断れなかったし、さゆりも気分一新したい気持ちがあった。

さゆりの父は弁護士をしていて、頑固で几帳面な人だった。そんな父の事務所で働くさゆりより9才年上の弁護士の澤田和明と結婚、そして、一人娘のひかるを設けた。

和明は仕事柄、帰りは遅く帰って来ない日も多々あった。また、高校二年生のひかるも母のさゆりよりもさゆりの姉の佳織になつき、佳織の家に入り浸っていた。

佳織はさゆりより二歳年上のバツ2で、現在は携帯コンテンツの社長をしているバリバリのキャリアウーマンで、まぁ、佳織の話しはのちほど。

さゆりと三津子は一緒に朝から夕方の早番で働くようになって、三ヶ月は過ぎようとしていた頃、突然、三津子の夫が転勤することになり、「これ以上の心機一転はない」ということもあって三津子は夫について行くことにしたのだ。

さゆりは三津子がいなくなることに寂しさを感じていたが、三津子の愛犬を亡くした悲しみも分かっていたし、さゆり自身「これが一番いいのかもしれない」と三津子に別れの言葉をかけた。

そんな二人を見ていた店長がさゆりに「まさか澤田さんまでやめないよね」と言ってきた。

さゆりは「え!」と一呼吸おいてから「やめませんよ。足手まといにならないようがんばりますからよろしくお願いします」と答えた。

店長は笑顔で頷き、グラスに入ったいるビールを飲んだ。

さゆりは店長のグラスにビールを注ぐ。

はじめは、さゆりはバイトをしたことがなかったので不安だったが今では、働くことが今はほんとに楽しく、新鮮な気分になれると思っていた。

大学を卒業して結婚するまでの二年ほど働いたことはあったが、それは父の弁護士事務所でのことであって、本当に親元を離れてというのはなかった。

それにここ数年、娘が成長するにつれて、子供に手がかからなくなると同時に家でなんとなく時間をもてあますというか、逆に夫や娘との間に隔たりが生まれつつあるのかなぁ~と感じはじめていた。

だから、こうして同じ世代の子を持つ母親たちと働き、話しを聞いていると、「うちだけじゃない」と思えることで、なんとなく安堵することが出来た。

店長は、さゆりに「これから高校生が中間テストに入ったりして、出勤出来なくなりがちなんだけど、そんな時、夜も入れる?」と聞いていた。

さゆりは別に断る理由はなかったし、夜勤といっても九時で閉店だし、それに、おそらく夫に聞いても「いいんじゃない」の一言で片づいてしまうだろう。

娘のひかるに至っては「一日中、家でゴロゴロしているからいけないのよ。ママほんと遅れてるよ。もっと外に出た方がいいよ。世間っていうものを肌で感じた方がいい!それに現代の女子高生がどういうものか勉強した方がいいわ。私なんて大人しい方よ。ママの時代と一緒にしないで!もう、ほんと、うざい!うざいだけ。少しは佳織叔母さんを見習ってよ!」とこないだ些細なことで口論になったばかり。

さゆりは店長に「別にかまいませんよ」と笑顔で答えた。

「本当は私がやる筈だったんだけど、ごめんね」と申し訳なさそうに三津子が言ってきたが、さゆりは笑顔で首をふり「気にしないで、うちはほんと大丈夫だから。手がかからなすぎて物足りないどころか、逆に娘に邪魔者扱いされてるから」と笑顔でいってみせる。

それを横で聞いていた遅番のパートをしている主婦の田島が酔った顔してニヤニヤしながらさゆりに一言。

「じゃぁ、遅番でも気をつけた方がいいわよ。一人、あなたのこと快く思ってない子がいるから」

「え!?」

「澤田さんは早番でしらないけど、澤田さん、結構、男の子に人気あるから」

その話に三津子が「そうなの?」食いついてくる。

「もう、おばさん捕まえて、変な冗談いわないでくださいよ」

「冗談じゃないわよ。澤田さん、背が高くてスタイルいいから。モデルさんか何かやってた?」

「やってないわよ」

「あら、遅番では元モデルっていう渾名で呼ばれてるのよ」

「そんなのやってません」

「あら、そうなの?でも、まぁ、いいわ」

田島はニヤニヤしながら、「主婦代表でがんばってね!」

「何をがんばるんですか?」

「ん、いろいろ。遅番には遅番のうわさとか、まぁ、いろいろあるのよ」といって田島は笑う。

「何があるんですか?私、遅番の人なんて良く知りませんよ。いつも交代で挨拶かわすぐらいですよ」

「まぁ、それでもあるのよ」

田島は何かこれから面白いことが起こる期待を予想して口を手で覆って笑いを隠す。

三津子も「よく分からないけど、何かあったら教えてね」とさゆりに好奇な眼差しを向ける。

さゆりは黙って、ぬるくなったビールに口をつける。



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