表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お気に入り小説3

束縛の酷い婚約者と嘆いていたのですけど、前世の自分も似たような物だった件について

作者: ユミヨシ

「きゃぁあああっーー。どうしたの?どういう事?」


いきなり乗っていた馬車が暴走しだしたのだ。

何が起きたのか解らない。

何故、馬車がいきなり暴走を始めたのかも。


アレルシア・コレントス公爵令嬢が、もう駄目かと馬車の中で身を屈め、瞼を強く瞑った時、突然、馬車が止まり、その勢いで席から投げ出されたアレルシア。


馬車の扉が開くと、


「大丈夫か?アレルシア嬢」


一人の男が飛び込んで来て、ぎゅっと抱き締められる。


放り出された時に腰でも打ったのか、痛みがあるが、助けが来た事に安堵し、涙を流しながら見上げれば、自分の婚約者であるグラン・ファリア公爵令息が心配そうに見つめていて。


アレンシアは涙を流しながら、


「怖かったですわ。グラン様っ」


「そうだろう。そうだろう。だから、私から逃げようとは思わない事だ。今度は、助からないかもしれないからな」


背筋がぞっとする。


アレンシアは涙を流し続けるしかなかった。

所詮、自分はこの恐ろしい婚約者からは逃げられないのだ。




アレンシア・コレントス公爵令嬢が、政略でグラン・ファリア公爵令息と婚約を結んだのが、互いに2年前の15歳の時。

最初は良かったのだ。


とても紳士的で黒髪碧眼の美男子のグラン。

顔合わせの茶会の時の会話も、面白くアレンシアを笑わせてくれて、彼となら上手くやっていけるとアレンシアは思った。


婚約の話を両親から初めて聞いた時、不安だった。

どんな男性が自分と婚約することになるのだろう。


両親はそんなアレンシアに、グラン・ファリア公爵令息が、とても礼儀正しい優しい男性だと教えてくれて、そして実際に会って、グランに好感を持てた時、とても安堵したのだ。


しかし、グランはとんでもない男だった。


貴族ならば誰しも通う王立学園に入学して、いつもグランはアレンシアの傍にいて、べったりで。


アレンシアが男女問わず他の人物と話をしようものなら、割って入ってくるぐらいに嫉妬深かった。


女性の友達と話をする事も出来ない位に、グランはアレンシアの傍にいて、


「アレンシアは私の婚約者だ。他の者と親しくしてはいけないよ」


「わたくしだって、お友達と親しく話をしたいわ。女性だったらよいのではなくて?」


「その女性から、身内の男性を紹介されたらどうする?私は心配なのだ。アレンシアはとても可愛い。そして美しい。私は君を傍に置いておきたい。私だけを見ていて欲しい」


「ここは学園。交流を広げる場でもあるのですから」


「アレンシア。君は私の婚約者だ。私の言う事は絶対だ。だってそうだろう?私は君の将来の夫なのだから。君はファリア公爵夫人になるのだから。ファリア公爵夫人である君に社交は必要ない。王都で華やかに社交をするより、一緒に領地に籠って貰おうと思っているからね」


そう言って、常に傍にいてアレンシアに自由はなかった。


アレンシアは、家に帰ると両親に。


「お父様、お母様。グラン様の束縛が酷くて。わたくし、ファリア公爵家に嫁ぐ自信がありませんわ」


しかし、父コレントス公爵は、


「政略だという事をお前だって解っておろう。ファリア公爵家との事業提携は今、欠かせない」


母であるコレントス公爵夫人も、


「我慢して頂戴。我が公爵家の為に」


逃げたい。とてもじゃないけれども、束縛が強くて強くて。


お休みの日にもグランは訪ねて来て、町中をデートする。

その時はとても優しいのだけれども、お店の人と話をしようものなら、割って入って来て、


「駄目だろう?私以外の人と話をしては」


「わたくしは商品の事を聞こうと」


「それなら、私を通じて、店の人に聞いてあげるから」


あああ…辛い。苦しい。

だから、隣国の叔母の元へ逃げようと思った。

両親に内緒で、叔母の元へ密かに手紙を送って、逃げようと思った。


どこでグランにばれたのだろう。


何故、馬車が暴走したのだろう。

御者が買収されていた?


アレンシアは、諦めたかのように、グランの身にその身を預けるのであった。


グランはアレンシアをお姫様抱っこして、


「結婚は早た方がいいな。君が逃げ出さないように。そうだ。領地の屋敷に君専用の部屋を作ろう。そこで君は過ごすがいい。何だったら王立学園を卒業する前に結婚してしまおうか」


ぞっとした。

ファリア公爵家の領地の屋敷に閉じ込められたら、一生、出る事は出来ないだろう。


アレンシアは、今は、彼を怒らせない方が良いと判断し、


「解りましたわ。今日の所は、わたくし、家に帰りたいと思いますの」


「解った。しかし、君が逃げようとした事をしっかりと報告させてもらうよ」



コレントス公爵家に連れ戻されたアレンシア。

両親はひどく怒って、


「部屋に閉じ込めておく。政略による結婚を何だと思っているんだ」


「本当だわ。反省しなさい」



部屋に閉じ込められてしまったのだ。


アレンシアは嘆いた。

わたくしは……一生、籠の鳥になってしまうの?


部屋の窓から外を眺める。

その時、急に風が強く吹いて、バァンと窓が開いて、アレンシアは床に転がった。


ぱぁっと広がる過去の記憶。


アレンシアは前世の記憶を思い出した。



グランは、前世では英雄だった。幾多の魔物を倒し、英雄オルディウスと呼ばれて人々に敬われていた。


オルディウスは女性にモテて、沢山の華やかな女性達に囲まれて。


アレンシアは、レガーテと呼ばれる王女だった。


「オルディウス。今回もドラゴンを倒したそうね」


「これはレガーテ王女様。ドラゴンの素材で作らせたこの銀の鎧。如何でしょうか」


銀の鎧を来て、夜会に現れたオルディウス。

沢山の令嬢達がうっとりとした瞳でオルディウスを見つめ、群がっている。


その女性達を見て、アレンシアはイライラする。


オルディウスはわたくしと結婚するの。


わたくししか見てはいけないの。


あの美しくて強いオルディウスを手に入れたい。

わたくしだけの物にしたい。


ああああっ…わたくしだけのものにしたいのよ。


「オルディウス。後で特別な杯を取らせましょう」


「王家秘蔵の美酒ですか?」


「ええ。わたくしもいくつか所蔵しておりますの。後で一緒に祝杯をあげましょう」



オルディウスを自室に呼んで、彼にお酒を飲ませたの。


お酒を注いで、二人で乾杯したわ。そうしたら、オルディウスはソファの背に倒れこんで、

お薬が効いてきたようね。

「身体の自由が利かないのではなくて?」


「レガーテ王女様。何故?」


「わたくしだって貴方の事を愛しているのよ。それなのに貴方は」


「あああっ。やはり貴方様も私の事を。私の生きる道は、王国に仇をなす魔物を倒す事だ。いつも危険が伴う。だから、レガーテ様のお気持ちを解っていながら、お答えする事は出来なかった」


「でも、もう、どうでもいいの。王国の魔物は、他にも倒す人はいるでしょう。でも、貴方は一人しかない。わたくし専用の部屋に閉じ込めるわ。そう、一生。この首輪は隷属の首輪。わたくしの言う事に逆らえない首輪。もう、どんな女性にも貴方の姿を触れさせはしない。受け入れてくれるわよね」


そう言って、わたくしは隷属の首輪をオルディウスの首にはめたわ。


「レガーテ様がお望みならば」



それから、一生、オルディウスを監禁したの。

誰にも見せない触れさせない。


わたくしの愛するオルディウス。


彼が年老いて寿命で死ぬまで、ずっとわたくしだけの物にしたの……




そんな前世の記憶がよみがえって、


わたくしがされようとしていた事は前世、わたくしが彼にした事と同じ事?


今度はわたくしがされようとしているの?


隷属の首輪をした後の彼はおとなしかった。

おとなしく監禁生活をして、わたくしを愛してくれたわ。


逆を求めているの?

前世のわたくしの罪がそのままわたくしに返ってきたの?



グランに会おうと思った。


両親に頼んで、グランにこの屋敷に来てもらう事にした。



グランはノックをして、部屋に入って来た。


「一月後には結婚式だ。楽しみだよ。アレンシア」


グランに強く抱き締められた。


アレンシアはグランの顔を見上げて、


「ねぇ、聞いて欲しいの。貴方は前世を覚えているのかしら?わたくしが貴方にした罪を覚えているのかしら?」


「前世?なんのことだ」


「正直におっしゃって。覚えているのよね?」


「さぁ知らないな」


グランから離れると、まっすぐグランを見つめて、


「わたくしは思い出したの。前世のわたくしは貴方を部屋に閉じ込めたわ。嫉妬のあまり、貴方を一部屋に閉じ込めて、隷属の首輪をつけて。もしかして仕返しをしようとしているのではなくて?」


「前世だって?馬鹿馬鹿しい。君は夢でも見ていたのではないのか?そんなもの存在するものか」


「貴方は前世ではおとなしく、閉じ込められて、わたくしの言う事を聞いてくれた」


「隷属の首輪を着けられていたのなら、聞かざる得ないのでは?私は知らない。前世なんて知らない」



悪かった。と謝ろうとした。

しかし、アレンシアは思ったのだ。


自分は彼を独占出来てとても幸せだったと。

でも……だからって、現在、彼によって閉じ込められるだなんて、嫌だ。

そう思った。


なんてわたくしって我儘なのかしら。


彼を閉じ込めるのは良くて、自分は閉じ込められたくないなんて。


前世、彼を閉じ込めておきながら、自分は社交を楽しんだ。

勿論、浮気なんてしなかったけれども、ずっと彼と一緒にいたわけではない。

美味しい物を外で食べて、時には旅行に行って。


そんな話を閉じ込めた彼に沢山自慢をした。


今、思えばなんて酷い女だったのだろう。

彼は旅行から帰って来た自分の話を聞いてくれて、優しく愛してくれたけれども。


アレンシアは叫んだ。


「貴方は、わたくしに復讐したいの?わたくしを閉じ込めたいだなんて」


グランは笑って、


「復讐?なんのことだ。ただ、私は愛しい君を他の人達に触れさせたくない。独占して閉じ込めたい。それだけだ」


「わたくしは嫌よ。わたくしだって、もっと旅行したり美味しい物を食べたり、色々としたい。他の人達と色々と話をしたい。どうしてわかってくれないの?」


アレンシアの言葉にグランはぽつりと、


「私は君の為に我慢したんだ。君が望むならと監禁生活に耐えたんだ。だって、アレンシア。いや、レガーテ様。貴方の事を愛していたから。だから、君だって耐えてくれるよね」


涙が出た。

やはり彼は覚えていたんだ。

自分がやった事を。彼を監禁した前世を。


グランの顔があまりにも悲しそうだった。

前世のオルディウスの顔を思い出した。


いつもどこか悲しそうだった事を。


彼だって外で自由に生きたかっただろう。

その翼を折ってしまったのは自分だ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいっ」


「アレンシア、君を泣かせたくはなかったんだ。馬車を暴走させて怖い目に遭わせてごめん。君を監禁したかったけれども、君を独占したかったけれども君だって望んでいないよね。前世の私だって監禁生活は辛かったんだから。だから、さようなら。お互い、別の人生を歩んだ方がいいと思うんだ。だから婚約解消しよう。なぁに、いかに政略とはいえ、話し合いをすればどうにかなるはずだから」


そう言ってグランは部屋を出て行った。


アレンシアは部屋を出て行ったグランを廊下で呼び止めた。


「だったら、オルディウスっ。いえ、グラン様っ。わたくしとやり直しましょう。まともな恋愛をっ。まともな夫婦関係を。まともな愛をやり直しましょう」


「まともな愛……出来るかな」


「ええ。まともな愛。二人でやり直しましょう」



アレンシアは走っていってグランに飛びついた。

グランは抱き締めてくれた。

そう、まともな愛。やり直しましょう。二人で。



王立学園で、グランは女性相手ならば、極端に嫉妬をしなくなった。それはいいのだけれども、アレンシアだって前世を思い出したら、グランを束縛したくなったのだけれども、やはり、グランの人間関係に口出しをしないようにした。


互いに良い距離感で、良い恋愛を……やがてはよい夫婦関係を。


アレンシアは思う。


今度こそ間違えない。

グラン様、一緒にやり直しましょう。


アレンシアはグランと後に結婚した。


互いに監禁なんかはせず、社交もそれなりに行い、色々と一緒に出かけて、美味しいものを楽しんで、素敵な結婚生活を送った。


亡くなる時にアレンシアはグランと約束した。

来世もきっと巡り会って、もっともっと素敵な恋愛を楽しみましょう。

素敵な結婚生活を送りましょう。



わたくし達は運命の赤い糸で結ばれているのだから。

来世も又、会いましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ