婚約は辞退する
オードリックの呪いを解除して数ヶ月。すっかり元気になったオードリックは、現在勉強と剣術の稽古を頑張っているらしい。
私は時々そんなオードリックと時々会っている。
婚約者としてではなく、お友達として。
「エリアーヌ、本当に第一王子殿下との婚約は辞退するの?」
「はい、お母様。オードリック様にはもっと素敵なパートナーがいるはずですわ」
「でも…」
私は、婚約者候補ではあったが辞退すると宣言した。オードリックは残念がっていたが、こればかりは譲れない。
悪役令嬢になるのはごめんだ。
父と母には怒られるかもと思ったが、二人とも私の意思を尊重してくれている。
「オードリック様は私を大切な友人と言ってくださったのです。それで十分ですわ」
「…そう。これが最後のチャンスなのだけど、それでもいいのね?」
「はい」
「では、改めて国王陛下に辞退をお伝えするわ」
優しい母で助かった。
「オードリック様!ご機嫌よう」
「エリアーヌ。ご機嫌よう、今日も元気だな」
「ええ、オードリック様もお元気ですか?」
「おかげさまでな」
今日も今日とてオードリックのところに遊びに来た。第一王子の第一の友人として、なんだかんだで好き勝手にさせてもらっている。
「エリアーヌ、せっかく来てくれたんだしお茶にしようか」
「ありがとうございます、オードリック様」
私が遊びにくると、オードリック様はいつも美味しいお茶とお茶菓子を用意してくれる。
優しい。
「それで、結局本当に俺との婚約は辞退したらしいな」
「ふふ、オードリック様にはもっと相応しい方がいますもの」
「そうか。…そう言ってもらえるのは良いことかもしれないが、俺としては残念だ」
「え?」
「君となら、一緒に手を取り合って国を守ることが出来るだろうと思っていた」
本当に残念そうな表情。そんな風に思ってもらえたのは嬉しい。
けれど、悪役令嬢になるわけにはいかないから…。
「ごめんなさい。でも、きっと私ではダメだと思うのです」
「そんなことは…」
「私は、オードリック様を友人としてお支えして行きたい。婚約者になったら、きっと色々振り回して傷つけたり迷惑をかけたりしてしまいますわ。ごめんなさい」
「…そうか。君は本当に優しいな」
「え?」
だいぶ身勝手な主張だと思ったのだけど。
「俺の将来を考えて辞退してくれたのだな。…残念だ、本当に残念だが…君の配慮を無下にはしない。君がそう言うのなら、受け入れよう。…その代わり、これからも友人として遊びに来てくれよ?」
「は、はい」
なんだか良い方向に勘違いされた気がする。